一景一献 「記憶の一景と今日の一献 」 【福島旅行】五色沼(裏磐梯)・檜原湖、鶴ヶ城と大内宿 #今日の一献「写楽」と「紀土」
▶プロローグ―五色沼(裏磐梯)2025.11撮影
景色の記憶は、
ときに血縁よりも深く、
その人の体内に流れる。
祖父の出身県、福島。
私はその地を、
一泊の紅葉狩りの旅で、
再び歩いた。
過去と現在が、
秋の光の中で重なり合う。
▶檜原湖と磐梯山 ― 静けさの奥行き 2025.11撮影

檜原湖にでるとすぐ、
ゆるやかな稜線を描く磐梯山
が胸をはっていた。
湖は空を抱き、
風の通り道だけが、
水面に細い線を残す。
記者として、
この地を訪れていた頃、
私は景色を「伝える対象」
として見ていた。
いまは違う。
隣にいる人と、
同じ風を受け、同じ光を
浴びている。
言葉にしなくても
伝わる時間がある。
それが、いまの旅だ。
▶鶴ヶ城と大内宿 ― 時の層を歩く 2025.11撮影

かつて、満月に照らされた
鶴ヶ城を見上げた夜がある。
若い写真記者だった私は、
白壁と月光の対比に
言葉を失った。
あの光景は、いまも胸の奥に
残っている。
そして今回。
目の前にあるのは、
澄みきった青空の下に
そびえる鶴ヶ城。
凛とした天守は、
秋の陽射しを受け、
どこか穏やかに見えた。
夜の城が
「緊張」だとすれば、
昼の城は「包容」だ。
歳月は、景色の印象さえ
変えていく。

城をあとにし、
向かったのは大内宿。
茅葺き屋根が連なる一本道。
山に抱かれた集落は、
時間の流れから少しだけ
離れているようだった。
紅葉が屋根越しに揺れ、
観光客の笑い声が、
やわらかく空に溶ける。
江戸の面影を残す宿場町を
歩きながら、
ふと、祖父の姿を想像する。
この福島という
土地に生まれ、
時代を越えて
受け継がれてきた暮らし。
城が「歴史の象徴」なら、
大内宿は「生活の記憶」だ。
石畳でもなく城壁でもない。
土と木と人の営みが、
ここにはある。
青空の下の鶴ヶ城。
山あいに息づく大内宿。
時を超えた風景に、
自分が立っている。
▶今日の一献
写楽 純米酒(福島県)
紀土 純米吟醸酒 ひやおろし(和歌山県)

今夜の一献は、
福島・会津の銘酒「写楽」。
透明感のある香り。
口に含むと、
やわらかな旨みと
凛とした酸が静かに広がる。
派手ではない。
だが、芯がある。
盃を重ねながら、ふと思う。
会津藩と紀州藩。
戊辰戦争という
激動の時代を経て、
敗れた会津の人々に手を
差し伸べた紀州の温情。
遠く離れた二つの土地は、
歴史の深いところで
結ばれている。
写楽を味わいながら、
その記憶に思いを
巡らせていると、
傍らにあったもう一本の瓶
に手が伸びた。
紀州の酒、紀土。
写楽の余韻を
受け止めるように、
やわらかな香りが
立ちのぼる。
福島と和歌山。
会津と紀州。
時代を越え、土地を越え、
盃の上で再び出会う。
歴史は、
こうして静かに酒を酌み
交わす中にも、
確かに息づいている。
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