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『憐れみの3章』レビュー|愛と支配の歪んだ真実。不条理に揺れる人間の業を描く三部作。

2024年に公開された『憐れみの3章』(原題: Kinds of Kindness)は、『哀れなるものたち』や『ロブスター』で知られるヨルゴス・ランティモス監督が、長年タッグを組んできたエフィティミス・フィリッポウとともに脚本を手掛けたサスペンス・ブラックコメディだ。第77回カンヌ国際映画祭にて、主演の一人であるジェシー・プレモンスが男優賞を受賞した。

本作は「R.M.F.の死」「R.M.F.の飛翔」「R.M.F.の誕生」という3つの独立した物語で構成されるオムニバス映画だ。エマ・ストーン、ジェシー・プレモンス、ウィレム・デフォーといった同じ主要キャスト陣が、それぞれの章で全く異なる人物を演じ分けている。

自分の人生を他人に支配される男、遭難から帰還した妻を別人だと疑う警察官、特別な人物を探すカルト的な共同体の中で、その人物を見つけようとする女性。3つの物語を通して、愛や承認、服従に囚われた人間の奇妙でグロテスクな本性が浮かび上がっていく。


■ 5秒でわかる結論

  • おすすめ度:★★★★★

  • 優先度 :最高(ヨルゴス・ランティモス監督の不条理な世界観を堪能したい時、支配と従属の間に生じる人間の複雑な心理を凝視したい時に)

  • 上映時間 :約164分

  • 感情タイプ:登場人物たちの不条理な行動や痛々しい選択に困惑しながらも、服従の中にしか救いを見出せない人間の切なさと可笑しさに目が離せなくなり、割り切れない重厚な余韻が残る


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👉 支配するか、従属するか。「親切(Kindness)」という言葉の裏に潜む不条理な欲望と、豪華キャスト陣による圧巻の演じ分けを、ぜひ映像で体感してみてほしい。


■ 向いている人・向かない人

【向いている人】

  • 同じキャスト陣が全く異なる3つの役柄を怪演する、卓越した表現力とアンサンブルを味わいたい

  • 明確な答えや解説を与えず、観客の倫理観や解釈を揺さぶるシュールで無機質な不条理劇を好む

  • 支配と被支配、愛と依存の境界線に潜む人間のグロテスクな欲望を、冷酷かつ不気味なテンポ感で観察したい

【向かない人】

  • 分かりやすい伏線回収や、因果関係が明快なストーリー構成を求めている

  • 倫理的に不快な描写や、痛々しく不可解な人間行動を描いた展開が苦手である


■ 作品の評価

【微妙だった点】
物語の展開には論理的な説明や分かりやすい救いがほとんど存在せず、登場人物たちの行動原理は極めて奇怪です。倫理的な不快感を伴うシーンや痛々しい選択も多いため、観る人によっては強い拒否感を覚えたり、突き放されたような困惑が残ったりすることがあります。

→ しかし、この不条理な違和感こそが本作の神髄です。過剰な説明を排除したシュールな世界観だからこそ、他者からの承認や服従に固執する人間の愚かさと悲哀が、誤魔化されることなく鮮明に炙り出されています。


■ 支配と服従が織りなす「親切」の反転

本作の面白さは、「親切(Kindness)」という言葉が持っている不穏な多面性にあります。

第1章では、指示された通りの服装をし、指示された時間に事故を起こすことでしか生きがいを感じられない男が描かれます。第2章では、遭難から帰還した妻に対して過酷な要求を突きつけ、自らの愛を証明させようとする警察官の狂気が描かれます。第3章では、汚れなき水を求めるカルト教団の中で、自らの居場所と役目を必死に追い求める女性の姿が描かれます。

これら3つのエピソードに共通するのは、人間が「他者に支配されること」や「他者を従属させること」を、愛や救いと地続きのものとして受け入れてしまう点です。

自分が自分であるための理由を他者の承認に依存する姿は、滑稽でありながらも哀しく、人間の根底にある孤独を浮き彫りにします。同じ役者たちが異なる衣服を纏い、別の不条理を演じる構造によって、この歪んだ主題が反復され、観客の胸に逃げ場のない問いとして迫ってきます。


■ 他作品との比較

  • 理不尽なルールに支配されたホテルのなかで、独身者が動物へと変えられていく不条理ディストピア・サスペンス → 『ロブスター』

  • 見知らぬ少年の訪問をきっかけに、静かな家庭の調和が崩壊し、不条理な犠牲を迫られていくサイコ・ホラー → 『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』


■ 個人的な感想

無機質で静謐な画面づくりと、場面に不穏な形で差し込まれる重厚な音楽の不気味さに終始圧倒された。

ジェシー・プレモンスをはじめとするキャスト陣の怪演は見事で、前の章で見せた表情とは全く異なる人物としてスクリーンに存在している凄みがある。登場人物たちが選ぶ行動は常識から大きく逸脱しているにもかかわらず、その根底にある「認められたい」「従いたい」という切実な欲望には、ハッとさせられる生々しさがあった。

不快感と可笑しさが紙一重で同居する展開が続き、観ている最中はずっと落ち着かない感覚に包まれていた。3つの物語を通し、人間の愚かさや執着がどこまでも続いていくような幕切れに、重く深い余韻が残った。

視聴後の一語:服従


■ 最終判断

支配と従属の狭間で揺れる人間の業を、シュールな映像美と抜群の演じ分けで描き切った傑作です。理屈や常識では割り切れない人間の奇妙な本質を凝視したい方に、ぜひ観てほしい一作です。

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