読書感想文 「「好き」を言語化する技術 推しの素晴らしさを語りたいのに「やばい!」しかでてこない」 三宅香帆 前編
はじめに:ガチでヤバイしか出てこないのマジヤバイ
「この作品、本当に最高なんだよ!」
「もう、マジでやばいから!」
「めっちゃおもしろかった。見ればわかるから見て」
いつだったか私は、大好きな推しや作品について語ろうとすると、なぜかこんなありきたりな言葉しか出てこないことに気が付きました。
熱量だけは誰にも負けないのに、その熱を表現しようとすればするほど、言葉が空回りしていく感覚があります。
例えば、映画を観終わった後。エンドロールを見つめながら、「ああ、本当に最高だったな」と心から思うことがあります。
でも、友人に感想を求められたとき、口から出てくるのは
「おもしろかったよ。簡単に言うと、……おもしろかった。とにかくおもしろいから見てきて」
本当は、あの俳優のあの表情が、あのシーンの光の使い方が、あのセリフの裏に隠された意味が……と、細かく感動したポイントは多々あったのに、それがうまく言葉にならない。
結果として、自分の感動が陳腐な表現に矮小化されてしまうような気がして、歯がゆい思いを繰り返していました。
ネットにレビューを書くときも、どこかで見たようなありきたりな表現を無意識に選んでいた気がします。
その方が、無難に聞こえるから。
かといって過去の経験上、心の中の熱量をそのまま言葉にすれば、ただの「キモいオタクの早口」になってしまうのは確実です。
そんな私でも、最近はnoteで書籍やSF小説やマンガなどのレビュー記事を定期的に書くようになっていました。
おかげである程度自分の感想を書くことには慣れましたが、
「果たしてこんなものでいいのか?、記事的にも、魅力を伝えるという意味でも」
という思いは常にありました。
そんな思いが、私にこの本を手に取らせることになりました。
三宅香帆さんの著書『「好き」を言語化する技術 推しの素晴らしさを語りたいのに「やばい!」しかでてこない』は、単なる文章術の本ではなく、どうすれば自分の「好き」を、自分だけの言葉で表現できるのかという根本的な問いに答えてくれる指南書であるようです。
本書に対して私が期待するのは、
誰でも、そしてどんな作品に対しても応用できる、レビュー記事執筆における明確な思考プロセスと実際の書き方
です。
レビュー作成(好きの言語化)の4つのステップ
レビューを書くことは、決して才能やセンスが必要な作業ではありません。
この本は、誰でも実践できる明確なプロセスを提示しています。
今後の記事執筆のリファレンスにするべく、私なりにレビュー記事作成のステップをまとめてみました。
ステップ1:思考の断片を拾い集める「メモ(下書き)」
まず、最も重要なの前提条件は、自分の感想をメモする前に
「他人の感想を見ないこと」。
なぜなら、SNSやレビューサイト、友人との会話で触れる他人の言葉は、無意識のうちに自分の思考を上書きし、オリジナリティを奪ってしまうからです。
この本は、まず外界のノイズを完全にシャットアウトし、自分の心の中にある純粋な感動や違和感に向き合うことを強く主張しています。
これは、レビューを書く以前に、自分の感性を取り戻すための最初の必須事項です。
私も何かの作品を見終えたあと、他の方の感想を見たいのをぐっと我慢するようにしています。
これは単純に、自分がいいと思ったものの悪口、またはその逆を見たくないという心理も働いています。
他人の言葉をシャットアウトしたら、心に浮かんだあらゆる感情を正直にメモします。
代表的な感情は以下の4つです。
共感:自分の過去の体験や、これまでに好きになった作品との共通点を探す
驚き:その作品のどこに新しさや意外性を感じたのかを考える
不快:過去の嫌な体験や、嫌いなものとの共通点を探る
退屈:どの要素が、なぜありきたりに感じられたのかを分析する
「共感」や「驚き」といったポジティブな感情はもちろん、「違和感」や「退屈」といったネガティブな感情も含めて、どんな些細なことでも書き留めていきます。
特に重要だと感じたのは「なぜそう感じたのか」を深掘りする作業です。
ただ「このシーンがよかった」と書くだけでは不十分で、その一文の裏にある感情をさらに細かく分解していくのです。
例えば、あるマンガを読んで「このキャラのセリフ、心に刺さったな」と感じたとします。
「なぜ心に刺さったんだろう?」と自問するうちに、それは「昔の自分も同じような状況で、同じような悩みを抱えていたからだ」と気づきます。
さらに、「そのときに欲しかった言葉を、このキャラが言ってくれたから、救われたのかもしれない」と、過去の自分と作品が深く結びつきます。
この「なぜ」を問うことで、自分の感情の根源にある価値観や、その作品の特異性が見えてきます。
他人の感想が入り込む余地のない、自分自身の物語がそこに生まれるのです。
このメモこそが、オリジナリティあふれるレビューの土台となります。
ステップ2:レビューの核を見つける「記事の骨子」
メモの段階で感情を細分化したら、次に記事の「核」を一つに絞り込みます。
この本が最も実践的だと感じさせてくれたのが、伝えたいポイントを具体的に絞るための「型」を教えてくれたことです。
「〇〇(推しの要素)が、〇〇(感情)だったこと。なぜなら〇〇(原因)だから。」
このシンプルなフォーマットに当てはめるだけで、レビューの主題が驚くほど明確になります。
あれもこれも伝えたいという気持ちを抑え、最も語りたい「一点」に焦点を絞ることで、読者にとって何が一番言いたいことなのかが明確になり、内容がぼやけずに済みます。
多くの人がレビューで失敗するのは(そしてオタクが早口になるのは)、伝えたいことが多すぎるからです。
「この作品はストーリーも音楽も演出も素晴らしい!」と羅列しても、読者の心には残りません。
人間の集中力は限られているため、一度に複数の情報を与えられても、結局何も頭に残らないのです。
しかし、「この作品の音楽が、私を過去の思い出と結びつけてくれたこと。なぜなら、幼い頃に聴いていたメロディーに似ていたから」というように、一つの要素と一つの感情、そしてその理由に絞れば、読み手は深く共感したり、新たな視点を発見したりすることができます。
この型は、自分の思考を整理するツールとしても非常に有用でした。
ということで、次回はステップ3からです。
乞うご期待!
