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コーラ坂②_南Yok

マモリの家の坂を降りてしばらく行くと、バス停がある。マモリの家からは、そこまで1キロほど離れている。
そのバス停のすぐ隣に、駐輪場がある。といっても、いわゆる近代的なものではない。古い民家の一階を改装したような建物で、かつては何かの店舗だったらしい。全面がガラス張りの、屋根付き駐輪場だ。月々の使用料を払って使うシステムになっている。
「今どき、こんな駐輪場、珍しいね。昔はちょこちょこ見かけたけど」と、ある日、母がぽつりと言った。
この駐輪場が少し変わっているのは、管理人の“サク爺”が、時々こっそり自転車の手入れをしてくれることだ。
マモリが高校生になりたての頃。通学に自転車を使うことが決まり、急な“コーラ坂”を毎朝下るのは大変だろうと、お父さんが「バス停まで車で送ってあげるよ」と申し出てくれた。
だが、マモリはその申し出を断った。カナエと一緒に通いたかったからだ。カナエは中学からの親友で、話が合って、気が楽な存在。ふたりで並んで自転車をこぐ時間が、これからの毎日の楽しみになる気がした。
最初の数日間、マモリは頑張った。だけど、坂の負担は思ったよりも大きく、朝から疲れて学校に着く日が続いた。そんなとき、カナエが提案してくれたのが、坂のふもとのサク爺の駐輪場に自転車を預けておく方法だった。中学のときと同じように、坂の下までは歩き、駐輪場から先は一緒に登校する・・という作戦。
翌日マモリが駐輪場を訪ねると、サク爺はゆっくりとうなずいて、こう言った。
「夜も置いてっていいよ。ちゃんと見とくから」
その一言に、マモリはじんわりと胸があたたかくなるのを感じた。
朝、自転車の数が増えはじめる頃にマモリはやって来て、自転車を取り出して学校へ向かう。
放課後、部活が終わる頃には、自転車の数はすっかり減っていて、夜になると、マモリの一台だけがポツンと駐輪されている。だからだろう、サク爺の目にきっとよく留まる。ステンレスのパーツはいつもぴかぴかに磨かれていて、マモリは空気を一度も入れたことがないほど、いつもタイヤはしっかり膨らんでいた。
サク爺は、駐輪場の2階で一人暮らしをしている。隣の比較的新しい家には、彼の息子夫婦と、その息子・・ナオトが暮らしている。
ナオトとは、幼稚園からの腐れ縁。べったりした付き合いはないけれど、いつもお互いを気にかけている・・そんな関係で、少し家族にも近い存在だとマモリは思っている。
高校は別々になったので、ナオトと顔を合わせることは少なくなっていた。けれど久しぶりに再会したとき、マモリはどこか不思議な懐かしい気持ちになった。
・・なんか、変わった?
ナオトは少し大人っぽくなっていた。でもそれだけじゃない。何か、言葉にならないひっかかりがあった。そして、あるとき、ふと気づいた。
・・そうだ、あの夢だ。
その夢の中で、マモリは“コーラ坂”のてっぺんに立っていた。

坂はふもとへ向かって、どこまでも続く青い“海”になっていた。

コーラの泡がフワフワと波のように揺れ、陽の光を受けてキラキラと光っている。

ペンキで塗られた茶色のアスファルトは、夕焼けのような色に変わっていた。
足元から、「パチパチ……」という音が聞こえた。

マモリはその音をたどって、波打ち際まで降りていった。

そこには、こちらを見つめている誰かがいた。
「また、ここで会えるから、大丈夫だよ」
その人は、そう言った。
その声と微笑み。

そうだ・・ナオトは、あの人に少し似ている。


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