トーヴェ・ヤンソン 「パラダイス」〜ムーミン前夜
トーヴェ・ヤンソン(Tove Jansson) 「パラダイス」展へ行ってきた。
昨年末にも一度訪れているが、ちょうど入館無料の日に行ってしまい凄い人出で落ち着いて見れなかったので、再訪した。
今回の展覧会の目玉は、1940〜1950年代にトーヴェが、病院、学校、保育園など公共施設のために描いた壁画作品。アトリエで発見されたというスケッチも初公開となっている。
壁に投影された映像により、木炭画で描かれたモノクロのスケッチから彩色された完成の状態に切り替わる創作過程の見せ方も、わかりやすくて良かった。

木炭画スケッチ


少女時代のトーヴェだと知った

ファンタジックなモチーフとタッチ
カラフルな色使いも美しい

木炭画スケッチ


左側にはムーミンの原型のような生きものも居る
壁画ということで作品はかなり巨大で、写真に収めるのも一苦労。
物語を感じさせる動植物がびっしりと描かれた絵の細部を見ていると、ストーリーを追ってゆくような楽しみもあり、どんどん近づいて拡大して見たくなってくる。

ぜんぜんピントが合わせられない
自分で側に寄って見た方が早い 苦笑
1955年、トーヴェがコンペで優勝し描いた、Aurora病院・小児病棟の階段壁画も会場に再現されていた。




トーヴェ・ヤンソンは、今でも何かと話題になり、国民にとって最も身近なこの国を代表する画家であり作家だが、日本でも「ムーミン」の作者として広く認知されていると思う。
日本でのムーミン人気は絶大で、本国以外でこんなに愛されているのは世界中でも日本くらいだ。
私も子供の頃はムーミンのアニメを見て育ったし、緻密なペン画による原画や、時に哲学的なストーリーも好きなのだけど、トーヴェ自身の人生やムーミン以外の彼女の作品の方にも、より興味を持っている。
世界的にみても早くから男女平等、女性の社会進出を打ち出していたこの国でさえ、トーヴェがアーティストとして活動を始めた時代は、男性優位な社会であり、彼女はそれに抗って生きていた。

ヴィヴィカ・バンドレルに宛てた手紙には
ムーミンの絵が語る形で
「フレスコ画の制作は大変だけど楽しい」と記している
ヘルシンキ市庁舎食堂のために制作された、横幅6mにもなる巨大フレスコ画の壁画には、テーブルに座るトーヴェ、その後ろにヴィヴィカが男性と踊る姿が密かに描かれている。
この国では今でこそ同性婚も法的に認められているが、同性愛はなんと1971年までご法度で、逮捕されたり病気とみなされ精神病院に入れられるなど、犯罪者扱いだったのには驚愕。
しかし自由を愛するトーヴェは男性とも女性とも恋に落ち、それを隠そうとはしなかった。

展覧会では彼女の自画像、家族の肖像画、ムーミン以前の絵もいろいろ展示されていた。

若い時のトーヴェは、トンガってる雰囲気

父は彫刻家、母は挿絵画家
真ん中がトーヴェ
芸術一家で皆んな一癖ありそうな感じ
トーヴェが幼少期を過ごしたエリアには、以前私も長らく住んでいたこともあり、彼女が家族と暮らしていたというアパートメントに息子の同級生が住んでいたり、馴染みがある場所だ。
その地区には19世紀から20世紀初頭に建てられたアールヌーヴォ様式の建築物も多く、周辺の景色もおそらくトーヴェが暮らしていた頃とあまり変わっていない。
今、自分が見ている日常風景を、百年以上前に彼女も見ていたのかと思うと、感慨深い気持ちになった。

トーヴェの父は著名な彫刻家だったが、経済的には画家の母が挿絵などを描いて一家の暮らしを支えていたそうだ。
父はトーヴェの描くムーミンは芸術家の仕事じゃない、として認めなかったらしく、トーヴェ自身の中にも本物の画家にならなければ、という葛藤が長い間あったらしい。

壁際に並ぶ細々とした小物にも目がゆく

何点か展示されていた

冒険心と独立精神に富んだトーヴェは、夏はクルーヴハルという名の孤島で生涯のパートナーであるトゥーリッキと暮らし、野性のままの自然を愛した。
その生き方は、ムーミン谷の物語にも反映されている。
展覧会は通称HAM(ヘルシンキ市立美術館)で4月6日まで開催中。
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