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 サクラが咲くことを知らない日本人は、どれくらいいるのだろう。と、先日友人とそんなはなしになった。その結果、少しだけ感傷的になってしまったこの日を綴ることにする。

「今年は、昼にサクラを一緒に見たい人がいるんだ」

 彼は、私にそういう風に話しかけてきた。昼にサクラを一緒に見たい人。いつだって彼は含みを持たせて私の興味を誘うように話す。

「その答えは俺にだってすぐに分かる。つまり夜しか会えないんだろ?」

 私は、彼がここ最近、かなりお気に入りの夜の蝶が出来たことを知っている。今や、私とはなしていても、そのはなしの大半がネコ顔の女性のはなしだった。夜の照明の下でしか会えないネコ顔の女性を太陽の下で味わいたいという願望だった。これは、お金だけの問題ではなく、ある種の壁を壊す必要があるタイプの悩みだった。

 そんな彼のタイプは、主に二つに分かれている。ネコ顔かネコ顔ではないかの二つだ。今回のお気に入りのタイプの女性は、ネコ顔の方だった。そして、彼がネコ顔を好きになる時は必ずといって良いほど、かなり厄介だった。

 過去のネコ顔女性を、現在好きなネコ顔女性に対してその面影を重ねてしまうからだ。その忘れることが出来ない厄介なネコ顔女性と彼は、付き合っていたことがある。もう何十年も前のはなしになる。私は、彼の付き合っていたすべての女性と、この四半世紀で会っている。そのすべてだ。

 その中には、大きなお花のボンボンを頭に咲かせた女の子や、別れてから何十年も経過しているのに、いまだに私のことが一番好きだったと言い張る女性。知らない間に付き合っていたことになっていた女性、そして、自らを女王と名乗る女性など多岐に渡り、彩り豊かだった。その中でもお花を頭に咲かせたボンボンの女の子は、ネコ顔で厄介だったのだ。

「なぁ。女の子ってデートする時、頭にでっかいお花のボンボン付けてくるものなのか?」

 いまだにこの質問の衝撃を覚えている。まず、私には当時彼女など一人もいたことがないのを知っているのに、この質問を投げてきたこと。そして、もう一つは頭にでっかいお花をキレイに咲かせたボンボンを付けている女性というのものが、私の想像をはるかに超えてしまっていたため、瞬時に思い浮かべることが出来ない悔しさ。

 それでも、平静を装って私が彼に返答した答えは一つだけだった。

「そのお花の種類にもよるが、もしキレイに咲いているのならいっぱいお前に見て貰いたいんだろうな」

 私は、頭に大きなお花を咲かせたボンボンを付けた女の子にとても興味が湧いた。なぜ女の子は、わざわざ頭に花を咲かせる必要があったのか知りたくなっていた。お花はそもそも咲くために存在していて、女の子としてすでにキレイに咲いている女性が、そこにさらにお花をつけてしまうとキレイ同士で反発しあい、キレイの台無し現象になっているのではないかと十代ながらに危惧していたのだ。両雄並び立たず。そんなにもったいないことをする必要が本当にあるのか。十代の危うさというものは、そこまで危ういものなのか。そこに存在すると思われる、脆さゆえの繊細な美しさを感じていた。その危惧を悟られないようにし、私は彼に聞いたのだった。

「毎回、咲いてるんだ」

 ネコ顔の女性が、毎回頭に花を咲かせている。これはとても厄介だ。美の共演が狂演になってしまってはいないのだろうか。

「毎回キレイに咲いている女性を今まで俺は見たことないんだ。一度この目で確かめてみたい。お前の次のデートはいったいどこで何をするんだい?」

「明日、サクラを見に公園に行くよ」

 私は、耳を疑った。私の地元のソメイヨシノは満開だった。誰もがサクラを愛でる日に、本当にそのネコ顔の女性は、頭にお花を咲かせる勇気を持って、彼に会いにくるのだろうか。そして、私はなぜかその瞬間を見逃してはならない気がしてしまっていた。

 「なぁ。俺もその公園に行く。ただ一緒には行かない。もし本当にお前が言う通り、毎回キレイに咲かせているのだとしたら、明日だってキレイに咲いていても良い筈だ。もし頭に満開のお花が咲いているのなら、それこそ俺でもすぐに見つけられるはずだ」

 私は、満開のサクラの下で、満開の花をキレイに咲かせている女性を見てみたかった。そして、その美しさは、どちらが勝るのかを知りたかった。

 待ち合わせは、お昼だという。満開ともあって運動公園には、たくさんの人がサクラを愛でに来ていた。もしかしたら、桜を愛でるサクラ役を演じているのかと思うくらいだった。私は、歴史的瞬間に立ち会う高揚から待ち合わせの三時間前には運動公園入りを果たしており、色んなシミュレーションをすでにこなしていた。

 スレ違うパターン。後ろから追うパターン。並走するパターン。待ち伏せパターン。ジョギングを装うパターン。望遠鏡を使い、遠くから観察するパターン。

 そのどれもが上手くいきそうで、ワクワクしていた。約束の時間がやってきて、私が選択したのは、待ち伏せパターンだった。

 なぜならば、急な坂を登ってくる形で二人は登場するからだ。坂の先の少し高いところから見下ろす形が、一番先に頭から目視で頭にキレイに咲いているお花を確認出来るのではないだろうかと考えたのだ。

 出来れば、一番に満開の頭を見てみたい。

 満開のサクラと満開の頭。目撃する自分がいったいどうなるのか知りたかった。

 心の準備をしながら待っていると、その瞬間はすぐにやってきた。駄菓子菓子、それを理解するには、私にはかなりの時間が必要だった。

 満開のサクラの下を歩きながら、仲良く手を繋いでくる二人。頭には、確かに黄色いお花が満開で咲いていた。

 二人の頭にキレイに咲いていた。

 想定外だった。人生で一番の想定外がこの瞬間かも知れなかった。

 ペアで頭にキレイに咲いている。

 ペアルックならぬペア満開。

 彼は私にすぐに気付き、私も彼にすぐに気付いたのだが、お互いに何も言えることはなかった。

 私は、二人の後ろ姿を目で追いながら、サクラの下で満開の向日葵を二輪咲かせる頭を認め、この瞬間も悪くないと思っていた。

 なんのはなしです花

 サクラが咲くのを知らない日本人がいるのかは分からないが、サクラと向日葵が同時にキレイに咲くということを知っている日本人は、もしかしたら、私だけかも知れないと少しだけ思い出して感傷的になった。

 ネコ顔のお気に入りの夜の蝶と、今年はお昼に二人でキレイに咲かせて欲しいと少しだけ願っている。

 今年も、桜前線で色々生まれて、キレイに散りますように。

 

 

 

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