ノートを貸したくなかった
高校時代のことを思い出しました。
科目は現代文でした。
その先生が、私は大好きでした。
熱血先生で、授業の熱量に思わず引き込まれてしまうくらい大好きな先生でした。
私はその科目については、かなり真面目にノートを取っていました。
ただし、きれいなノートではありません。
先生の言うことを拾うので精一杯の、きったない殴り書きのノートでした。
でも、私にとっては、その授業を必死に受けた跡だったのだと思います。
試験前になると、ある人から言われました。
「ノート貸して」
正直、私はそれがとても嫌でした。
ずるい。
腹が立つ。
利用されている感じがする。
軽く見られている感じがする。
自分だけ損している感じがする。
いろいろな感情がありましたが、実は一番強かったのは、「そんなに嫌なのに断れない自分が嫌」という感情でした。
「嫌だ」と言えばいい。
「貸せない」と言えばいい。
それだけの話です。
でも、言えませんでした。
貸したくない。
でも、断れない。
そのねじれた気持ちの行き場がなくなって、私は本当にひどいことをしました。
ノートのページの途中を抜いて貸したのです。
全部渡すのは嫌だった。
でも、貸さないとも言えなかった。
だから、一部だけ隠した。
今思えば、なんだそれ、と思います。
だったら断れよ。
きっぱり断るか、全部貸すか、どっちかだろ。
相手から、
「途中、抜けてない?」
と聞かれても、私は白を切りました。
ひどいな、と思います。
今思い出しても、ひでーなと思います。
ただ、そのときの自分の中には、罪悪感だけではないものもありました。
なんで、特に仲が良いわけでもないあなたに、私のノートを全部渡す必要があるのか。
私が先生の話に引き込まれて、必死に拾って、きったない字で書き留めたものを、なぜ試験前だけ簡単に持っていかれなければいけないのか。
そんな問いも、たしかにありました。
だから、今の自分から見ると、あのときの私は本当にひどい。
でも同時に、苦しかったのだろうなとも思います。
嫌なら嫌と言えばよかった。
ページを抜くくらいなら、断ればよかった。
でも、それができなかった。
