〚お客をえらぶギター奏者の物語(仮題)〛通し番号282. 《波風》(10)
「何とかして N課長に考えを変えさせるか、上位の者に 代理印を押させるか、二つにひとつ」
「あのう、主人は そういう点は潔癖なので…」
「自分が差し置かれたと 騒ぎ立てるか」
「はい、恐らくは。いつまでも しつこく」
「いくら元は 彼の理不尽でも、中央は そう思わず『出向者が 虚仮にされた』と捉えるかもな」
「藩のために 迂闊な真似はできません」県議会議員は、県を 藩と言い間違えている。
「誰か 彼を 説得できる者はいないのか…」
「主人は N大学の卒業生か、よほど偉い人の言うことしか聞きません」
「知事は N大学ご卒業だし 中央官僚出身、中央議員の実績もお有りだ」
「それでしたら ひょっとして主人も従うかも」
「いや、しかし、」県議会議員が 首を振り、「殿が 自ら ご出座あそばされては、それこそ幕府を刺激してしまうやもしれませぬ。そのような事態は 断じて避けねばなりません」
(『議員は 代々 家老のお家柄で…』浜さんが 幸子さんに耳打ちする)
そうこうしているうちに 浜さんは県庁へ戻らねばならぬ時刻、
ひとまず散会して 銘々が 課員始め 然るべき筋に報告、名案を募ることとなった。
ずっと黙して参加していた潤さんと 音楽堂支配人のさくらさんが、幸子さんを 挟んで座り
「あなたは 何も悪くないのよ」
「そんなに 心を痛めないで」
「あぁ あなたとこうき君の 力になりたいわ」
「何をすれば良いか わからないけれども、何でも言って頂戴ね」
口々に慰め、励ましているところへ こうき君が連れて来られる。
「あぁ こうき、ギター弾けた?」
「うん!たのちかった!」
お日さまのような笑顔に、潤さん さくらさんは 涙を誘われ、そっと顔を背ける。
(こうき君とも、もうじき さよならしなければならないのね…)
(この物語は おとぎ話です。登場する人びと、場所、出来ごと等 全て 架空の存在であり、モデルはありません。こんな人びとがいたら良いな、と願って書いているところはあります。)
