4.経費と所得控除、税金には両方効く。でも国保への効き方は違う
これまでのケースでは、
経営セーフティ共済
小規模企業共済
iDeCo
はいずれも、税負担を軽くする方向に働いていました。
そうすると、
「結局、どれも同じような節税では?」
と思うかもしれません。
でも、仕組みは違います。
経営セーフティ共済は、事業所得を計算する段階で必要経費として反映する。
一方、
小規模企業共済やiDeCoは、事業所得などを計算した後に所得控除として反映する。
所得税・住民税だけを見れば、どちらも税負担の軽減につながります。
ところが、国民健康保険まで見ると、この違いが効いてきます。

まず、引く「場所」が違う
できるだけ単純にすると、
必要経費
→ 事業所得そのものを小さくする
のに対して、
所得控除
→ 事業所得や給与所得などを計算した後の所得から差し引く
という違いです。
国税庁も、所得控除について、各種所得の合計額から所得控除額を差し引き、その残額を基に所得税を計算する仕組みとしています。小規模企業共済の掛金やiDeCoの掛金は「小規模企業共済等掛金控除」の対象です。(国税庁)
一方、経営セーフティ共済の掛金は、個人事業主の場合、所定の手続きを行うことで事業所得の必要経費に算入できます。(きょうさいFAQ)
つまり、
経営セーフティ共済は「事業所得を作る前」
小規模企業共済・iDeCoは「所得を計算した後」
に効く、と考えると分かりやすくなります。
税金だけ見ると、違いが見えにくい
たとえば単純化して、
必要経費によって所得が100万円下がる場合と、
所得控除を100万円受ける場合。
どちらも所得税・住民税の負担を下げる方向に働きます。
そのため、
「だったら同じでは?」
と感じやすい。
ところが、国民健康保険料では同じではありません。
国保は「所得税の控除後の金額」で計算しない
ここが今回の一番大事なところです。
柏市の2026年度国民健康保険料では、所得割の基礎となる「賦課総所得金額」は、
前年の総所得金額等 - 基礎控除
で計算されます。
事業所得も、この「総所得金額等」に含まれます。(柏市公式ウェブサイト)
つまり、所得税で使う、
小規模企業共済等掛金控除
iDeCo
生命保険料控除
医療費控除
などを全部差し引いた後の金額で国保料を計算するわけではありません。
ここで、必要経費と所得控除の違いが表れます。
必要経費は、国保の所得割にも影響する
必要経費を反映すると、
事業所得そのものが下がります。
国保の所得割は事業所得を含む前年の総所得金額等を基にするため、必要経費によって事業所得が下がれば、国保料の所得割も下がる方向に働きます。(柏市公式ウェブサイト)
流れで見ると、
必要経費
↓
事業所得が下がる
↓
所得税・住民税に影響
↓
国保の所得割にも影響
です。
一方、
小規模企業共済・iDeCo
↓
所得控除
↓
所得税・住民税には効く
↓
国保料算定には、その掛金控除をそのまま使わない
という違いがあります。小規模企業共済とiDeCoは、所得税では「小規模企業共済等掛金控除」として掛金が控除対象になります。(国税庁)
国保には「1年遅れ」の感覚がある
もう一つ、知っておきたいのが時間差です。
国保料は前年の所得を基に計算します。
柏市の2026年度保険料も、2025年1月から12月までの所得を基に算定されています。(柏市公式ウェブサイト)
したがって、たとえば、
2027年の事業所得が必要経費によって下がった
場合、その所得減少が国保料に反映されるのは、原則として2028年度です。
つまり、
今年の経費が増えた
→ すぐ国保料が下がる
という話ではありません。
会社員の間は、勤務先の社会保険
もう一点。
会社員として勤務先の健康保険・厚生年金に加入している間は、
副業の事業所得が赤字でも黒字でも、それによって勤務先の社会保険料が直接変わるわけではありません。
会社の健康保険料などは、勤務先から受け取る給与等を基にした標準報酬月額を使って計算されるためです。協会けんぽも、標準報酬月額を「事業主から受ける毎月の給料などの報酬」を一定の幅で区分したものと説明しています。
(協会けんぽ)
したがって、
副業の必要経費が増える
→ 勤務先の健康保険料が安くなる
という関係にはなりません。
今回の国保の話が効いてくるのは、退職などによって国民健康保険へ切り替わった後です。
では、必要経費の方が「得」なのか?
ここまで見ると、
「税金にも国保にも効くなら、所得控除より必要経費の方が得なのでは?」
と思うかもしれません。
でも、これは比較の仕方が違います。
必要経費は、そもそも事業のために必要なお金です。
税金や国保を下げるために、必要のないものを買うという話ではありません。
一方、小規模企業共済やiDeCoは、
所得控除を受けながら、将来に向けて資産を積み立てる
という役割があります。
つまり、
必要経費
= 事業を行うためのお金
所得控除となる共済・iDeCo
= 税負担を軽減しながら将来資産を作る仕組み
です。
同じ「税負担を軽くする」という結果があっても、お金の役割が違うわけです。
今回は、ここだけ押さえておこう
必要経費と所得控除の違いを整理すると、
必要経費
→ 事業所得そのものを下げる
→ 所得税・住民税に影響
→ 国保の所得割にも影響
小規模企業共済・iDeCoなどの所得控除
→ 所得を計算した後に差し引く
→ 所得税・住民税に影響
→ 原則、その掛金控除は国保料算定には使われない
そして、
国保は前年所得を基に翌年度に計算される。
この3点が分かれば、
「税金には効くのに、なぜ国保には同じように効かないの?」
という疑問はかなり整理できます。
次回|3つの制度をどう使い分ける?
今回は、必要経費と所得控除では、税金だけでなく国保への効き方も違うことを整理しました。
次回は、
経営セーフティ共済
小規模企業共済
iDeCo
の3つを並べて、
税務上の扱い
資金の使いやすさ
積み立てたお金を借りられるか
何のために使う制度なのか
という違いを整理します。
それぞれ何のために使う制度なのかを見ながら、
「全部使うのか」「一部だけ使うのか」を判断するための材料を整理していきます。
注記
※この記事は、会計・税務の基礎知識があまりない方に向けて、仕組みを分かりやすく整理することを目的としています。
※国民健康保険料の料率や計算方法は自治体・年度によって異なります。この記事では柏市の2026年度制度を例にしています。柏市では、前年の総所得金額等から基礎控除を差し引いた「賦課総所得金額」を所得割の基礎としています。(柏市公式ウェブサイト)
※小規模企業共済とiDeCoの掛金は、所得税上「小規模企業共済等掛金控除」の対象です。(国税庁)
※経営セーフティ共済の掛金は、個人事業主の場合、税法上、事業所得の必要経費に算入できます。確定申告時には国税庁所定の「特定の基金に対する負担金等の必要経費算入に関する明細書」を添付します。(きょうさいFAQ)
※2024年10月1日以降に経営セーフティ共済を解約して再加入した場合、解約日から2年を経過する日までに支払う掛金は必要経費に算入できない取扱いがあります。(きょうさいFAQ)
