【2分小説】変なオジサン
月曜日の朝はいつも憂鬱だ…
シズクは重い体を動かして化粧を済ませ、仕事に行く身支度をする。
サイズの合わないハイヒールを履き、
最寄駅へと向かえば、
改札が上手く反応しなくて、後ろのサラリーマンに舌打ちされた。
時間通り駅に着いても、いつも遅延ばかりしている電車。
電車に乗れば、サラリーマンやOL、学生が退屈そうにスマホの画面をじっと見つめている。
ふと、シズクが窓の外を覗くと
町で有名な変なオジサンが
今日も滑稽な格好で自転車に乗っていた。
今日は両手放しで、優雅にあやとりをしながら坂を下っている。
「(怖いぐらいに器用だけど…大丈夫?)」
シズクは少し心配そうにオジサンを見つめる。
そして、案の定道路に転がっている石に車輪が引っ掛かって盛大に吹っ飛ぶオジサン。
「(ほら…言わんこっちゃない…)」
電車に乗る人達は、オジサンをチラッと見るだけで、またスマホに視線を戻す。
そして、長い長い1週間が終わって
また憂鬱な月曜日の朝がやってくる。
シズクはいつも通り化粧をして
サイズの合わないハイヒールを履き
改札が上手く反応せず舌打ちをされる。
当たり前のように遅延する電車に乗れば、窓の向こうにはあの変なオジサン。
今日は、自転車のタイヤを改造して
四角いタイヤにして走っている。
ガタガタッと激しく振動しながら
オジサンは、ほっぺたをプルプル震わせながら必死な顔で走っている。
手には、オシャレなバーテンダーが持つようなシェイカーでシャカシャカとカクテルを作っていた。
「(自転車に乗るか、カクテルを作るか、どっちかに集中しなよ!危ないよ!)」
シズクは、ハラハラとオジサンを見守る。
そして、案の定制御を失って石にぶつかり、カクテルを盛大に溢しながら派手に吹っ飛んだ。
「(そりゃそうなるでしょ…)」
電車に乗る人達は、苦笑いをしてから
また視線をスマホに戻す。
次の月曜日、オジサンは
窓の向こうで電車に乗るシズク達に向けて
大きなプラカードを掲げていた。
プラカードには
「来週、自転車で電車を追い越します」
と書いてある。
翌週の月曜日が来ると
シズクや他の乗客達は
今日だけは、スマホを見ずに窓の外を凝視していた。
「(自転車で電車を追い越すなんて無理に決まってるでしょ…
でも、あのオジサンならもしかして…)」
シズクは内心無理だと決め込みながら、心のどこかでオジサンが電車を追い越すのを期待した。
いつもの場所まで差し掛かると
オジサンがいた。
F1レーサーみたいな格好をして、
子供用の小さな三輪車を窮屈そうに一生懸命カメのように遅いスピードで漕いでいた。
みんなズッコケそうになり
車内で「全然追い越す気ないじゃん!」とクスクスと小さな笑い声が聞こえた。
それからまた長い長い1週間が終わって
憂鬱な月曜日の朝がやってくる。
毎度のように遅延する電車に乗れば
窓の向こうには、あの変なオジサン。
今日は、自転車に補助輪を30個ぐらい大量に装着して、まるで戦車みたいな改造をしている。
オジサンは
頭には工事現場で使うようなヘルメットを被り、サドルの上で
直立不動でうつ伏せ
という世にも奇妙な自転車の乗り方をしている。
「(え?オジサン…その体勢すごくない!?どうやってるの!?
というか、今日は何をするつもりよ?)」
シズクや乗客達は、もうオジサンに目が離せない。
オジサンはいつもの坂を下り
直立不動でうつ伏せという世にも奇妙な体勢のまま自転車に乗る。
その異様な体勢が空気抵抗を極端に減らしているからか、グングンとスピードが上がっていく。
「え?…オジサン…そのまま行くと…」
自転車が最高速度になった瞬間、補助輪がスピードに耐えられなくなり
1つ、また1つと壊れて外れていく。
そして、オジサンの目の前には
いつも盛大にコケるあの因縁の石。
「オジサン!避けてーーー!!」
シズクの願いも虚しく
最高速度の自転車の車輪が
因縁の石に破壊的な威力でぶつかる。
その衝撃でオジサンはミサイルのような勢いで、空へととんでもない勢いで吹っ飛んでいった。
直立不動のまま放物線を描きながら
オジサンは飛んでいき、
その先にある大きな池に盛大な水飛沫をあげて落ちていった。
乗客の誰もが
窓際へと駆け寄り、池を凝視した。
「……オジサン…」
一瞬の静寂のあと
池の中から真顔で
体操選手のように万歳しながら
オジサンが出てきた。
そして、奇跡的なタイミングでオジサンの頭の上にどこからか飛んできたカモが降り立った。
その瞬間、車内で大きな笑い声があがった。
「なにやってんだ!あのオジサン!」
「いやー、無事で良かったー!」
「何がしたかったんだよ」
「あのカモも計算のうちか!?」
「やばい、こんなに笑ったの久しぶりかも」
いつも殺伐としていた朝の通勤電車が
オジサンの話題で1つになった。
「あははっ、ありがとう変なオジサン。
おかげで今週もつまらない1週間を乗り越えられそう…」
シズクは密かにお礼を言った。
オジサンには、悲しい過去があった。
数年前、大切な息子が月曜日の朝、電車に身を投げたのだ。
それ以来、オジサンは毎週月曜日の朝は
滑稽な格好で自転車に乗り
電車の中の人達を笑わようとするようになった。
もう二度と、息子のような人を作りたくなかったのだ。
今日もオジサンは変な漕ぎ方で
乗客達を笑わせる。
少しずつ、少しずつ、
電車の遅延は無くなっていく。
いいなと思ったら応援しよう!
チップをくださった方のユーザー名を心の中で大叫びして感謝します。本当にいつもありがとうございます。