[ショートショート]忘れ物
天国の入り口には、小さな窓口があった。
看板にはこう書かれている。
『忘れ物受付』
毎日たくさんの人がやってくる。
「財布です」
「眼鏡です」
「家の鍵を置いてきました」
係員は慣れた手つきで台帳に記入していく。
私は最後尾に並んだ。
やっと順番がくる。
「お名前をどうぞ」
名前を告げると、係員は分厚い帳簿をめくった。
「あぁ……あなたですね」
奥の棚から、小さな箱を持ってくる。
「こちらが忘れ物です」
箱の中には何も入ってなかった。
「空ですよ?」
係員は少しだけ困った顔をした。
「いいえ。入ってました」
「何がです?」
「『あリがとう』です。地上に置いたままで した」
私は思わず振り返った。
もう戻ることはできなかった。
