そのマグネシウム、脳に届いてません|睡眠薬の前に知るべきマグネシウムの形態と睡眠の最新エビデンス
ある睡眠薬 (マイスリー)で眠らせた動物の脳では、 寝ている間に学んだことを定着させるプロセスが約50%低下していた。 この論文を読んでから、不眠の患者さんに睡眠薬を処方する手が止まった。
動物だけの話じゃない。睡眠薬を長期間使っている人は、薬を使わない不眠症の人よりも深い睡眠が少ない。2025年のヒトの研究で明らかになった。
寝ているのに、脳が回復していない。 それどころか、記憶を壊している可能性がある。
じゃあ不眠をどうすればいいのか。睡眠薬を出すのは簡単だ。今夜は眠れる。 でも、長い目で見たときに患者さんの脳を守れているのか。 もちろんブルーライトを避ける、朝に太陽の光を浴びる、などの生活習慣を改善した上で、それでも眠れない時、どうするか。
一つの答えがマグネシウムだった。
しかも睡眠だけの話じゃない。 ある種類のマグネシウム(マグネシウムスレオネート)を6週間飲んだだけで 脳の認知年齢が7.5歳若返った。そんな臨床試験がある。

これは本物かニセ薬か誰にもわからない状態で比較する、最も信頼性の高い試験デザインで出た結果だ。 記憶力も、反応速度も、ストレスへの耐性も改善している。
7.5歳。サプリ1つで、6週間で。話がうますぎるので、むしろ疑いながら読んだ。ただし、効く形と効かない形がある。
日本で出されるマグネシウムでは、脳に届かない
日本で「マグネシウム出しておきますね」と言われたら、ほぼ酸化マグネシウム。 吸収率、わずか4%。 そもそも血液の中にすら入りにくい。
仮に血液に入ったとしても、脳にはさらに届きにくい。
脳には「血液脳関門」という関所がある。血液中の物質を簡単には通さない仕組みだ。 一般的なマグネシウムを点滴で大量に入れても、脳に届いたのはほんの一部だったというヒトのデータがある 。
つまり「血液に入らない」+「入っても脳に届かない」のダブルパンチ。
便秘には効くが、脳を狙うには向かない。
自分は15年以上、酸化マグネシウムを便秘薬として処方してきた。 「お腹を緩くするミネラル」としか認識していなかった。
脳に届く形態があると知ったときはショックだった。 何年もお腹にだけ届くマグネシウムを出し続けていたのかと。マグネシウムは形態によって届く場所がまるで違う。 ここを間違えると意味がない。
マグネシウムスレオネートはMITの研究者が開発した化合物。 さっきの「血液脳関門」を通過できるように設計されている。

ラットに飲ませたところ、24日間で脳内のマグネシウム濃度が7〜15%上がった。同じ実験で比べた他の形態では、この上昇が見られなかった。あくまでラットでの試験内の比較だけど、同じ「マグネシウム」でも届き方が違うことを示している。
眠れない脳で何が起きているか
脳には「アクセル」と「ブレーキ」がある。
興奮させる物質がアクセル。鎮める物質がブレーキ。 このバランスで、脳は覚醒とリラックスを切り替えている。マグネシウムは、このブレーキ側を強化する。 脳の興奮を鎮めて、「もう休んでいいよ」と伝える天然の鎮静剤みたいなもの。
ある経営者さんは毎晩3時に目が覚めると言っていた。 眠りに入れても、深い睡眠が取れない。 朝起きた瞬間からもう疲れている。
実は自分自身も、外来が立て込んだ日の夜に目が冴えて眠れないことがあった。頭では疲れているのに、脳だけがまだ回転している感じ。当時は「今日はハードだったからな」くらいにしか思っていなかった。
論文を読み進めるうちに、どちらも脳のブレーキが弱くなっている状態だと気づいた。だったらブレーキを補助するマグネシウムが役立つかもしれない。
ただ、マグネシウムに行く前に、確かめておきたいことがある。
夜中に何度も目が覚める。長く寝ても回復した感じがしない。自分にこの2つが続いていたとき、自分はブルーライトや食事が悪いのかと思っていただ。けど、検査してみたら中等症の睡眠時無呼吸だった。家族にいびきや無呼吸を指摘されていたり、日中の眠気や夜の頻尿。この辺りに心当たりがあるなら、サプリに手を出す先に睡眠時無呼吸がないかを考えたほうがいい。
脳に届くマグネシウムの臨床試験
睡眠に悩む35〜55歳の80名に、マグネシウムスレオネートを1日1g、3週間飲んでもらった。これも二重盲検、つまり本物かニセ薬か誰にもわからないまま比べる研究だ。
参加者にはスマートリング(睡眠計測デバイス)も装着させている。「よく眠れた気がする」という感覚だけに頼らない作りだ。
深い睡眠が増え、レム睡眠も増えた。日中の活動量まで上がっている。起床後の気分や頭のクリアさも、ニセ薬の群よりはっきり良かった。
たった3週間で、感覚とリングの記録の両方に差がついた。
さらに冒頭で触れた100名の臨床試験。 マグネシウムスレオネートを1日2g、6週間。 脳の認知年齢が7.5歳若返った。 この年齢の幅の中でも、上のほうの人ほど改善幅が大きかった。
50〜70歳を対象にした別の試験でも認知年齢が約9歳巻き戻っている。1本の論文だけで話をしているわけじゃない。加えて別の形態のマグネシウム(ビスグリシネート)でも、155名の臨床試験で不眠の改善が確認されている。脳を狙うならスレオネートが第一候補、というだけで、他の形態が無意味というわけではない。
ただし、いい話だけではない。年齢差の話は探索的解析にすぎない。マグネシウムスレオネートの臨床試験は、いずれもこの成分の製造元が資金を出している。睡眠の試験には2025年に訂正が出て、著者と資金提供元の関係が当初の開示より近かったことが後から明らかになった。
100名の試験のほうは、リングで測った客観的な睡眠指標に群の差は出ていない。万能薬ではない。でも複数の臨床試験で、異なる年齢層でも睡眠と認知機能のどちらにも差が出ている。それも最も厳格なやり方で。
自分はこれらのデータを見て「試す価値がある」と判断して、実際に毎晩飲んでいる。一番ひどい時期は30個くらい飲んでいたけど、そこから削り続けて4つになった。クレアチンとマグネシウムスレオネートは、その4つに残っている。
そもそもマグネシウムは足りていない
世界で約24億人。全人口の31%が推奨摂取量を満たしていない。
なぜこんなに足りないのか。 現代の食事は精製・加工の過程でマグネシウムが大幅に失われている。 白米は玄米の約5分の1。精製小麦は全粒粉の約4分の1。加工食品の摂取が増えるほど、マグネシウムの摂取量は減る。コンビニ弁当や外食中心の生活だと、意識しない限りまず足りない。
しかも厄介なことに、血液検査では見逃す。 体内のマグネシウムの99%以上は細胞の中と骨にある。 血液に含まれるのはたった1%。 検査が「正常」でも、細胞の中では枯渇しているケースが非常に多い。
さらに、ストレスがかかるとマグネシウムは尿から出ていく。 マグネシウムが減ると、さらにストレスに弱くなる悪循環。
コーヒーもアルコールもマグネシウムの排泄を促す。発汗でも失われる。 毎日コーヒー3杯、週に何度か飲み会、ジムで汗をかく。心当たりがある人は多いと思う。
食事で入ってこない。ストレスで出ていく。検査では見つからない。 自覚がないまま足りていない「潜在的な欠乏」の人が、想像以上に多い。
睡眠薬とマグネシウムの決定的な違い
睡眠薬は脳のブレーキを強制的に踏んで意識を落とす。 確かに眠れる。 でも深い睡眠や、夢を見る睡眠が抑制されるものが多い。 依存性もある。
複数の研究をまとめた分析で、よく処方される睡眠薬が深い睡眠を減らし、夢を見る睡眠も抑制すると結論づけられている。
睡眠薬で寝ている間に、昼間に学んだことが定着しない。 寝てはいるけど、脳は十分に回復していない。
一方でマグネシウムは、脳のブレーキを「補助」する形で自然な入眠を促す。 深い睡眠も、夢を見る睡眠も抑制しない。 依存性もない。
ブレーキを補助するのと、強制的にシャットダウンするのは全く別の話だ。
冒頭の経営者にはマグネシウムスレオネートを提案した。 半信半疑だった。 「ミネラルで眠れるようになるんですか?」と。
4週間後。 「夜中に起きる回数は減ったし以前よりリラックスした感じがある。劇的ってほどじゃないけど、朝の頭のクリアさが違う気がする」
正直、プラセボかもしれない。睡眠薬ほどの劇的な効き方はしない。でもそれは安全性とトレードオフだ。
マグネシウムの効果は睡眠だけじゃない
ここまで睡眠の話をしてきたけど、マグネシウムの守備範囲はもっと広い。

自分が驚いたのは、マグネシウムが脳や睡眠の外でもこれだけ働いていたことだ。
認知機能。 2024年のメタ分析で、マグネシウムの適切な摂取が認知機能の維持に寄与する可能性が示されている。冒頭の7.5歳若返りもこの文脈。ただし因果や至適量はまだ確立していない。
慢性炎症。 2025年の28件の研究をまとめた分析で、マグネシウム補充が炎症マーカー(CRP)を下げることが確認された。抗酸化への効果は一貫せず、結論は出ていない。慢性炎症はあらゆる生活習慣病の土台になる。
うつ症状。 2025年の大規模疫学研究(約20年分のデータ)で、マグネシウムが不足している人ほどうつ症状の有病率が高かった。「やる気が出ない」の背景にミネラル不足があるかもしれない。
心血管リスク。 高血圧、不整脈、動脈硬化。いずれもマグネシウム不足との関連が指摘されていて、潜在的な欠乏を心血管疾患の大きな要因とみる研究もある。
筋トレ。 筋収縮にはカルシウムとマグネシウムのバランスが要る。足りないと筋けいれん、回復の遅れ、力の出なさにつながる。自分もマグネシウムを意識して摂るようになってから、夜中の脚の攣りが消えた。前は明け方にふくらはぎがつって飛び起きることがあったのに、最近はない。
便秘薬だと思っていたミネラルが、これだけのことに関わっている。
クレアチンを飲んでいる人は特に読んでほしい
前回のクレアチン記事で書いたけど、脳も筋肉もATPというエネルギーで動いている。 クレアチンはこのATPを再生するサプリ。
でもATPは、マグネシウムと結合して初めて使える状態になる。 クレアチンだけ飲んでも、マグネシウムが足りなければエネルギーをうまく使えない。
ガソリン入れてもエンジンオイルが切れてたら焼きつく。それに近い。
クレアチンを飲んでいるなら、マグネシウムもセットで摂っておきたい。
2024年のレビュー論文でも、クレアチンがATPを再生する酵素(クレアチンキナーゼ)はマグネシウムを補因子として必要とするため、クレアチンとマグネシウムの併用は理論的には相乗効果が期待できるだと書かれている。ただし直接比較した臨床試験はまだ少なく、今後の研究が必要とも結論づけている。
マグネシウムの摂り方ガイド
まず食事から。マグネシウムが多い食品↓
・ほうれん草(ゆで1束で約80mg)
・納豆(1パックで約50mg)
・木綿豆腐(1丁で約130mg)
・アーモンド(ひとつかみ30粒で約80mg)
・アボカド(1個で約58mg)
・ダークチョコ(高カカオ30gで約65mg)
推奨量は男性340〜370mg/日、女性270〜290mg/日。
食事で足りない分はサプリで補う。 形態の選び方がここでは一番大事。

マグネシウムスレオネート: 脳に届きやすい。睡眠と認知機能が目的ならこれ。1日1〜2g(マグネシウム換算で約144mg。大体のサプリの1日分の容量)。
マグネシウムビスグリシネート: 吸収が良くお腹に優しい。リラックス目的に。1日200〜400mg。どちらが合うかは人によって変わる。自分はスレオネートを続けている。
酸化マグネシウム: 便秘には効く。脳にはほぼ届かない。
飲むタイミングは就寝前がベスト。 食後のほうが吸収がいい。スレオネートもビスグリシネートも、日本の薬局では基本的に置いていない。自分は海外通販で買っている。
注意点。 腎臓が悪い方はマグネシウムが体内に溜まりやすい。必ず主治医に相談を。取りすぎは高マグネシウム血症を招く。一部の抗生物質や骨粗鬆症の薬との飲み合わせがある。服薬中の方は2時間以上間隔を空ける。
あと一つ、現場感覚として書いておくと「マグネシウムスレオネートを飲んだら逆に眠れなくなった」という相談を実際に受けたことがある。体質・用量・タイミングで反応がかなり変わる成分なので、メンバー記事のQ&A第2回(マグネシウム・スレオネートで眠れない理由)でその具体例と見分け方をまとめた。
便秘薬としてしか処方していなかった過去の自分へ
自分は医師として15年以上、酸化マグネシウムを便秘薬として処方してきた。でもそのほとんどの期間、「お腹を緩くするミネラル」としか認識していなかった。
脳に届く形態があると知ってから、マグネシウムの見え方がまるで変わった。睡眠の質、認知機能、ストレス耐性、心血管リスク、筋肉の回復まで。
もし、夜の眠りが浅いと感じているなら、まず睡眠に差し障る生活習慣を直したうえで、それでも眠れない時は睡眠薬の前にマグネシウムを試してみてほしい。形態はスレオネートかビスグリシネート。
まとめ
睡眠薬(マイスリー=ゾルピデム)は動物実験で脳の可塑性を約50%下げた(記憶テストではなく子ネコの視覚野での所見)。長期使用者は深い睡眠が少ないという横断研究もある(因果は未確定)
脳を狙うならマグネシウムスレオネートが第一候補。MIT発で、血液脳関門を通過しやすいよう作られ、ラットでは他形態より脳内濃度が上がった(他形態が無意味という意味ではない)
RCTで脳の認知年齢が6週間で7.5歳若返り(複数試験。ただしいずれも製造元の資金提供で、差が出ない試験もある)
世界の31%が推奨量未達。99%は細胞内・骨にあり、血液検査では潜在欠乏を見逃す
形態が命:スレオネート(脳)/ビスグリシネート(リラックス)/酸化(便秘のみ)
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参考文献
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