【内容一部公開】見通しのよい登山ルートで歩き始めよう――近刊『数理論理学』
2025年6月下旬発行の新刊書籍、『数理論理学』のご紹介です。
同書の一部を、発行にさきがけて公開します。

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まえがき
本書は、数理論理学の主要な基本定理である「ゲーデルの完全性定理」と「ゲーデルの不完全性定理(第一および第二)」に到達することを目標とする、数理論理学をはじめて学ぶ方々を読者として想定した入門書です。
完全性定理もしくは不完全性定理を主要なトピックとする数理論理学の入門的教科書はすでに多数出版されていますが、それらを見比べて痛感することは、「同じ山頂に通じる登山ルートがたくさんあり、しかも、ルートによって道中で見える風景が大きく異なる」ことです。あるルートは急斜面、別のルートはロッククライミング、また別のルートは沢登り、あるいは8合目までロープウェイで楽々と、という具合で、どのルートを選ぶかによって、出発前に準備すべき装備や技術は異なります。そして、どのルートをたどっても同じ山頂に到達することを納得できるのは、十分な余力をもって登頂して、山頂からあらためて登山ルートの全体を見渡せる人だけで、そうでない、登るだけで精一杯の初心者にとっては、山頂に至る道中の苦難と、選んだ特定のルートの道中で見えていた(すべての登山者が見るわけではない)風景だけが印象に残ってしまうという残念な結果になりかねません。
それゆえ、数理論理学の授業を担当する授業者や、数理論理学の入門書を執筆しようとする人は、学習者をどのルートに導くべきか、悩むことになります。具体的には、たとえば、演繹体系(自然演繹、ヒルベルト流、シークエント計算)の選択や、ゲーデル数化の具体的方式の流儀がそうです。それらの選択肢の長所短所についてはさまざまな考え方があり、すべての学習者におすすめできる標準的なルートを定めることはできそうにありません。また、主要な複数のルートすべてのガイドを1冊の教科書に収めることも容易ではありません。
そのため、数理論理学には、解析学における高木貞治『解析概論』のような定番教科書を期待するのは難しく、多数の著者によるさまざまな流儀の教科書が併存することで、授業者や学習者の選択肢を増やすことが重要なのでしょう。そのような考えのもと、先達の方々による多数の既刊書に加えて、数理論理学の授業者や学習者の方々にひとつの新たな選択肢を提供すべく、本書を執筆しました。「登山ルート」としては、できるだけ初学者にとっての障壁が低い(しかしながら、重要な風景は見過ごさない)であろうルートを選び、また、学習者自身が「ルート全体の中でいまどの位置にいるか」を把握しながら歩みを進められるように配慮しました。
第I部では、数理論理学の出発点ともいえるゲーデルの完全性定理に到達することを目標に、一階述語論理の形式文法、意味論、構文論を導入し、健全性と完全性の証明に取り組みます。第I部の内容を着実に学ぶことで、数理論理学の入口に立つための基礎知識を得るとともに、数理論理学の基本的なコンセプトや典型的な議論のスタイルに慣れ親しむことができるでしょう。述語論理の演繹体系としては、ヒルベルト流体系のひとつの亜流で、トートロジーをすべて公理とする流儀を採用しました。トートロジーを公理に取り込むことで、命題論理の構文論と完全性の議論をバイパスして、述語論理の議論にすばやく入るルートを選びました。
第II部では、ゲーデルの不完全性定理(第一および第二)を目標とします。不完全性定理の完全な証明は遠大で難解という印象をもたれるきらいがあり、実際、再帰的関数の理論やゲーデル数化の議論の詳細を記述しようとすると、それなりの紙幅を要します。かといって、ゲーデル数化の具体的な議論を端折ってしまうと、証明のアイディアの肝心な部分を見過ごすことになりかねません。そこで、本書では[Enderton、第3章]をやや簡略化した論理展開の方針をとり、さらに、
・算術の形式的体系と表現可能な関数(第10章)
・自然数の有限列の操作を算術化する(11.1節)
・項や論理式や演繹を算術化(ゲーデル数化)する(11.3、11.4節)
という話題ごとにまとまりのある構成にしました。
第III部には、第I部の内容に関連する、しかし第I部にも第II部にも収まらない話題を集めました。第13章では、第I部とは別のルートの入口として、自然演繹を紹介しています。自然演繹は、ヒルベルト流体系とは大きく異なる(しかし証明能力においては同等である)演繹体系のひとつです。第13章で立ち入るのはほんの入口部分だけですが、このルートから見える風景は第I部のルートから見えるそれとはまるで異なることが想像できるでしょう。第14章は、第13章を前提とした、直観主義論理のごく簡単な導入です。第15章では超冪による超準モデルの構成を、第16章では順序数と超限帰納法を取り上げました。超冪や順序数といった内容を収めたことは、数理論理学の入門的な内容を扱う類書にはあまり見られない、本書の著しい特徴といえましょう。多くの類書では、超限帰納法の代わりにツォルンの補題を援用することで、順序数の導入を回避しています。その流儀は、つまるところ、不可算集合を取り扱う議論をツォルンの補題に押しつけて覆い隠すものです。順序数さえ理解できれば、超限帰納法を使うほうが、証明のアイディアをより明確に理解できるでしょう。第16章では、通常の数学的帰納法との類似性に着目しながら超限帰納法を素直に理解できるように、説明に工夫を凝らしました。
(後略)
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大阪公立大学 嘉田勝(著)
◆「ゲーデルの完全性定理」と「ゲーデルの不完全性定理」への到達を目標とした入門書◆
重要なトピックをおさえつつ、初学者にとって学びやすいルートでわかりやすく解説。
数理論理学の基本的なコンセプトや議論のスタイルに慣れ親しむことができるように配慮されています。
本格的な説明の前に、構文論と意味論、健全性と完全性、命題論理と述語論理という観点でていねいに整理しています。
そのうえで第Ⅰ部ではゲーデルの完全性定理、第Ⅱ部ではゲーデルの不完全性定理を目標として、それぞれ必要な内容に絞ってルートを構成しているので、初学者でも道に迷うことなく一歩ずつ進むことができます。
『数学の証明とは何でしょうか?(…)証明されたことはなぜ「正しい」といえるのでしょうか?逆に、正しいことは必ず「証明できる」でしょうか?言い換えれば、証明が数学の正しさを保証する手続きとして信頼できる根拠はどこにあるのでしょうか?本書では、数学の証明が「正しさの保証」として信頼に足る根拠に光を当てます。』(「第1章 導入」より)
【目次】
第 I 部 論理の健全性と完全性
第 1 章 導入
1.1 論理の構文論的側面と意味論的側面
1.2 健全性と完全性
1.3 命題論理と述語論理
第 2 章 命題論理
2.1 命題論理の形式文法
2.2 論理式の真理値
2.3 トートロジー的同値,トートロジー的含意
2.4 トートロジー
2.5 命題論理のコンパクト性
第 3 章 述語論理の形式文法
3.1 はじめに:数学を記述する言葉の分析
3.2 項と論理式の構成規則
3.3 自由変数と束縛変数,閉論理式
3.4 代入
3.5 変数の取り替え
第 4 章 ストラクチャーとモデル
4.1 はじめに:論理式の真偽はどうやって決める?
4.2 ストラクチャー
4.3 ストラクチャーにおける論理式の真偽
4.4 モデル
4.5 論理的含意と論理的同値
4.6 述語論理におけるトートロジー
4.7 代入補題
4.8 ストラクチャーの同型性と初等的同値性
第 5 章 証明を形式化する
5.1 形式的な演繹体系(ヒルベルト流体系)
5.2 一般化定理と演繹定理
5.3 等号がみたすべき性質
5.4 対偶法と背理法
5.5 定数の一般化
5.6 変数の取り替えの構文論的正当性
5.7 完全な論理式の集合と極大無矛盾集合
第 6 章 述語論理の健全性
6.1 健全性定理
6.2 健全性定理の証明
第 7 章 述語論理の完全性
7.1 完全性定理と充足可能性定理
7.2 極大無矛盾なヘンキン集合
7.3 ストラクチャーと割り当ての構成
第 8 章 コンパクト性とその応用
8.1 コンパクト性定理
8.2 一階述語論理の記述能力の限界
8.3 自然数論の超準モデルの存在
8.4 超準解析
第 II 部 不完全性定理
第 9 章 構文規則の厳密化
9.1 ブール関数の論理式による表現可能性
9.2 論理演算子の完全系
9.3 ウカシェヴィチの演繹体系
9.4 ポーランド記法
第 10 章 算術の体系と関数の表現
10.1 算術の公理系
10.2 表現可能な関数
10.3 再帰的関数と再帰的関係
10.4 再帰的に枚挙可能な関係
第 11 章 構文規則の算術化
11.1 自然数の有限列の操作を算術化する
11.2 一般化された原始再帰
11.3 ゲーデル数
11.4 ゲーデル数と演繹
第 12 章 不完全性定理
12.1 対角化定理
12.2 第一不完全性定理
12.3 第二不完全性定理
第 III 部 いくつかの話題
第 13 章 自然演繹
13.1 推論規則と導出図
13.2 自然演繹の推論規則
13.3 導出図の例
第 14 章 直観主義論理とクリプキ意味論
14.1 直観主義命題論理の自然演繹
14.2 直観主義命題論理のクリプキ意味論
第 15 章 超冪による超準モデルの構成
15.1 非単項超フィルター
15.2 超冪
15.3 Nの超冪は自然数論の超準モデル
15.5 ウォシュの定理の証明
第 16 章 順序数と超限帰納法
16.1 順序数
16.2 基数と濃度
16.3 超限帰納法
付録 集合についての補足
A.1 直積と 2項関係
A.2 順序関係
A.3 同値関係と商集合
A.4 同値類の代表元を用いた定義の整合性
A.5 可算集合
演習問題の略解もしくはヒント
参考文献
索引
