漢文訓読と英語返り読み
明治時代(19世紀後半)
日本が近代化を進める中で、欧米の学術書や技術書を読む必要がありました。
当時の目的は、
英語で会話すること
英語圏の人と交流すること
ではなく、
英文を正確に読むこと
西洋の知識を日本語に翻訳すること
でした。
そのため、英文 → 文法分析 → 日本語訳という学習法が発達しました。
これは江戸時代の漢文訓読の伝統とも相性が良く、日本人に受け入れられました。
漢文訓読とは
漢文を中国語として読むのではなく、
子曰、学而時習之、不亦説乎
を
子曰く、学びて時にこれを習う、また説ばしからずや、のように、日本語の語順に並べ替えて読む方法です。
そのために
返り点(一、二、レ点)
送り仮名
を使います。
英語教育への影響
明治初期、日本人が英語を学び始めたとき、多くの知識人は漢文訓読に慣れていました。そこで英語も、英語を英語の語順で理解するのではなく、日本語の語順に組み替えて理解する方法が自然に採用されました。
例えば
I know the man who lives next door.
を
I know the man
who lives next door
と分解し、
私は知っている、その男を、そしてその男は隣に住んでいる
↓
私は隣に住んでいる男を知っている
と訳します。これはある意味で英語版の訓読です。
「返り読み」という言葉
英語学習では昔から後ろから前へ戻って読むことを「返り読み」と呼びました。
例えば
This is the book that I bought yesterday.
を
これは本です/私が昨日買った/
↓
これは私が昨日買った本です
と読む方法です。これは漢文の返り点による読み方と非常によく似ています。
功績
この方法のおかげで日本人は短期間で大量の西洋知識を吸収できました。明治時代には、科学、法律、医学、哲学などの書物を翻訳しなければならず、訓読的な読解法は大きな役割を果たしました。
問題点
しかし現代では、英語を日本語に変換してから理解する癖がつきやすいという欠点も指摘されます。
例えば
I have lived in Tokyo for ten years.
を見た瞬間に
「現在完了だから……『私は10年間東京に住んでいます』」
と訳せても、英語のまま意味を処理する力は育ちにくいのが実情です。
英文を読むときは、「訳すこと」と「理解すること」を区別することが大事です。
日本の学校では長く「訳すこと」が中心でしたが、本来はまず英文の意味を理解し、その後で必要なら日本語に訳します。
① まず英文の骨格をつかむ
例えば
The boy who was sitting by the window suddenly stood up.
最初に主語と動詞を探します。
主語:The boy
動詞:stood up
すると、
The boy suddenly stood up.「少年は突然立ち上がった。」が骨格だと分かります。その後、who was sitting by the window
が「少年」を説明していると考えます。
つまり、「窓際に座っていた少年が突然立ち上がった。」となります。
② 前から読む
英語は基本的に前から意味を積み上げます。
例えば
I met a girl from Canada at the station yesterday.
読む順序は
I met
→ 私は会ったa girl
→ ある少女にfrom Canada
→ カナダ出身のat the station
→ 駅でyesterday
→ 昨日
頭の中では
私は会った → 少女に → カナダ出身の → 駅で → 昨日
と理解できます。英文を読むときには、日本語の語順へ組み替えなくても理解できます。
③ 長文ではかたまり(チャンク)で読む
例えば
When Winston opened the door, he found Julia waiting for him.
チャンクごとに読むと
When Winston opened the door
→ ウィンストンがドアを開けると
he found
→ 彼は気づいた
Julia waiting for him
→ ジュリアが彼を待っているのを
つまり
「ウィンストンがドアを開けると、ジュリアが彼を待っているのに気づいた。」
となります。
英文を読むときには、英語の語順のまま理解して読み進める、「語順読み」をしないと英文を速く読めるようにはなりません。
