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花日誌 2026/03 第4週: ミツマタ(ジンチョウゲ科ミツマタ属)

中国から製紙法と一緒に帰化。コウゾ、ガンピ(雁皮)とともに、靱皮(じんぴ)植物の代表。お札にも使われている和紙の原料である。靱皮とは広辞苑を引いたら、「二次成長に伴って形成層から作られる二次笥部のこと」とある?

はやくいえば、樹皮の内側の部分で、強靱で繊維が長く(といっても1cm弱)、白くなめらかで、お札、証書、地図などの精密印刷に適しているとのこと。(1) 

こどものころ、農家の人が馬小屋の壁を塗っているのを見たことがある。土壁である。その土の中には短く切った稲わらが混ぜこまれていた。カーボンファイバーの原理はむかしから利用されている。

岡山県、島根県、徳島県などに産地があるが(6)、高齢化に伴い、洋紙の影響もあり、8割以上はネパールからの輸入である(7)。原産国はヒマラヤ~東南アジア。日本の山野に自生しているものは帰化植物の逸出種扱いである。

所属する科はTHYMELAEACEAE(ティメラエアケアエ)ジンチョウゲ科

ジンチョウゲ科では、千葉県ではガンビ属は稀なので、属はつぎの二属で充分でないか。
Daphne(ダフネ):   ジンチョウゲ属     園芸ではダフネ属ともいわれることがある。
Edgeworthia(エッジワーシア): ミツマタ属    Edgeworthiaは人名由来。

種名は Edgeworthia chrysantha(エッジワーシア・ クリサンタ)

古代ギリシャ語chrysanthemonからきた名前でその意味はchrysos(黄金色)+ anthemon(花)(3)。 (英語では菊のことをChrysanthemumというが、綴れなかった記憶がある。黄色い花という意味だったんだ。)


ミツマタの花 2026/03/17
ミツマタの花と樹肌 2026/03/17 

形質を(3)から拾うと、
落葉低木、高さ1~2m、幹は直立、枝は3本ずつにに分かれ黄褐色、若い枝は緑色で毛を帯びる。
葉は薄く、葉柄があり、互生し、広皮針形全縁であざやかな緑色。
秋の終り頃、落葉する時にはすでに枝の先に1~2群のつぼみがたれ下がって付いており、早落性の葉状の苞葉ががある。
春に新しい葉に先だって黄色の頭状花を開き、ハチの巣に似ている。がくは筒状で4裂し、外面に白く柔らかい細毛が密生し、内面は薄い黄色で毛はまったくない。おしべ8本、めしべ1本。
果実はそう果。

(3)の牧野植物図鑑にない、主に、葉に関する形質を(4)から補うと、
葉は狭長楕円形~披針形、鋭頭、長さ8~15cm、幅2~4cm、上面まばらに、下面はやや密に伏毛、基部は鋭形で5~8mmの葉柄がある。

同じく、(5)の図鑑から補うと、
半球状の樹形をなし、夏頃今年枝端が急に3岐する。葉は長さ、9~25cm、幅2~6cm、先端は鋭形、基部は長いくさび形で長さ5~8mmの柄となる。両面、特に裏面に絹毛を密生する。(頭状花序は30~50個の花からなる。花後点頭する。花は葉の伸びる前、3~4月に咲く。)

分類/検索で困るのは、用語が一定していないとき(上の例でも、細毛、伏毛、絹毛と違いがある)、数値が違うとき、取りあげる形質が、図鑑によって、あるいは著者によってまちまちであるときである。たいへんな世界に足を踏み入れてしまった。

文中、「点頭」とあるのは、うなずくことの古風な表現。植物用語では下方を向けること。点頭しているミツマタの花には、まだ、お目にかかれなかった。厳密にいうと、クリスマス・ローズのように、はじめから下を向いている状態は「点頭する」とはいわないかもしれないが、花が下を向いて、「点頭して」いる二例。

下左は野草では一番好きなオダマキ(栽培種購入品  ¥160.)。右はオキナグサで、市川市万葉植物園での開花第1号。地面に置いた薄手のカメラを空に向けて撮影している。安いカメラにも使い道はある。

2026/03/25

三椏の花に寒さのとどまりし   今井千鶴子
薄ら陽の花三椏よ母に癌          野田由美子

両句とも、観察の句だと思われる。俳人は三椏の花のどこを見ていたのか。

植物の命名者はその判別文を、2011年まではラテン語で書かなければならなかった(2012年からは英語も可)。ラテン語の単語をどう発音するかは、外国人とではなければ、そうむずかしくはない。

ラテン語を話す国民はとうの昔に滅亡しており、書き言葉だけが残されているからだ。その言葉をそれぞれの国のなまりでそれぞれの国民が話している。

日本語は音節の言葉である。だから、ラテン語の子音に母音が続いていなければ、母音を付けて、ローマ字ふうに音節で表記できればよい。「ラ」を[ra]と発音するか、[la]と発音するかは日本語の表記には関係がない。

ラテン語の単語を、日本語の仮名にどう置きかえるかの「アンチョコ」がある。「安直」を、何十年前は「アンチョコ」といっていた気がする。英語の単語を引かないで、アンチョコの訳文を読んでいた。

ラテン語のアンチョコをだれがつくったかというと、翁が資料的にたどれるのは、日本植物学会会報(1953.3号)に掲載された「ラテン語の実際的なカナ文字化(案)」という論文である。

「(案)」だから、決定稿があるだろうといわれそうだがないようだ。1988年に発行された「園芸植物大事典」の凡例(1)でも、やはり、「(案)」が引用されている。

以下、そのアンチョコのダイジェストである。(1)から、できるだけ、アルファベットの列に組みいれるように変更して引用した。詳しくは(2)参照。

a  ア
ae  アエ、ときに  エ  二重母音は特別な書き方になることがある。
archi  アルキ   
au   アウ  
b   バ、ビ、ブ、ベ、ボ   bのあとの母音によってかわる。以下、同じ。
bso ブソ  
bto  ブト 
c   カ、キ、ク、ケ、コ  ときに サ、シ、ス、セ、ソ  Cyclamen(シクラメン)
ch   カ、キ、ク、ケ、コ
chloro クロロ
d     ダ、ディ、ドゥ、デ、ド
dendron  デンドロン
e     エ
ecto      エクト
ei    エイ
f      ファ、フィ、フ、フェ、フォ
g     ガ、ギ(ジ)、グ、ゲ、ゴ
h        ハ、ヒ、フ、ヘ、ホ  サイレント(無音)ではない
i      イ
ium イウム
j         ヤ、ユ、イェ、ヨ      半母音
k,kh カ、キ、ク、ケ、コ    kはラテン語にはない。外来文字
l         ラ、リ、ル、レ、ロ
m       マ、ミ、ム、メ、モ
mb   ン
mm  ン
mp   ン
n        ナ、ニ、ヌ、ネ、ノ
nn    ン  canna(カンナ)
o      オ
oe    オエ、ときにエ
p   パ、ピ、プ、ペ、ポ
ph      ファ、フィ、フ、フェ、フォ
pro   プ  pro(プロ)
psa   プサ
pto    プト
qu  クア、クイ、ク、クエ、クオ  
r,    ラ、リ、ル、レ、ロ  つぎが母音でない場合 ル 
rh   ラ、リ、ル、レ、ロ
s    サ、シ、ス、セ、ソ    つねに清音。濁音にならない
t,th    タ、ティ、ツ、テ、ト   
trum    ト   trum(トルム)
u         ウ
ui        ウイ
v         ウァ、ウイ(このイは小書き)、ウ、ウェ、ウォ、 ときに バ、ビ、ブ、ベ、ボ (Verbena バーベナ)  半母音
w      ワ、イ、ウ、エ、オ    ラテン語にはない文字。
x         クサ、クシ、クス、クセ、クソ
y         イ
z         ザ、ジ、ズ、ゼ、ゾ

*音量を反映する長音符号「ー」はなるべく用いない。 oo、ii には用いるときがある。wilsonii(ウイルソニー)
*子音が2個続く場合は促音となる。ただし、llとrrの場合は、促音としない。
*「じじいのアンチョコでは、ミツマタの学名が読めないではないか」といわれそうだが、ラテン語またはラテン語化されたギリシャ語以外で、人名などの固有名詞に由来するものについては、極力その語本来の発音になる。

Edgeworthiaは東インド会社に勤めていた植物研究家Edgeworthさんにちなんだ属名で、エッジワーシーさんは英国人の植物研究家だった。(1)

カタカナばかりで漢字が恋しくなった? つぎの漢字で書かれた種名をどう読む? 全部、早春の花木。解答は本文の最後。黄色でない花は?
①油瀝青 ②接骨木 ③夜叉五倍子 ④大葉紅槲 ⑤山茱萸

引用資料
(1) 園芸植物大事典 第1巻、他巻 小学館 1990 (凡例、他)
(2) 植物の学名を読み解く 田中學 朝日新聞社 2007
(3) 新訂牧野新日本植物図鑑 北隆館 2000
(4) 原色日本植物図鑑 木本編Ⅰ 北村四郎他 保育社 1991(改定24刷)
(5)   日本の野生生物 木本Ⅱ 佐竹義輔t他 平凡社 1989
(6)   和紙原料の生産状況等について 農林水産省 2025
tokusan-19.pdf
(7) ネパールが支える日本紙幣 原料の樹木、大半を生産 - 日本経済新聞 2019 


【余談ながら】
牧野富太郎博士は小学校中退。それが、植物用語については、英語だけではなくラテン語まで勉強されている。
石を投げれば先生にあたる時代であるが、学校の先生とお医者さん以外は、会社でも議事堂でも「さん」がいいと思う。
昔々、京都大学理学部の教職員のあいだでは、みんなが「さん」で呼びあっていた。ところが湯川秀樹先生だけはさんとは呼べなかったという。(長年、湯川先生の秘書を務めた小川洋子(この記憶は曖昧)さんがラヂオ放送で語っていた話。)翁も、牧野富太郎博士はどうも、牧野富太郎さんとはたいへんいいがたい。

解答
①アブラチャン ②ニワトコ ③ヤシャブシ ④オオバベニカシワ ⑤サンシュユ  

次回はサクラ。では、また来週金曜日。

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2026.03.27