【Essay】「山は、ふもとでニヤニヤしながら眺めるもの」と断言する私が、阿蘇で震えた理由
noteコンテスト【わくわくする瞬間】応募作
「で、何合目まで登ったの?」
誰かに山の話をすると、決まってこう聞かれます。
そのたびに私は、少しだけバツの悪い思いをしながら「いや、ふもとから眺めてただけ」と答えるのです。
すると相手は、まるで「唐揚げのレモンだけ食べて肉を残す奴」を観察するときのような、得体の知れない生物へ向ける視線を私に注ぐのです。
登山もしないのに山が好きなんて、「高級ステーキハウスに行って、肉には目もくれず添え合わせのクレソンだけを完食して帰る変人」だと思われているのかもしれません。
冒頭からわかりにくい食べ物の例えから
始まって、読者の皆様からは何の話なのだろうと思うかもしれませんが…
私にとっての山は「攻略する対象」ではありません。それは、無限の妄想を広げてくれる「巨大な落書き帳」なのです。
きっかけは小学生の頃でした。
海沿いの町で育ち、海のあらゆる遊びに飽きた私にとって、近所にある小さな山は最高の探検場所でした。
山に一歩踏み込めば、私の日常は非日常へと入れ替わるのです。
「あの茂みのガサガサから、レベル32くらいのポケモンが出てくるかもしれない!」
「伝説の勇者が退魔の剣をこの岩の裏に隠してるのかもしれない!」
「このめちゃくちゃ汚くてとんでもなく臭い沼から、美しい妖精が出てくるかもしれない!」
「もしこの洞穴が異世界への入り口だったら…!
入るのは止めとこう…お母ちゃんが心配するから!!」
そんな空想だけで、白米をオカズなしで3合はおかわりできました。
いや、さすがにそれは嘘です。山の3合とご飯の3合を掛けてみたかっただけです。
とにかく、それぐらい私にとっては、山への探検は無限大な夢で溢れた落書き帳そのものでした。
大人になった今も、その延長線上にいます。
山梨、静岡、長野……各地に家族や友人達などと旅行に行くたびに、大きな山を見ては、ボーッと1人で妄想を膨らませてばかりいます。
「あの山の中には、まだ誰も知らない文明があり、恐竜達が息を潜めて生息しているのではないか…」
「あの山頂には、謎の組織が最古の巨神兵を隠しているのかもしれない。
たぶん弱点は目と見せかけて、お尻の割れ目に隠された小さなホクロだろうな…」
と、ふもとで子どもの頃と変わらない妄想を膨らませて、一人ニヤニヤしていると、山の妖怪を見たかのような顔でみんなに気味悪がられます。
そんな「眺める派」の私は、数年前、仕事の関係で熊本へと行ったことがありました。
仕事を早々と終えた後、同行していた上司から
「せっかくだから【阿蘇山】に行って、あか牛丼でも食べに行こうよ」
と誘われました。
慣れない土地での仕事で疲れていたため、正直行きたくありません。
「あ、そうですか。
僕はあか牛丼ではなくアパホテルに戻り、ぐっすり眠ります」
とあまり上手くないダジャレを挟んで断りたかったのですが
もうすでに、上司のキラキラした瞳に美味しそうなあか牛が映っていましたので、2つ返事で阿蘇山へとレンタカーで向かいました。
車の中で、私は阿蘇山について考えました。
(阿蘇山かぁ、たぶん日本アルプスの山達に比べれば、そんなたいしたことないんだろうな…)
当時の私は無知で、我が国で日本アルプスを越える山々は存在しないと思っていました。
それだけ色んな山を眺めては、妄想を膨らませ続けてきたので、目が肥えてしまったのです。
私は上司との話が弾まない熊本出張中に、阿蘇山をオカズに退屈な時間を妄想で費やそうと思っていました。
(なんかここ↑の文章だけ見ると、ヤバい奴に思えるかもしれません…
要するに、私の中で阿蘇山は暇潰し程度にしかならない山だと思っていたのです…)
そして、全く期待せずに阿蘇山へと辿り着きます。
私は「どれどれ?」と品定めするようなイヤらしい目つきで阿蘇山を眺めました。
すると、私のイヤらしい目つきは
生まれたての小鹿のような、一点の曇りもないキラキラした瞳へと瞬時に変わったのです。
「な、なんだこいつはぁぁああああっ…!?」
阿蘇は、私がこれまで妄想してきた「山」という概念すら生ぬるく感じるほどの、圧倒的な「異界」でした。
今まで見てきた緑豊かな山とは違い、この山は煮えくり返るようなマグマの熱に焼かれ続け、大地が内側から変色してしまった、どす黒く、重苦しい赤なのです。
阿蘇山は、もはや景色ではなく、地球の「いのち」が露出しているような、生々しい生命感なのです。
「この山は本当に生きているんだ。
もしかしたら、ここは神々が…」
足元から伝わる微かな振動を感じたとき、私の妄想は止まります。
空想を差し挟む余地もないほど、目の前の現実が「凄み」を持って迫ってきたからです。
登山靴も履かず、ただ立ち尽くしているだけの私のちっぽけさを、阿蘇の巨大な鼓動が笑っているような気がしました。
ああ、これが阿蘇山…
私が長年行きたかった妄想の世界そのものです。
絶対にこの山はあの頃憧れた異界へと繋がっています。
妄想なんかじゃありません。
阿蘇山は、現実世界からそこへと無理矢理連れて行ってくれる異界への門なのです。
相変わらず、私の趣味は誰にも理解されません。「登らない山が、何が楽しいの?」と笑われてばかりです。
でも、いいのです。
阿蘇で感じたあの「世界を歪ませる感覚」を知ってしまった今、私の妄想はさらに巨大なスケールへと更新されてしまったのです。
やっぱり山は登山しなくても、眺めてるだけでもワクワクします!
~おわり~
【あとがき】
ちなみにですが、その後、約束通り
上司とあか牛丼を食べに行きました。
もちろん、肉には目もくれず添え合わせのクレソンだけを完食して帰ることはなく、しっかり米粒1つ残さずに完食したことを報告します。
(冒頭でそんなことを書いてしまったので、誤解されないように念のため…)
それと、もう1つちなみになのですが
阿蘇山の写真をこのエッセイに載せれば、この上ないほどの名作になるかもしれませんが、
当時私は勤務中でもあり、この感動は写真ではなく心の奥に留めておこうと思い、一切写真を撮っていません。
そのため、読者の皆様には申し訳ありませんが、このエッセイに写真を載せることはできません。
いや、それはごめんなさい、嘘です。
本当のことを言うと、めちゃくちゃ感動して阿蘇山を舐め回すようにあらゆる角度でパシャパシャと大はしゃぎで写真を撮りまくりました。
だけど、当時の写真はスマホの機種変更した時に、なんかよくわからないのですが
機械音痴だったため全て失ってしまったのです。
そんなアホみたいな理由で、阿蘇山の写真は私の写真フォルダには残っていません。
私の写真は宇宙一可愛い息子の写真でいっぱいなのです。
だから、読者の皆様、阿蘇山が気になるようであれば、検索して阿蘇の画像を見つけてください!
いや、写真じゃやっぱりわかりません!
この感動は実際に行ってみて感じてください!!!!
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