春風によせて
▼今週のお題
■セリフ
「ずるいね」
■三題
・屋上 ・春一番 ・ローファー
▼投稿ルール
・投稿締切(任意):2026 年3月5日(木)23:59
・ハッシュタグ「#せりふ三題噺」「#屋上春一番ローファー」をつけて
投稿
ねえちゃんねえちゃん!
なんだ? 妹よ。
学校で、宿題出たんだ。
どれ、見せてみよ。
これだよ。
なになに?
「 春一番 という言葉を使って、俳句を作ってみよう 」
ほほう。して、お前の作は?
もう出来ているのだろう?
うん。見て?
春一番 となりはなにを する人ぞ
しぼやへのくさいたうょしんふか : えたこ
なるほど。
お前らしくて良い句だが、なぞなぞにする必要はあるのか?
ない。でもね!
でも、注目してもらいたいんだ。 今回は、 とくに。
ははあ、さては、かの日にチョコを贈った教師というのは、
国語科の受け持ちであったか。
あ! いや、 ああのあの、 ……そう。
ふーむ。ならば、これではいかんのではないか?
愉快なやつ、という評価が定まりかねん。
どうすればいいかな。
私もその辺りの事情には疎いからな。
そうだ、思わせぶりな表現を織り込んでみる、というのはどうだ?
たとえば?
そうだな。うん。
こんなのは、どうだろう。
春一番 ほころぶ前に 散る朝
えーと、 ちるあさ ?
それだと音が足りない。これは、あした、と読ませる。
ちょっと知的な感じがしないか?
国語教師なら気づくだろう。自負をくすぐる効果を狙ってみた。
普段のお前の風体からして、きっと、ぎゃっぷもえ、が期待できる。
ねえちゃん、あたし、ばかじゃない。
すまん。そんなつもりではなかったが。
それで?
おう? 続けるか?
では、まず明日は、一番に登校する。
えー、むりだよーう。
この計画はそこが肝心なのだ。正念場だと思って気合いを入れよ。
で、職員通用口横、7mほどの間隔を取って、壁に陣取る。
後ろ手で軽く寄り掛かり、視線は足元に据える。
あれ?どうしたのかな。程度の注意は引くが、声はかけづらい距離感を
保つべし。
??? なんで?
無用なセクハラを誘発したくはないだろう?
ターゲットがやってきたら、こちらを認めたタイミングを見計らって、
走り寄り、俯いたまま無言で、両手を差し伸べ、宿題を提出する。
ふーん? できると思うけど……。
ならばよし。
続けて、頃合いを見て、これ見よがしに、階段を駆け登る。
これは、目撃者が多ければ多いほど良い。
屋上への扉には、常時鍵がかかっているか?
たぶん。 まえにおこられてた人がいたし。
仕方ない。今夜中に開錠しておこう。
で、屋上に出たら、そのまままっすぐ手摺りまで進み、
お前の通学靴、ローファー?を脱いで、揃えて置く。
ここまでくれば、大方準備完了だ。
後は事が起こるまで、身を隠して待機。
がんばる。
ここまではメモしたか?
時至って始業のチャイムが鳴り響き、教室では点呼が行われる。
秋葉さん、井守さん、内海さん、
すごい!合ってる。ねえちゃんなんで知ってるの?
偶然とは恐ろしいな。で、次は、清水谷さんだ。
はーい
お前は屋上で潜伏中だろうに。
いつもはそこに涎を垂らしながらつっぷしている級友の席が、
今日に限って空いている事に、ようやく皆が気づく。
ねえちゃん。あたしばかじゃ
物の例えだ、気にするな。
そこで先ほどのこれ見よがしがものを言う。
先生!今朝方、清水谷さんが階段を駆け登るのを見ました!
そういえば! 私も僕も見たよ見た。ざわつく教室。
場を鎮めようとする教師は、ふと、
上着のポケットに入っている物を思い出す。
確かに、あの様子は普通じゃなかった。
慌てて開いてみると?
ちるあさだ!
あしただと言うに。
その意味する所を察した分裂気質の青年教師は、青ざめる。
けっこうマッチョだよ? たぶん腹筋われてる。
そういうのが好みか? まあいい。浮き足立つ生徒を制し、
君たちはここで待っていなさい。私が確かめて来よう。
息を切らして追い駆ける教師。まさか、そんなことは。
嵩じる不安。高鳴る鼓動。冷たいものが背を、額には汗が。
戦慄く手ももどかしく、開け放つ扉の向こうに見えたのは?
えーと、くつ?
ご名答。
遅かったか! 暗い想像に打ちのめされ、よろめく脚で、近寄る。
迫る絶望に、醜く歪み、暗転する日常。
あわわわわ。
その時、背後に、
乾いたシャッター音?
力なく振り向く視線の、その先に、
スマートフォンを眼前に構えた、制服の少女の、白い素足。
くつした履いてる?けど?
そんなもん事前に脱いでおきたまえ!
せんせい、気づいちゃったね、あたしの、きもち。
それから、 あなたの
果たして、その先の言葉は、終に継げず。
何故なら。
力ずくで抱き止められ、息もつけない。
絞り出される、かすれた声。
馬鹿だな。本当に、馬鹿だ。
ねえちゃんあたし
シャラップ! いまいいとこ!
帰って来ない教師を心配した生徒たちが、おそるおそる伺う一部始終。
どうやら回避された危機を前に、安堵が広がる。
同時に盛り上がる、若人らしい浮ついた気分。
更には喝采。ひやかしの指笛さえも。
その日は二人にとって、また皆にとっても、
永遠を目撃した、最初の日。嗚呼。
はい、ねえちゃん。ティッシュ。
ありがどういぼうどよ。ちーん!
どうだい?これだけお膳立てすれば、効果的に事が運ぶのではないか?
うーん、すごくおこられて、ぜんぶおしまいにならない?
案ずるな。証拠写真は確保済み、目撃者の証言にも事欠かないから、
万が一の備えも万全。後は押しの一手だ。
うわあ、なんだかずるいね?
そうか? 恋の駆け引き、などと言うのだから、
狡猾な者同士でやるものなのだろう? 用心に越したことはない。
こうしちゃおれん。早速忍び込んで
どこ行くの?ねえちゃん。晩ご飯は?
無用だ。
なぜなら、私は明日健康診断だからな。
20時以降は摂ってはならんそうだ。
このお話には、一つだけ事実が含まれます。
早起きしなくちゃ。めんどくさいなーあ。
