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from 図書館返却本棚 その39 「限りある時間の使い方」オリバー・バークマン 2/3

はい。ということで前回からの続きです。



Part 2:有限性の受容と「不快感」への耐性


2-1. 人生の有限性が与える「奥行き」


現代の私たちが抱える時間への強迫観念の根底には、「死後の世界」を信じなくなったという、壮大なパラダイムシフトがあるという。

かつて人々は、現世の後に死後の世界という永遠の命があると信じていた。
それゆえ、例えば中世の農民のように日々の仕事に明確な終わりやゴールがなくとも、漠然とした安心感の中で生きていられた。

しかし、「死後の世界」の存在について科学的な根拠がない現代において、人生の短さ、つまり有限性は、私たちにとって常に解決すべき個人的な大問題として立ちふさがる。

バークマンは、この有限性に対する一般的な憂慮に対し、驚くべき視点を提供する。
それは、「永遠は死ぬほど退屈だ」というものだ。

もし私たちが無限の時間を持ち、何をしてもやり直せるならば、人生から切迫感と、それに伴う真剣さが失われてしまうだろう。
彼が言うように、「人生の有限性に気づいたとき、人生に奥行き、リアルさが加わる」のだ。

つまり、私たちが時間をコントロールし、完璧な準備をしようと躍起になるのは、結局のところ、この有限性から目を逸らし、「永遠」という幻想にしがみつきたいからにほかならない。

私としても、永遠の死後の世界などないと思うほうが健康的だと思っている。
死後の永遠の世界を信じることができれば、現在の苦痛や欠乏は耐えやすくなるかもしれない。
しかしその結果、「今」という瞬間の貴重さ、リアルさを削ぎ落としてしまうだろう。
私たちは、自分がこの世界に生きているのは、確率的にはほとんど奇跡に近い出来事だと認識すべきだ。

バークマンは人生を「すべて借り物の時間である」と表現する。
死んでしまった人は「今」を生きられない。
この事実は、私たちが今この瞬間に持っている時間、すなわち4000週間という限られた時間を、いかに扱うべきかという真の指針を与えてくれる。

それは、全てをコントロールし、完璧を期すことではなく、その有限性を出発点として、「今」の価値を最大限に高めることである。
つまり、人生をコントロールしようと焦るのをやめ、自分が今生きているという事実が幸運以外の何者でもないということを知ることこそが、私たちに必要なマインドセットなのだ。


2-2. 苦痛から目を逸らそうとするほど、苦痛になる


時間と人生の有限性という現実を受け入れた時、私たちの前に立ちはだかるのは、「不快感」という名の内なる敵である。

私たちは皆、重要なこと、自分が本当にやりたいと思ったことが、いざ実行しようとすると「やりたくなくなる」という経験を持つだろう。
その理由は何か。

それは、決して怠惰や集中力の欠如だけではない。
バークマンは、この現象の背後にある、よりショッキングな理由を提示する。
それは、これもまた「自分の人生の有限性に直面するのを避けたいから」という理由だ。

真に重要な行動、例えば、創作活動、新しいスキル習得、あるいは深い人間関係の構築といった行為は、多くの場合私たち自身の能力の限界、そして人生の時間の限界を突きつける。

行動を起こし、もしそれが失敗に終わったり、期待通りの成果が出なかったりすれば、「自分にはできないことがある」「この人生の短い時間の中では、これが限界だ」という有限性の痛みに直面せざるを得ない。

この「限界が見えることへの恐怖」から逃げたいがために、私たちは無意識に、重要なことを先延ばしにし、無害なデジタルエンターテイメントや「終わりのない準備」という現実逃避に身を投じてしまうのだ。

しかし、この不快感からは逃げようとすればするほど、かえって逃げられなくなるという逆説が成り立つ。
苦痛から目を逸らそうとする行為そのものが、私たちの心を蝕み、切迫感を増大させる。

本書においては、この不快な感情や苦痛に集中するとむしろ軽減されるという、パラドックス的な解決策を提示されていた。

逃げずに、その不快感に集中して受け入れること。

私見として、この解決策は極めてシンプルだが最も難しい実践であると感じた。
結局は「黙ってやるしかない」という、ある意味根性論的な結論に行き着くと私には思われたからだ。

根性論、精神論で終わらせないためのより建設的な解釈としては、
「今自分はやりたくないと思っている。なぜならばこの行動によって自分の限界が見えてしまうからだ」
と自覚しつつ、その限界を「仕方ない」と受け入れることではないだろうか。

この「仕方ない」と受け入れるマインドセットこそが、有限性の受容と不快感への耐性を統合する鍵となる。
限界はあって当然であり、完璧な達成は不可能である。
この不完全性を認識し、なおも一歩を踏み出すこと。
この諦めの中にこそ、行動のエネルギーが生まれるのである。


2-3. 時間との戦いは勝ち目がないと知る


私たちが時間管理において陥る最大の過信は、未来をコントロールできるという幻想である。

バークマンは、時間に関する計画は絶対に狂うものであり、「未来は絶対にコントロールできない」と断言する。
これは、私たちが熱心に作り上げるガントチャートも、緻密な5年計画も、すべてが幻影にすぎないことを示している。
人生は予測不可能な要素に満ちており、いくら周到に準備しても、失敗やトラブルの発生を織り込んだとしても、さらに予期せぬ出来事によって計画は容易に崩壊するのが常だ。

この現実を前にすれば、結論はこうならざるを得ない。
それは

「結局、今目の前にあることに集中するしか無い。予想はするが、絶対に外れると思っておく」

という諦めの境地に達することである。

これは、計画を立てることを完全に放棄するわけではない。
計画は、あくまで「現時点での最善の推測」として立てるが、それが絶対に実現するという執着を手放すことを意味する。
未来をコントロールしようとする努力が、かえって不安とストレスを生むのであれば、その努力そのものを放棄することが、精神的な安定をもたらすはずだからだ。

ここで非常に有効となるのが、本書で紹介されている「宇宙的無意味療法」である。
ネット掲示板などでは昔からよく言われていたことではあるが、宇宙の巨大さに思いを馳せると、私たちの日常で抱えるほとんどの悩みや切迫感はどうでもよいことに思えてくるという、心理的なライフハックのことだ。

自分の抱える問題が宇宙規模で見れば塵同然であると認識することは、一見すると虚無的だ。
しかし、この療法がもたらすのは、絶望ではない。
宇宙の巨大さを思うことは、自分の小ささに気がつくことと同時に、「小さくてもかまわない」ということにも気づくことである。
偉大なことを成し遂げなくてもいい、完璧な結果を出さなくてもいいという許可を自分に与えることができるのだ。

自分のちっぽけさを受け入れ、どうでもいいことにエネルギーを割かなくなる。
この諦めの境地、つまり「宇宙的無意味療法」と「計画は必ず狂うという認識」が組み合わさることで、私たちは初めて、コントロールできない未来の不安から解放され、今この瞬間に注力することができるようになるのだ。

有限性の受け入れとは、未来の完璧なコントロールを諦め、今目の前にある「不完全な一歩」の価値を最大限に高める哲学なのである。



Part 3:賢い「あきらめ」と「次の行動」の選択


3-1. 大事なのは「何を先延ばしするか」を賢く選ぶこと


私たちは、先延ばしを無くすことこそが生産性の鍵だと信じている。
しかし、バークマンの思想はここでも逆説的である。

大事なのは、先延ばしをなくすことではなく、何を先延ばしするかを賢く選択することであるというのだ。
有限な時間の中で「すべてをやる」ことは不可能だと Part 2 で認めた今、次に必要なのは「やらないこと」を正しく選ぶという、積極的な諦めの行動である。

そのための指針として、本書はタスクを上手に減らす三つの原則を提示する。


原則1:まず自分の取り分(やりたいことをやる時間)をとっておく

「今やらないと時間はない」という切迫感は、焦りではなく、現実を直視した上での健全な認識である。

私たちは、仕事や義務のタスクでスケジュールが埋まってから、残った時間に自分のやりたいことを詰め込もうとする。
だが、その「残り時間」はけして十分には現れない。

だからこそ、自分のやりたいこと、つまり人生の有限性を充実させるための活動を、カレンダーの一番最初に、優先的に確保しなければならない。

これは、一世を風靡した「いつやるの?、今でしょ」という言葉を、単なる行動力の発露としてではなく、「今、自分の人生の取り分を確保せよ」という、有限性に基づく哲学的な要請として解釈し直すことである。


原則2:進行中の仕事を3つまでに制限する


無限の選択肢と可能性に誘惑される現代において、複数のプロジェクトを同時に抱え込むことは、一種のステータスのように見なされがちだ。
しかし、それは「すべてを手にしたい」という現実逃避の裏返しである。

本書は、この「複数プロジェクトの誘惑に勝つ」ことを求め、進行中の仕事は3つまでとし、一つが完了するまで新しい一つを追加しないという明確な制限を設けることを推奨する。

私はこの原則に強く共感し、これを「すぐにでも実行したい」アクションプランとして採用することにした。

複数のプロジェクトが同時に進行している状態は、一見忙しく充実しているように見えるが、実際には注意力が分散し、一つ一つの質を低下させ、そして何より、常に頭のどこかで「他の仕事のことが気がかりだ」という切迫感を生む。

3つという明確な数字の制限を設けることで、初めて私たちは、一つの仕事に完全に集中し、真に成果を出すことができるようになる。
これは、私たち自身の有限性を認め、集中力を高めるための賢い諦めである。


原則3:優先度「中」を捨てる

私たちを最も苦しめるのは、優先度「高」の仕事でも「低」の仕事でもない。
それは、「あればやった方がいいが、なくても困らない」優先度「中」の仕事や「やりたいこと」である。

これらは、重要性が微妙なゆえにリストに残り続け、常に私たちに罪悪感を与える。
真に大事なことに時間を使うためには、やりたいことに「ノー」と言うという、難しいが不可欠な選択をしなければならない。
この積極的な「捨てる」行為によって、初めて私たちの時間は解放され、本当に取り組むべき「高」のタスクに全エネルギーを注げるようになるのだ。


以下次号。最終回。





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https://note.com/morogami_roku/n/nab6b31a6af9c




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