大三角形を作る不規則な関係性
向かいの席には、二人の女性が座っている。私は必然的に、こういう状況になってしまうことを疑問に感じていた。
なぜ、私はどちらかの女性の隣に最初から座る選択肢を省いてしまっていたのかということだ。この日、待ち合わせに遅れた私は、同性の友人一人と異性の友人二人とお酒を交わす約束をしていた。
友人の枠が人より大きい私からすると、これから先の発展を望めるかも知れない異性の友人二人というのが正しい表現かも知れない。
不可抗力で、遅れることになった私は、待ち合わせ場所へ向かう電車に乗りながら、三人のことを考えていた。もし、私が三人ならば、春の大三角形になれたのではないかと。春に大三角形があるのかは知らないが、夏と冬にもあるなら私も春にエントリーしても良い筈だと考えていた。
私の人生で、これから発展するかも知れない異性二人とお酒を交わしながら、三角形を作ったことは今までなかった。
私が訴える春の大三角形とは、一つのテーブルで私の隣に異性。私の正面に異性。という奇跡の挟まれ方をしている状態をいう。
どこを見ても異性ということだ。
私は、四十三年生きていて、ひとときでも異性二人に挟まれて三人でお酒を交わしたことがないことに気付いたのが三十代だった。この時ほど、なんのために生まれて来たのかを考えたことはない。
逆に、怒りの逆三角形なら数えきれないほどある。この場合、ほとんど私以外の友人同士が出来上がる。私は出来上がり製造機なのではないかと塞ぎ込んだ二十代を思い出す。
この日、意図せず遅れたことにより友人が、春の大三角形のチャンスに恵まれていることに気付いてしまっていたのだ。私は、あと15分ほとで到着するとメッセージを入れた。
既読にならない。
既読にならないどころか、どこのお店にいるのかすら連絡が来ていないことに気付いてしまっていた。
春の大三角形は、始まっている。
私の直感が叫んでいた。繋がらない連絡ほど人を不安にさせる。妄想癖が強い私からすると、すでに同性の友人は、三角形の頂点として正三角形どころか二等辺三角形としてその寵愛を一身に受けているような気がしていた。
この均衡をお前は崩せるのか。
私は、私の中の私を追い込んでいた。これを崩せないのなら、この先二度と春の大三角形を見ることは出来ないと思えと。
待ち合わせのお店の場所は、分からずじまいだったが、お酒を交わしているエリアは知っていたので、私は迷うことなく合流出来た。私は、一分一秒を無駄にすることなく合流した自分を褒めたくなっていた。
何気なくこれから発展するかも知れない異性二人を確認しようとすると、一人そこにはいなかった。まさか、二人きりだったのかと急いでテーブルを確認すると、グラスはきちんと三つ認めることが出来た。
つまり、どこかに行っているのだろう。
四人がけのテーブルに、友人とこれから発展するかも知れない異性一人が向かい合って座っていた。見たところ、異性の横にグラスが置いてあるところを認めることが出来た。
つまり、友人は春の大三角形に失敗している。対角線上に一人の異性を配置する残念な不規則三角形だった。
これはチャンスだ。
私がさりげなくこの瞬間に、友人の対角線上に座る事が出来れば、春の大三角形は意図せず完成することを意味していた。
駄菓子菓子、異性側の背中には背もたれになる壁がある。この後、私のつまらない話を聞かされ疲弊する。その時に出来れば、このままゆっくり寄り掛かりたい時に壁に寄り掛からせてあげたい。
こんなところで、何にも面白くない自分を責めて、真摯な紳士が出て来てしまうのも悪い気持ちはしなかったので、私はこれから発展するかも知れない異性に「隣に座ってもいいかな?」とアイコンタクトをした。アイコンタクトは、一流だと思っている。
これから発展するかも知れない異性は、上目遣いで私を認め、アルコールにより潤んでいる瞳を隠そうとしないで答えてくれた。
「そこ、空いてるよ」
「ああ。知ってる」
私は、この異性は、急に攻めると照れるタイプの女性なのだなと瞬時に思い直すことに成功して、友人の隣に座ることになった。
結局、不規則三角形を作ることになり、正面にこれから発展するかも知れない異性二人を見ることになったのだが、正面から認める二人の異性も、グラスを持つ姿や、話しながらも気を配る所作を感じてしまい、私は満足してしまっていた。しかしながら、なぜこういう状況に陥ってしまったのかは、理解出来なかった。
まだチャンスはある。そうやって変換し、すぐにへこたれない、そう思えるような大人になった自分を強く感じていた。
強めのお酒を友人に薦めて、早めに酔わすことを私は考えていた。友人は酔うとゆらゆらし始める。
私が合流して、三十分を経過しないうちにその時は訪れた。計画通りだ。ゆらゆらしている友人に背もたれになるような壁は存在していなかった。私は、スムーズに一切の下心を溢れさせずに言葉を紡いだ。
「危ないから、席替えようか」
完璧だった。もうこの理由以外で、この年齢になると、席替えなどは合コン以外には起きないことを知っていた。
私の正面にいる一人のこれから発展するかも知れない異性が、声を上げてくれた。
「じゃ、私席替わるよ」
その優しい声に抱き締めたくなったのだが、それより頭に浮かんだのは別の事実だった。このまま友人と入れ替わるのみだと不規則三角形になる。私の正面が友人だ。出来ればそれは避けて春の大三角形に挑戦したかった。ただもう一つ私の脳裏には、これとはまた別なことが浮かんでいた。
このまま私の隣に座れば、それは私の左隣に座ることになる。女性は左隣に座らせて右脳で感じさせれば、好きになりやすいと聞いていた、それをいつか試してみたいと思っていたはなしが、急に頭に降りてきてしまっていた。
究極の二択だ。夢を叶えて大三角形を作るか、下心のまま左隣に座ってもらって私を受け入れてくれと願うか。
夢か下心か。
私は、結局何も言えずにニコニコしながら左隣に座ってもらった。
なんのはなしですか
いつか、きっと下心に打ち勝ち、私の大三角形の夢を叶えたい。
これを、春になると思い出す。

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