【2分小説】小さい頃は神様がいて
ああ、僕はいつから、こんなにつまらない大人になってしまったのだろうか…
京王線の満員電車に揺られ、
スマホの動画をボーッと見つめる毎日。
どこかのYouTuberが
【鳩にバスケのルールを100日間教え続けてみた!】
とか、本当はどうでもいい…
府中駅に降り立っても、目に映るのは「明日も仕事だ」という憂鬱な現実だけだった。
世界はモノクロように色を失い、僕の心は日々のルーチンですっかり摩耗していた。
そんな僕の前に、彼女が初めて現れた。
南口の時計台の下。
彼女は、雲のように白いワンピースを纏い、透き通るような肌をしていた。
長くしなやかな黒髪が風に揺れるたび、どこか懐かしい香りが鼻をくすぐる。
彼女の顔をよく見ることはできなかったが
一際美しいオーラを放っていて、僕は見惚れてしまった。
そんな僕に気付くこともなく
彼女は、コンクリートの地面に優しく指を触れ始めた。
すると、どういうことだろうか
彼女が触れた場所から、突然
アスファルトを突き破って巨大な杉の木がスクスクと勢いよく生えてきた。
「…え?」
驚く僕を余所に、どこからかピアノのメロディーが聞こえ、彼女が歌い出す。
鈴を転がすような澄んだ歌声。
彼女の歌声に反応するように、杉の枝からクレーンゲームのアームが伸びてきて、歩く人々を次々と掴み上げた。
アームに捕まった人たちは、可愛いクマやネコのぬいぐるみに姿を変えられ、短い足でジタバタと空中に浮いている。
「…ああ、疲れてるのかな?」
僕が目をこすって困惑していると
誰かと肩がぶつかり、景色は
疲れ果てたサラリーマンとはしゃぐ学生たちが歩く、いつもの駅前に戻っていた。
それから、彼女と2度目会ったのは、先輩に連れて行かれた東京競馬場だった。
馬券の損得に一喜一憂する喧騒、
せっかくの休日だというのに全く心が休まらない。
僕は競馬のことはよくわからないけど、
とりあえず「ザンギョウザンマイ」という
僕にぴったりの名前の馬券を買った。
そんな競馬場の人混みの先で、再び彼女を見つけた。
相変わらず、顔が見えなくても
ひときわ美しい。
彼女が現れたということは、
また不思議なことが起こるかもしれないと
僕は目を離せずにいた。
彼女はレース開始と同時に
馬たちに薔薇の花びらを吹きかける。
すると、世界はスローモーションとなり、
馬の足跡からキラキラと輝く黄金の稲穂が次々と芽吹いた。
そして、空から金色の雨が降り、舐めてみると、冷えたビールの味がした。
「す、すげぇ…」
僕が呟くと
「よっしゃあ!当たった当たったぞ!!」
という先輩のバカでかい叫び声で、僕は現実に引き戻された。
先輩は、たかたが3千円当たった程度で
「俺は、もう仕事を辞めてやるぞ!!」と
息巻いている。
僕はそれを見て、大人ってなんて悲しい生き物なのだろうと肩を落とした。
彼女と3度目会ったのは、郷土の森公園でのバーベキュー中でのことだった。
僕は、大学の頃の同級生達と
現状を話し合いながら、焼きたての牛肉をつまんでいた。
あんなに卒業前は夢を楽しげに語っていた同級生達が
今では皆、現実に落胆してかつての輝きを失っている。
俺達は、何が楽しくて生きているのだろうか…?
少なくとも、彼らと
「マシュマロを誰が一番美味しくトロトロに焼けるか」を競うためではない。
そんな時、彼女がまたどこからか突如として現れる。
あんなにも美しく目立つのに
誰も彼女に気付かない。
いや、僕以外は
彼女が見えていないようだった。
木陰の中で、彼女は悪戯っぽく口角を上げて笑い、一発の花火を飛ばした。
昼間の空が瞬時に漆黒のプラネタリウムに変わり、大きな鯉が降り立ってきた。
そして、鯉が「背中に乗れ」と渋い声で僕に言うので、僕は言われるがままに鯉の背中に乗り、キラキラと輝く星空の旅に出た。
横にはゴーカートに乗る恐竜や、屈強なラグビー選手が並走する。
「なんだよ、このわけのわからない世界は!?」
僕は驚きつつ美しい世界に魅了されていると、
「おい、締めはヤキソバと相場が決まってるだろ!」「いや、焼きうどんだろ!」「まぁまぁ、間をとって十割蕎麦でも啜ろうよ」
と同級生のアホな会話で、現実に引き戻された。
皆、仕事の疲れで
イライラしてるのだろう…
その日を境に、彼女の姿は見えなくなった。
あの不思議な光景は何だったのだろうか。
仕事に戻っても、僕は無意識に、あの白いワンピースの影を街の中に探していた。
そして今日。
府中の街が「くらやみ祭り」の熱気に包まれる中、僕はついに再び彼女を見つけることができた。
人混みの隙間、提灯の灯りに照らされた彼女は、あの日と同じ、凛としていながらどこか儚げな姿で立っている。
祭り囃子が鳴る中、僕は彼女に見惚れていた。
彼女はフワフワと可憐に歩き始める。
手から小さなウチワを落としたことにも気付かず彼女は、フワフワと踊るように歩く。
僕は急いで彼女が落としたウチワを拾い、人混みをかき分けて追いかけた。
響き渡る大太鼓の音…お神輿を横切るカラス…提灯の揺らめき…黄金の残像…押し寄せる人波と神輿…
ようやく彼女の手を掴んだとき、彼女は静かに振り返った。
初めて間近で見つめる、彼女の素顔。
その深い輝きを放つ瞳を見た瞬間、奥底へと忘れ去られていた僕の記憶が、溢れ出した。
「…き、君だったのか?」
それは、僕がまだ小さかった頃。
多摩川のほとりで遊び、夕暮れの大國魂神社で転んで泣いていた僕の前に現れた女の子だった。
彼女は僕の涙を拭い、境内に落ちていたけやきの葉っぱを、魔法のような力で可愛らしい見た目のカラスへと変えて見せてくれた。
「大人になっても、世界を面白がってね」
そう言って笑った彼女。
あの時、彼女は僕にとって、たった一人の神様だった。
僕はいつの間にか、世界をつまらないものとして変換してしまっていた。
効率や世間体ばかりを気にして、子供の頃に見ていたはずの、この街に溢れる魔法を自分から閉ざしていたのだ。
彼女は僕が拾ったウチワを手に取ると、あの時と同じように悪戯っぽく微笑んだ。
その笑顔を見た瞬間、僕の日常は、かつての面白いもので溢れた世界へと戻った気がした。
彼女は、振り返ることこともなく
祭りの人波の中へと消えていく。
けれど、もう彼女を探す必要はない。
見上げれば、けやきの並木が風に歌っている。
僕が忘れていただけで、この街には今も、あちこちに不思議な魔法が隠れている。
それを感じるかどうかは、他でもない、僕自身の心なのだ。
【あとがき】
この小説は冥さんのラジコンカメラマンという企画から、お写真を撮ってもらい、書かせていただきました。
素敵な写真をありがとうございます✨
企画|ラジコンカメラマン #2
— B級スポットを紹介する人 | 冥〈yoru〉 (@yoruarukunosuki) November 20, 2025
依頼してくれたのは、
モンキーパンツさん(@0kYRAWw88i48809 )
タっちゃんこと
モンキーパンツさんが昔住んでた
府中へ向かいました。
昔住んでたけど、今あそこどうなってんだろって気になることありますよね。
言ってください
私、撮ってきます。… pic.twitter.com/9OrjM1ocN3
妻と出会い、同棲場所として選んだのが
この府中でした。
5年間住み、コロナ禍を乗り越え、結婚を決め、ウリ坊(息子)が誕生した私達にとってたくさんの思い出が詰まっている一生忘れられない場所です。

よくここで買い物をして、
妻とクレーンゲームで遊びました🛸
冬になるとお馬さんのイルミネーションが
綺麗でした✨

デートはいつもアドレス110を
2人乗りで、この道を通りました🏍️

妻とBBQをしたり、川遊びをしたり、
富士山を眺めたり、ランニングしたり、
花火を見たりと…
いつでも落ち着ける場所でした🙂
近くにはプラネタリウムや
ラグビー場、ゴーカートがあって
楽しい場所がたくさんです✨

「神様が見守ってる」
そう感じさせる荘厳な神社。
ウリ坊のお宮参りも
ここで執り行いました👶
くらやみ祭りは、
毎年4月30日から5月6日にかけて開催されます🐦⬛
メインは5月5日です✨
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