【SF小説レビュー】 絶望をユーモアで笑い飛ばせ! 『火星の人』が教えてくれた「生きるための思考法」 【ランチタイム読書 Vol.6】
まえがき
ランチタイム読書(昼ご飯食べるときだけ読む読書)の第6弾として、今回はアンディ・ウィアーの「火星の人」を取り上げます。
前作まで読んでいた「エンディミオン」シリーズという重厚な宇宙叙事詩の旅を終え、次なる目的地を探していた私の目に飛び込んできたのは、著者の最新作「プロジェクト・ヘイル・メアリー」が映画化されて近日公開というネットニュースでした。
それをきっかけに「まずは原作を読んでみよう」と思い立ち、電子書籍の本棚を確認したところ、驚いたことにすでに購入してありました!
電子書籍セール民にはよくあることです(笑)
ついでに、彼のデビュー作である「火星の人」までもが未読のまま眠っていたことに気づいたのです。
これも「あるある」過ぎていやはやなんとも……。
とにかくまさに運命的な再会?といえるタイミングで、私は火星への旅を開始することになったのです。
「とりあえず買っとけ」的な行動に出た過去の私に感謝です。
いきなり結論?
読み終えてまず感じたのは、SF小説というジャンルがいかに面白いかという、純粋で根源的な喜びです。
本当に優れた物語に出会ったとき、私たちは「面白い」という言葉以外の感想を失ってしまうことがあります。
本作はまさにその典型でした。
同時に、SF小説の魅力を語ろうとすればするほど、ネタバレを避けてその面白さを伝えることがいかに難しいかという壁にも直面しています。
しかし、この興奮を少しでも共有できるよう、言葉を尽くしてみたいと思います。
アマチュア作家の夢を具現化した背景
本作の魅力を語る上で欠かせないのが、著者であるアンディ・ウィアー自身の驚くべき経歴です。
彼はもともと、自身のウェブサイトでこの物語を連載していました。
熱心な読者からの強い要望を受けて単行本化され、Kindleで格安価格で販売したところ、爆発的なヒットを記録しました。
その後、星雲賞海外長編部門やジョン・W・キャンベル新人賞を受賞し、巨匠リドリー・スコット監督によって「オデッセイ」として映画化されるに至ります。
この経緯は、現代のクリエイターにとって一つの究極の夢の形と言えるでしょう。
コンピュータオタクを自認する彼が、自分の好きな科学的知識を詰め込んで書き上げた物語が世界を熱狂させたという事実は、作品そのものと同じくらいドラマチックです。
2億2530万キロ彼方の孤独と向き合う
物語の舞台は、地球から遠く離れた火星です。
有人火星探査ミッションの最中、猛烈な砂嵐によって撤退を余儀なくされたチームの中で、不運な事故により一人の男、マーク・ワトニーが取り残されてしまいます。
生存の可能性はゼロに等しく、次の探査隊がやってくるのは4年後。手元にある食料も資材も圧倒的に足りません。
普通なら絶望に押しつぶされるような状況ですが、本作が特別なのはここからです。
ワトニーは悲嘆に暮れる暇もなく、生き残るための計算を始めます。
居住施設をどう維持するか、いかにして不毛の地でジャガイモを栽培するか、通信手段をどう確保するか。
彼は科学の力を武器に、一つ一つの課題を論理的に攻略していくのです。
究極の適性を持つ主人公、マーク・ワトニー
本作の最大の推進力は、間違いなく主人公マーク・ワトニーのキャラクターにあります。
彼は明るくてユニーク、基本的には楽天家です。
しかし、リスクに対しては非常に悲観的で慎重な、科学者であり宇宙飛行士としての素晴らしい「ライトスタッフ(適性)」の持ち主。
彼が素晴らしいのは、いかなる過酷な状況下でもユーモアを忘れない点です。
死が隣り合わせの環境で、自分を奮い立たせるためにジョークを飛ばし、ログを記録し続ける姿には胸を打たれます。
また、結果的に自分を置き去りにすることになった仲間のクルーたちを恨むどころか、彼らが罪悪感を抱かないよう徹底的に擁護する姿勢には、彼の人間としての高潔さが表れています。
彼の思考プロセスも非常に示唆に富んでいます。
あるアイデアを思いつくと、徹底的な計算と実験を繰り返します。
そして、どうしても現時点で解決できない不明な点については「後回し」とあっさり先送りして、今できることに全力を注ぎます。
この「今、この瞬間の生存」に集中する姿勢は、私たちが日常で困難に直面した際の処世術としても非常に有効ではないかと感じました。
ナード(おたく)の矜持と一つになる地球
火星で孤軍奮闘するワトニーと呼応するように、地球側のNASAの面々の動きも非常に魅力的に描かれています。
特に印象的なのは、窮地を救う革新的なアイデアを提示するのが、組織のトップやエリートではなく、いわゆる「ナード(オタク)」な研究者であったという点です。
ここには、作者自身が持つ技術者としての自負と愛情が投影されているように感じます。
また、一人の男を救うために世界中の英知が結集し、ある意味で「地球が一つになる」描写には、理屈抜きの感動があります。
現実の社会も、いざという時にはこのように手を取り合える世界であってほしいと願わずにいられません。
驚異的な読書体験と次なる旅へ
ランチタイムの限られた時間での読書でしたが、自分でも驚くほどのスピードで読み進めることができました。
これは構成の見事さはもちろんのこと、原文の持つリズムの良さと、それを余すところなく伝えてくれる素晴らしい翻訳の力によるものでしょう。
科学的な解説が多いにもかかわらず、全く退屈させない筆致は圧巻です。
あまりにも面白すぎたため、読了後すぐに本来の目的であった「プロジェクト・ヘイル・メアリー」を手に取りました。
例によってランチタイム以外の時間は開かないようにしていますが、すでに物語の引力に抗うのが難しい状態です。
「火星の人」は、SF好きはもちろん、日々の生活で何らかの壁にぶつかっている全ての人に読んでほしい一冊です。
理屈抜きの面白さと、困難を笑い飛ばす知性の力を、ぜひ体験してみてください。

余談
ちょっとだけ残念だったのが、私の買った版には「著者あとがき」も「訳者あとがき」も「解説」も無かったこと。
(原典や新板にそれがあるのかはわかりませんが)
海外書籍特有のあのクソ長ったらしい謝辞の羅列はまったく不要ですが、普通のあとがきや解説は欲しかったなー
感動した作品なら特にね┐(´д`)┌
あと「プロジェクト・ヘイル・メアリー」が面白すぎてもう読み終わりそうなんですがこれが\(^o^)/
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