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LegalAlpha Vol.38|これは「ズルい」の話じゃない──英国最高裁が見ている“本当の争点”


※本記事は、訴訟ファンドおよびその関連制度について、筆者の個人的見解を含む一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の投資対象の取得・売買・勧誘・推奨等を意図したものではありません。

なんか販売店がズルで、消費者が損したんでしょ?
だったら返金してもらえばいい話じゃん

──そう思ったあなた。半分は正解。でももう半分は、惜しい。

いま英国最高裁で起きていること

現在、イギリス最高裁で審理されているのは、
車のローン契約に潜んでいた“秘密のコミッション”をめぐる問題です。

車を買うとき、販売店(ディーラー)は顧客にローンを紹介し、
その見返りに金融機関から報酬(コミッション)を受け取っていました。
しかも、その金額や仕組みが、顧客にはほとんど伝えられていなかった。

これはたしかに、“ズルい”構造だったかもしれません。
でも──最高裁が見ているのは、
ズルかったかどうかではなく、「法としてどう扱うべきか」という点なのです。


問われているのは「行為」じゃなく「構造」

最高裁は、「誰が悪かったのか」を判断しているのではありません。
彼らが問うているのは、こんなことです:

  • こうした契約や報酬の仕組みは、法制度の中でどう位置づけるべきか?

  • 顧客とディーラーの関係に、どんな義務や責任があると認めるべきか?

  • どこまで説明すれば「開示した」と言えるのか?

つまりこれは、「ズルした」かどうかではなく、
“どこに線を引くべきか”を定義するロジックの争いなのです。


英最高裁が見ている“5つの争点”

今回の裁判で、最高裁が明確な判断を下そうとしているのは、次の5つの論点です。


① 秘密のコミッションは、“民事の賄賂”か?

ディーラーが、ローンを紹介する見返りに金融機関から報酬を受け取り、
その事実を顧客に伝えていなかった──これは「賄賂」にあたるのか?

ここで注意すべきは、“賄賂”という言葉の意味です。

日本語では「賄賂=刑事犯罪」という印象がありますが、英法では、民事の世界でも“bribery”という言葉が使われることがあります。

ただし、実のところ、

刑事はともかく、民事における“賄賂”という不法行為は、英国法上まだ完全には確立していません。

だからいま最高裁は、次のようなことを議論しています:

  • 「刑事とは別に、民事でも“賄賂”という類型を認めるべきか?

  • 「認めるなら、どんな関係性や状況で成立するのか?

この判断は、単なるレッテル貼りではありません。

もし認められれば、損害賠償の根拠が一気に広がります。
さらには、報酬を受け取った販売店だけでなく、
金融機関に対しても責任追及が可能になるのです。


② ディーラーは顧客に“忠実”であるべきだったのか?

次の論点は、ディーラーと顧客の関係性です。

普通の売買であれば、売る側が自分の利益を優先するのは当たり前。
ところが今回は、ディーラーはローン(金融商品)を紹介する立場でもありました。

ここで最高裁が問うているのは、

「その立場にある者は、顧客に対して“忠実義務(fiduciary duty)”を負うのではないか?」

という点です。

もし忠実義務があるとされれば、
「自分にとって都合のいいローン(金利が高く、報酬が多い)を勧めた」
という行為は、法的に“裏切り”とみなされる可能性がある。

つまりここで決まるのは、
「どこからが“仲介者”であり、どこからが“信頼されるべき立場”なのか」という線引きなのです。


③ 「開示した」とは、どこまで言えば足りるのか?

これは一見シンプルに見えて、実は極めて実務的な論点です。

多くの販売店は、「報酬を受け取っています」という文言を契約書に入れていました。でもそれだけで十分か?と最高裁は問い直しています。

  • いくらもらっていたのか?

  • どうやって報酬が決まっていたのか?

  • 顧客が払う金利と報酬の関係はどうだったのか?

こうした情報がなければ、
「知っていた」とは到底言えないのではないか?

つまり、「開示の有無」だけでなく、
“開示の質”が問われているのです。

これは今後、金融商品全体にとっての「説明義務のスタンダード」を決めることになります。


④ 銀行は“知らなかった”で済むのか?

次に問われているのは、報酬を支払っていた側──つまり銀行の責任です。

ディーラーが秘密で報酬を受け取っていたとして、
それを知っていながら銀行が黙認していたとすれば、
それは「不誠実な補助(dishonest assistance)」とされるかもしれない。

この理屈はこうです:

「ディーラーが信頼関係を裏切っていたとして、
それを銀行が分かっていながら支えていたのなら、
銀行も“共犯”的に責任があるのでは?」

ただし、これは成立のハードルが高い概念でもあります。
最高裁はここで、

  • 銀行は“本当に”知らなかったのか?

  • 知らないふりをしていたのではないか?

という微妙なグレーゾーンの評価に踏み込もうとしています。


⑤ 法的にはセーフでも、“フェアじゃなければ”アウト?

最後の論点は、イギリスの消費者信用法(Consumer Credit Act 1974)に関するものです。

この法律には、少し変わった条文があります。

「違法じゃなくても、“不公正な関係”があれば契約を無効にできる」

つまり、たとえディーラーが説明義務を“形式的に”果たしていたとしても、
実質的に消費者が情報弱者として損をする構造だったと判断されれば、
契約はひっくり返される可能性がある。

この「Unfair Relationship(不公正な関係)」という概念は、
いわば“構造そのものに対する裁き”なのです。


これは、英国という法治国家の「ルールブックの書き換え」だ

だからこそ、これは単なるオートローン訴訟ではありません。
いま最高裁が問うているのは──

  • 商慣習は、どこまで“慣習”で許されるのか?

  • 情報格差の構造を、どこまで放置できるのか?

  • 説明義務や信頼関係の限界は、どこにあるのか?

という、法制度のアップデートそのものです。

そしてこの判断は、銀行、行政機関、そして私たちの社会全体に跳ね返ってくることになります。


📘 次回予告(Vol.39):「構造で負けている」──DCAという仕組みの落とし穴

※本記事は、訴訟ファンドおよびその関連制度について、筆者の個人的見解を含む一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品または投資対象の売買、取得、勧誘、推奨等を意図したものではありません。また、本記事は特定の法的助言を提供するものでもありません。記載内容の正確性や完全性について保証するものではなく、今後変更される可能性があります。投資判断や法的判断を行う際は、必ずご自身でご確認のうえ、専門家にご相談ください。

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中田 憲太郎 Monterey Capital Management Pte. Ltd. チップ不要。お気持ちだけで結構です。

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