漆器のメリット1/8 : 見た目の美しさ

1000年受け継がれてきた美しさが、毎朝の食卓で使って楽しめる。

美しさは、主観的なもの。
何を美しいと感じるかは人それぞれで、正解はない。だから「漆器は美しい」と言っても、それはひとつの意見に過ぎない。しかし、漆器の光沢を前にしたとき「何か」感じる人は多い。その「何か」の正体を、少し掘り下げてみたい。

約9000年、日本人と生きてきた漆

漆の歴史は、想像以上に古い。
北海道垣ノ島B遺跡からは、世界最古とされる約9000年前の漆工品が出土しており、日本が縄文時代早期前半から漆工芸の技術を持っていたことが判明している。つまり漆器は、約9000年という時間をかけて、今の形に至っている。

その長い時間の中で、使いにくいもの・使う価値がないものは淘汰された。一方で、宮廷儀式や調度品、工芸品として使うべき価値を認められた漆は、その美意識の中で漆器として使われるようになる。もちろん最初に使い始めたのは当然天皇をはじめとする貴族たち。今わたしたちが手にしている漆器の原型は、彼らの暮らしの中にあり、それから何百年もかけて日本人の美意識に磨かれて研ぎ澄まされたものして、今我々の手元にある。その当時の美意識の結晶として生まれ、漆器は形・色・手触り、全てにおいて完成されていた。

歴史が長いから美しい、という話ではない。長い時間をかけて選ばれ続けた形には、理由がある。その理由が、見た目の美しさとしても今なお残っている。

漆独特の光沢

漆器の美しさの核心は、光沢にある。
ただ、漆の光沢はガラスや金属のそれとは異なる。鋭く反射するのではなく、柔らかく、奥から滲み出るような光り方をする。
これは奥行きのある漆の塗り重ねによって生まれる。漆は一度に厚く塗れない素材で、薄い層を何度も重ねることで仕上げていく。その積み重ねが、表面に深みを生む。光が表面だけでなく、層の内側でも反射するからこそ、あの柔らかな光沢になる。

漆黒

表面的には光沢が出る一方で、素材としての色を見ていくと、純粋な生漆は固まると茶色(漆で言うと溜色)になる。漆器のイメージが強い黒は、縄文時代から続く、鉄を添加して黒くする手法(鉄黒)によるもの。鉄イオンの作用により塗膜が乾燥を早める利点があったのと同時に、鉄分が漆の構造を変化させ光を反射しない「黒の中の黒」を作り出した。これが、漆黒という言葉の語源であり、漆独特の深みのある黒を加えている。この単体でも十分に美しい深みのある黒が、金や螺鈿での装飾をより際立たせる下地にもなり、貴族や武将たちなど時の権力者たちに愛された。
その美しさは、漆が素材として珍しかった西洋においてはより珍しいものとして歓迎され、中国の景徳鎮が代表する磁器などと共にオリエンタリズムの流れの中で貴族たちが金銀で装飾された漆器に熱狂した(これが磁器がChina、漆器がJapanと呼ばれる理由)。

僕たちが漆器に対して漠然と上品と感じる理由は、洗練された形と自然な光沢、奥深い漆黒。主張しすぎない、でも確かにある美しさ。それが漆器の美しさだ。

食卓を「整える」という機能

この漆器の見た目の美しさには、もうひとつ実用的な側面がある。
それは、食卓を整える力だ。

料理が豪華でなくても、漆器がひとつあるだけで食卓の印象が変わる。頑張って料理を作った日は、その料理をさらに引き立ててくれる。疲れて簡単な食事しか用意できなかった日でも、漆器があるだけでなんとなくまとまって見える。
派手に主張するのではなく、食卓全体のトーンをさりげなく引き上げる。漆器はそういう働きをする道具だ。毎日の食卓に特別なものは何も要らない。ただ漆器を添えるだけで、食事の質が静かに変えてくれる。

まとめにかえて

美しさは主観的なものだ。
でも、約9000年という時間をかけて選ばれ続けてきた漆には、多くの人が「何か」がある。

シンプルな漆器の形、漆独特の柔らかな光沢、時に漆黒という深い黒は、食卓を豊かにする。豪華な料理がなくても、特別な日でなくても。日常の、何でもない食卓に置かれたとき、その美しさはちゃんと機能する。

次回は、漆器のメリット2つ目、**「独特の触感」**について話す。

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mono|日常の工芸

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