〚お客をえらぶギター奏者の物語(仮題)〛通し番号275. 《波風》(3)
町のギター工房と ギター道場のアイドル、こうき君は 中央の役人である父親の、この県への出向に付いて引っ越して来た。(通し番号105話)
県庁所在地の街にある 官舎で暮らしているが、平日は 毎日のように母親に伴われ 大好きな電車に乗り やって来る。
道場では 弱冠2才にして ギターの稽古に励み 師匠を唸らせ、
工房では おと少年の演奏を聴いたり 親方や弟子たちのギター作りを 熱心に見学するなどしている。
皆に 愛されている坊やだが、出向は 大抵2〜3年間と相場が決まっており、そろそろまた転勤の時期か…
(せっかく この地に馴染んで、人にも恵まれたところなのに)
母親の幸子さんは 密かに胸を痛めている。
(おじいちゃん おばあちゃんのいる首都に戻れるなら まだ良いが、全く新しい土地へ移るのは こうきが不憫)
とは言え 辞令は絶対、否という選択肢はない。
2年近く前に こう君の父親が 県庁の地元振興課長として赴任した際、礼儀正しい 温和そうな人が来た、と課員達は ホッとしたものだ。
こういった出向は 中央と地方の相互理解を深め パイプを強化し、
出向者は、首都のビル群に居てはわかり得ない 各地域の人々の生活を肌身で感じ 現場感覚を養い 政策実現に生かす、
課員達は 地元の現状を直に伝え、俯瞰的視点からの課題や 最新の専門的知見を得られる、
等が目的であり 利点であろう。
難関大学を卒業して 官庁に入り、数年から十数年間の激務を耐え抜いた 優秀な人材ばかりが 代わる代わる赴任するわけだ。
(この物語は おとぎ話です。登場する人びと、場所、出来ごと等 全て 架空の存在であり、モデルはありません。こんな人びとがいたら良いな、と願って書いているところはあります。)
