ショートショート『ダンディーマン』
今回こちらの企画に参加します!
「自由とは」のお題と、宇宙珍獣さんとのことなので、宇宙もので頑張ってみたいと思っております!
宇宙ものは初なので、緊張しております!
それではスタート!
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彼の名前は自称ダンディーマン。S59星雲で派遣のバイトをしている。
四十五歳で、時給は千三百円だ。もちろん独身である。
若いころは地球を何度か救ったらしいが、その栄光を知る者はほとんど残っていない。今では工場や倉庫を転々としながら生活している。
彼がよく言う口癖がある。
「それはダンディーなのか」
はっきり言って腹立たしい。
四十五で派遣バイトしてるやつに言われたくない。
彼は今、友人であるウルトラのバカ(通称UB)と仕事終わりに居酒屋で飲んでいた。
店内は、焼き鳥の煙とビールの匂いが充満している。
ウルトラのバカ
「ビールがジュワッ、ジュワッ」
ダンディーマン
「相変わらずうるせ〜な」
二人は壁際の安いテーブル席に座り、ジョッキを片手に今日もくだらない話をしていた。
ダンディーマン
「おまえ唐揚げいつまで口の中に入れてんだよ」
ウルトラのバカ
「若けーころに怪獣に殴られすぎて歯が六本しか残ってねーんだよ。しょうがねーだろ」
ダンディーマン
「怪人との戦い終わっても国はなんも補償してくんねーからな。現役すぎたら俺達なんもできねーし。ヒーローの教育係になれるのごく一部だしな。やってらんねーよ」
ジョッキを傾けながら愚痴をこぼす姿は、もはや宇宙を救った英雄ではない。
ウルトラのバカ
「おまえの必殺技なんだっけ? あの役に立たねーやつ」
ダンディーマン
「ジャケットプレイのことか。馬鹿だな。ダンディーに見えるだろ。おまえの必殺技はなんだっけ、禁止にされたやつ」
ウルトラのバカ
「あー、目つぶしのことか。子供からのクレーム酷かったかんな。ギャハハッ」
店の奥では大学生らしいグループが笑っている。
その笑い声に負けないくらい、大声で二人も笑った。
ダンディーマン
「しかし、今日の工場勤務きつかったな。あのリーダー年下のくせに、タメ語で怒鳴ってきやがって、現役だったら引っ叩いてたぜ」
ウルトラのバカ
「うちら集中力三分だけだからんな。そりゃ八時間労働させたら、怒られんだろ」
二人は顔を見合わせると、声を出して笑った。
三分しか戦えなかった頃は短すぎると思っていた。
だが今思えば、三分だけ本気を出せばよかった時代は、案外幸せだったのかもしれない。
ジョッキの底には、もう氷しか残っていなかった。
ダンディーマン
「おまえはなんでウルトラのバカなんて名前なんだよ。親族で呼ぶ風習はどうしたんだ。父だの母だの」
ウルトラのバカ
「いや、俺も最初はウルトラのハトコって名前だったんだよ。でも偏差値が30台なことがバレてよ。こんな名前に改名させられたんだよ」
ダンディーマン
「ふーん。計算ドリルもできねー感じだな」
ウルトラのバカ
「おまえ戦ってて苦労した怪獣いる?」
ダンディーマン
「『恐怖!二郎系マシマシ・マシマシー』の回がきつかったな。マシマシでもきちーのに、さらにマシマシにされたかんな」
ウルトラのバカ
「そんな初代仮面ライダーみたいなタイトルつけていいのか」
ダンディーマン
「あ、気になるのそっちか」
ダンディーマンは、隣でジョッキを傾ける友人を頭の先からつま先まで眺めた。
少し色あせたジャンパーに、履き古したスニーカー。どう見ても宇宙を救った英雄には見えない。
軽くため息をついて口を開く。
ダンディーマン
「それにしてもおまえの今日の服装ダンディーじゃねーな」
ウルトラのバカ
「うるせーよ。おまえがダンディーなの服装だけじゃねーかよ。いっつも金もってねーし。今日の分ぐらい持ってるんだろうな」
ダンディーマンは胸元のベストを得意げになでた。
ダンディーマン
「いや。持ってねーよ。服にほとんど使ったかんな」
ウルトラのバカ
「え、飲み代も持ってねーのに俺の服装ディスってるのかよ。貯金しろって何回言わせんだよ」
ダンディーマン
「いや、貯金とかいけてねーだろ。それはダンディーなのか?」
ウルトラのバカ
「飲み代も毎回持ってねーやつがダンディーな訳ねーだろ。頭おかしいのか」
隣の席の客が思わず吹き出しそうになり、慌ててビールでごまかしていた。
そんな話をしていると、店員がダンディーマンが注文した焼酎のお湯割りを持ってきた。
湯気がふわりと立ち上り、柚子の香りが鼻をくすぐる。
ダンディーマンは、それを軽く飲む。
眉がぴくりと動いた。
ダンディーマン
「ちょっと。俺さー、お湯、熱々って言ったよね。作り直してよ」
ウルトラのバカ
(こいつ金も持ってねーのにこんな態度でけーの、ある意味すげーけど、腹立つは)
店員は苦笑いを浮かべながら、「申し訳ありません」とジョッキを下げていった。
ダンディーマンは腕を組み、小さくうなずく。
「熱々じゃないお湯割りは、ダンディーじゃない」
誰に聞かせるでもなく、そう呟いた。
二時間程飲んで二人は店を出た。
夜風が少し酔いを冷まし、ネオンが濡れたアスファルトに揺れている。
ウルトラのバカ
「じゃあ帰るか」
ダンディーマン
「え、二軒目行かないの。乗り悪いーじゃん」
ウルトラのバカ
「おまえ金持ってねーだろうが」
ダンディーマン
「ほんと、おまえダンディーじゃねーよな。ふつう持ってる方が出すだろ」
その一言で、ウルトラのバカのこめかみに血管が浮き上がった。
さっきまで酒で赤かった顔が、今度は怒りで真っ赤になる。
ウルトラのバカは怒りに震え、ダンディーマンをチョークスリーパーをかけ、禁じられていた目つぶしを解禁した。

「ギャーッ!」
夜の繁華街に、元ヒーローとは思えない悲鳴が響いた。
通行人は一瞬振り返ったものの、「酔っぱらいか」と誰も気に留めることなく、それぞれの夜へと消えていった。
宇宙を救った英雄の現在など、案外そんなものだ。
完
