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外れても機能する仮説と外れたら終わる仮説—商談準備の『点・線・面』

決算資料を読み、業界レポートに目を通し、2時間の準備の果てに「この会社の課題はコスト削減だ」という仮説を持って商談に臨んだ。しかし先方から一言、「正直、コストはそこまで困っていないです」。

営業なら誰もが経験したことのある場面ではないだろうか。そして、じつはこの場面が営業の成果を大きく分けている。

仮説は「当たったかどうか」では測れない

多くの人が商談の前に「この会社は、おそらくここに困っている」と仮説を立てる。ヒアリングで何を聞くか、提案書に何を載せるか、どの事例を持っていくか。準備でやることはすべて、この仮説を前提としている。

では、その仮説の良し悪しは何で測られるのか。多くの人は「当たったか、外れたか」の精度のみで測っている。商談で「まさにその通りです」と言われれば良い仮説、外れなら悪い仮説。

しかし、この基準には欠陥が2つある。
第一に、当たったかどうかは商談が始まるまでわからない。準備の段階では、この基準は何の役にも立たない。精度は遅行指標なのだ。
第二に、どれだけ優秀な人が立てても仮説は外れる。トップ営業でも、事前の仮説が完璧に当たり続けることはない。情報には限りがあり、相手の事情は外から見える範囲に収まらない。

先に断っておくと、これは「仮説を当てること」を諦める話ではない。当てる努力は大前提であり、仮説の精度は徹底的に追う。その上で、100%にならない以上、外れた瞬間にも機能する準備を目指す。「両方をやる」という話だ。

では、外れた瞬間にも機能する仮説とは何か。それを考えるには、まず仮説というものの形を捉え直す必要がある。

「課題はこれだ」という結論は、じつは仮説の一部でしかない。仮説は本来、3層でできている。

  • :結論。「この会社の課題は、これではないか」

  • :点へ至る論理の鎖。「この事実がある。だからこう解釈できる。だからこの課題があるはずだ」

  • :点と線の周りに広がる、企業と業界への理解。「この会社はこういう商売で、業界はいまこう動いていて、現場にはこういう事情がある」

精度という物差しで測れるのは、このうち「点」だけだ。そして点が当たったかどうかは、商談が始まるまでわからない。一方、線と面は、商談の前に自分で作り込み、自分で点検できる。点を細かく置き、線の筋を通すことは、精度を上げる王道そのものでもある。

しかも、線と面には、点が外れてもなお失われない価値がある。

外れた仮説のほうが、本音を引き出すことがある

「御社の課題は何ですか」。この開かれた問いに、顧客は用意された当たり障りのない答えしか返さない。ところが、具体的な仮説をぶつけると、顧客の役割が変わる。

たとえば、ある物流企業への商談で、「関西拠点の流通加工が全体のボトルネックで、ここに年間数千万円規模の無駄が出ているのではないか」と切り出したとする。仮説は外れていた。しかし顧客はこう返してくる。「いや、加工は昨年改善したんです。いま本当に苦しいのは、むしろ配送のラストワンマイルで……」

何が起きたのか。顧客が「一般論を答える側」から、「こちらの仮説を検証し、修正する側」に回ったのだ。

もう1つ、注目してほしいことがある。返ってきた修正も、具体的だということだ。「拠点」「流通加工」という粒度でぶつけられた顧客は、「配送のラストワンマイル」という同じ粒度で返してくる。修正は、ぶつけた点と同じ解像度で返ってくる。会話の解像度は、最初に置いた点の解像度に引っ張られるのだ。

「課題はコストですか」と粗く聞けば、粗い答えしか返らない。解像度の高い点は、外れていても、同じく高解像度の修正を引き出す。だから、外れたにもかかわらず、高解像度の真の課題に辿り着ける。これが、高解像度の点を設定する効果だ。

ただし、どんな外れ方でもいいわけではない。外れには2種類ある。調べ抜いた上での「惜しい外し」は最高の呼び水になる。一方で、事業を根本から誤解した外しは、信頼を壊す。

この両者を分けるのが「線」、つまり点へ至る論理の鎖だ。筋の通った仮説は、外れても「そう考えるのも無理はない、ただ実際は……」という、信頼を保ったままの外れ方をする。線は、点が外れたときの安全装置なのだ。

ハイパフォーマーとの差は「点」ではなく「面」

線の価値は、安全装置にとどまらない。線を編むために調べ、咀嚼した過程で、頭の中にはもっと大きなものが残っている。それが「面」、企業と業界への理解の広がりだ。商談で差がつきやすいのは、こちらのほうだ。

結論だけを暗記して商談に臨むのは、行ったことのない街の駅名だけを覚えているようなものだ。駅名が「点」、駅までの道順が「線」、そして街全体の地図が「面」にあたる。道順を覚えていれば、駅までは辿り着ける。だが道を1本外れた瞬間、現在地がわからなくなり、次にどちらへ進めばよいのかもわからなくなる。

面を持つとは、その街の地図を理解しているということだ。どの角を曲がっても、戻り方がわかる。この先を曲がると何があるのかわかる。

点や線しか持っていない営業は、顧客に「違う」と言われた瞬間に止まる。用意した提案は外れた課題には使えず、手持ちの引き出しから一番それっぽい事例を出すしかない。その結果、相手の話と微妙にずれてしまい、信頼を失っていく。

面を持っている営業は違う。「そこじゃない、本当はこうだ」と修正された瞬間に、「なるほど、ということはこういう構造か」と会話を組み直せる。想定と違う課題が出てきても、その場で提案を合わせられる。

営業組織を見てきた人なら、思い当たる節があるのではないだろうか。ハイパフォーマーとそれ以外の差は、仮説の「当たる率」だけではない。仮説が外れた後も違うのだ。これまで「センス」や「地頭」と呼ばれてきたものの正体は、結論の「点」ではなく、それを支える「面」の厚みなのだと思っている。

商談の前に3つの点検を

商談の前に、自分の仮説を「点・線・面」の3つの観点で点検してみてほしい。

①|点は「課題名」で止まっていないか

「コスト削減が課題だろう」。これは仮説ではなく分類だ。判定は簡単で、その一文に「どこの・何が・なぜ」が入っているかを見ればいい。「関西拠点の(どこの)流通加工が(何が)、EC比率の上昇に処理が追いつかず(なぜ)、ボトルネックになっているのではないか」。ここまで降りて初めて、顧客が「いや、そこじゃなくて……」と高解像度で修正できる。

②|線の各ステップに「なぜそう言えるか」があるか

「この課題があるはずだ。なぜなら……」。決算資料のこの数字、中期計画のこの一節、この求人の出し方。根拠を遡って背景を言葉にできれば、その仮説は外れても「そこまで調べてきたのか」という信頼に変わる。途中で「なんとなく」としか言えない箇所が見つかったら、そこが商談で信頼を失うかもしれないポイントだ。対策は簡単で、そういう箇所を当日までに調べ直せばいい。

③|線が折れたとき、どこから引き直すか

仮説が外れた瞬間に手が止まるのは、仮説を「ひと塊」で持っているからだ。線は「事実→解釈→課題」という鎖でできている。先の物流の例なら、「EC比率が上がっている(事実)→拠点の処理が追いつかなくなっているはず(解釈)→流通加工がボトルネック(課題)」。

顧客に「加工は昨年改善した」と言われたとき、折れたのは最後の一段だけで、事実と解釈はまだ生きている。だから「処理量が増えているのは合っていますか。だとすると、いま負荷はどこに移っているんでしょう」と、生き残った鎖の上から聞き直せる。先の例で顧客が「ラストワンマイル」と返してきたのは、まさにこの筋の先だ。そして、折れた一段の代わりをその場で探すとき、足場になるのが面だ。地図を持っていれば、どの道が塞がっていても、別の道を引き直せる。

商談前に決めておくのは、想定問答ではない。「この線の中で、最も危うい一段はどこか。そこが折れたら、どこまで戻って聞き直すか」。外れた瞬間、仮説の全部を守ろうとするから、全部が崩れる。折れた一段を特定して差し替えれば、鎖の残りはそのまま武器になる。

気づいた人もいると思うが、この3つは結局、同じことを要求している。結論の「点」だけでなく、そこへ至る「線」と、それを支える「面」を持って商談に臨め、ということだ。

この「面」を、個人のセンスに委ねないために

精度をどれだけ追い切っても、仮説は外れることがある。それでも、点を細かく置き、線の筋を通して準備した仮説は、外れた瞬間にも働く。本音を引き出し、信頼を保ち、その場で提案を組み直す足場になる。価値は結論という「点」だけでなく、そこへ至る「線」と、その先に広がる理解の「面」に宿る。ここまでが今回の話だ。

すると、次の問いが立ち上がる。この面を持てるのは、調べ込みと咀嚼を厭わない一部の優秀な営業だけなのか。センスと経験年数に委ねるしかないのか。

私たちは、そうは考えていない。この面こそ、プロダクトが作り込むべきものだと考えている。

また別のnoteで私たちが開発している商談準備AI「Value Intelligence」の設計思想について書こうと思う。


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