ベンチに座る日を
ストリートアートや、テーマパーク、ご当地ゆかりのキャラクター公園など様々な切り口で、ちょっと目をひくベンチを見かけることがある。隣にキャラクターが座っているとか、サックスを気持ちよさそうに吹いているおじさんが座っているとか、妖怪が座っているとか。
ベンチの公共的な役割を考えると、余計な構造物がない方が座りやすいが、そこに固定されているという構造上、文字通り居座られてしまうのも、何かと問題になりそうだ。最近の屋外ベンチは、大人が寝そべることができない構造になっているものも多いのは、社会的要請なのかもしれない。
我が家の一番下の子が生まれた時からお世話になっている病院に、ハンバーガーチェーン店のマクドナルドの人間のキャラクター”ドナルド”が座っているベンチがある。顔が白く、髪が赤い、結構背の高い彼である。
話が逸れるが、友人が大学生の頃に、特別授業と称して講義にドナルドが現れたことがあるらしい。友人も僕も、ドナルドは言葉を発さないキャラクターだと思っていたけれど、実際には普通に喋っていたらしい。
穏やかな雰囲気の玄関ロビーに、ひときわ異質な色合いの人型が座るベンチは、初めて訪れたときにちょっとびっくりした。他にもベンチがあるので、機能的には理解できる。ただ、彼が座っているベンチの役割は、マクドナルドそのものの宣伝というよりも、近隣にある患者家族のための施設の目印的な存在なのかもしれない。
下の子が生まれてから4回目となる手術のために入院した。入院すること自体は、かなり前から予定されていて、今回もお願いします、という心境だ。ただ、自宅から離れていることや、上の子たちがいることなどから、親としては気忙しい毎日を過ごすことになる。
入院の日、診療の合間だったと思うけれど、僕が一人でロビーを歩いていたら、そのベンチでポーズを取って写真を撮っていた親子がいた。写真撮影を禁じられているエリアではないので、まぁ許容はできることなのだけれど、ふと思ったことがあった。
もし、我が子がこのベンチで写真を撮るとしたら、一体いつがいいのだろう。そもそも、記念写真、なんて不謹慎なのかもしれないけれど。
生まれてから、断続的にその病院に入院して手術を受けている。新しく治療が必要になったり、成長に伴って必要な措置だったり、あと何回来ればいいのだろう、なんて思うこともある。
入院の日に撮る?最初の入院は生後2ヶ月ほどだった。退院の日?たいてい、包帯が巻かれていたり、痛々しい痕跡がある。
全ての治療が終わったら?・・それは制度上では成人を迎えるあたりか。そう考えていると、これから先の長い年月もそうだけれど、生まれて3年が経って、ずいぶん成長したなと思う。同じような疾患らしき子を見かけると、相変わらず胸がギュッとする。
その病院は子ども専門ということもあって、本当にいろんな子どもたちと親たちが通院している。僕たちもそのうちのひとりで、入院して数日で退院してしまう。きっと色々な事情で、退院ができない子どももいるのかもしれないと思うと、そのベンチで撮影できる日が来るといいなと思う。
きっと、そのベンチには色々な子どもたちが座っただろう。ベンチに座っているドナルドは、のんびりと背もたれに寄りかかって、何かとても穏やかな笑顔だったことに気がついた。
何度もこの病院に訪れている我が子や僕にとって、そのベンチはもう単なる風景になっているのかもしれない。
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