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太陽とゴミ箱

「まっ子にしか言えない。」

そう相談されることが頻繁にある。
単細胞の私はこれを「信頼の証」だと捉え、できるだけ期待に応えようとする。その結果、時間や気持ちまで奪われてしまい、相談相手よりも悩むことが多々ある。
そんな私を周りは「承認欲求の強い愚かなお人好し」だと思っているに違いない。

その日の朝、子どもを学校に送迎し帰宅すると、すぐに電話が鳴った。
日本に住んでいる友人からだった。出ない選択肢もあったが、「信頼の証」を得たい私は、出勤前に終わらせたかった家事を諦め、話を聞くことにした。

「まっ子にしか言えない」と始まった相談は、なかなかヘビーだった。でも、私に話す理由は信頼感からというより、生活圏が離れているからだろう。遠くに住んでいる私が、彼女の生活に影響を与える心配はない。そうは頭では分かっているが、「まっ子にしか言えない」と言われる度に心が揺れてしまう。結局30分ほど話を聞いて「何かあったらお昼休みに電話するから、LINEしといて」と伝え電話を切った。

洗いそこねた食器と、干せなかった洗濯物を見て溜め息が出た。そして友人の悩みを背負ったような、重たい気持ちのまま出勤した。

ランチの後、インスタントのまずいコーヒーをすすりながらスマホを確認した。朝話した友人からの連絡はなかったが、いくつかメッセージが届いていた。

未読のショートメッセージは、最近会社を退職した元同僚からだった。

「まっ子にしか頼めないことがある」と始まったメッセージは、次の就職のために推薦者(リファレンス)になってほしいという依頼だった。
ニュージーランドでは転職や就職の際、元職場の上司や同僚の連絡先を伝える。採用担当者がその人に直接連絡して応募者の仕事ぶりや人柄を確認するのが一般的。つまり、彼女の就活を左右する大切な役割を任されたということだ。
正真正銘「信頼の証」。心が踊った。

インスタにもメッセージが届いていた。
年下のママ友、Mちゃんからだった。

M「まっ子さーーーん!!新しい鬼滅の刃の映画が見れる違法サイト知ってたりします?(原文まま)」

なぜこの質問をする相手が私だったのだろう。顔が違法だったのだろうか。

私「ごめん、わからないわー」と返信をすると

M「だよねー涙。でもまっ子さんなら、知ってるかなーって。他の人に聞いたらひかれちゃいそうで笑(原文まま)」と返信があった。

いや、私もドン引きだよ。

LINEには幼馴染から連絡が来ていた。

彼女が連絡をしてくる時は、たいてい難病を抱える娘のことだ。
もちろん、私に医療的なアドバイスなどできるはずもない。ただ黙って話を聞くしかないのだが、そんな私を彼女は「太陽みたいな存在」と言ってくれる。嬉しい言葉だけれど、連絡があるたびに、娘に何かあったのではと胸がざわついてしまう。

呼吸を整えてから、メッセージを開いた。

幼馴染「おはよー。自分のうんこの写メ送ってもいい?渾身のが出て!!どうしても見せたいんだけど・・・やだったらやめとく!!笑(原文まま)」

嫌に決まってるだろうが。お前は太陽のような私にうんこを見せるのか。

私はいつもうんこうんこ言っているが、自ら進んで人様にうんこを見せてほしいとお願いしたことも、うんこで興奮するという性癖もない。
だから、今回だって本当はお断りしたい。でも「嫌だ」といえば、がっかりするんじゃないだろうか。だって私は太陽。信頼される価値ある存在でいる為には、何だって受け止めなければならない。
気の利く私はわざわざ変質者の口調を作ってまで返信をした。

「恥ずかしがらずに見せてごらん。」

こういう気遣いが信頼を勝ち取るのだ。

すぐにメッセージは既読になり、友人から「ででーん」というメッセージと共にブツの写真が送られてきた。

こわばった指先が写真に触れ、ブツが拡大された。その瞬間衝撃が走った。

まさかの、まきぐそ!!!!!

バナナじゃないなんて想定外。不意をつかれたせいだろうか、驚くことに嫌悪感は全く感じなかった。むしろ整然と渦を描いたブツは美しく、神秘的でさえあった。気づけば、私の中に嫉妬という気持ちが生まれていた。

幼馴染から生み出されたブツに魅了され、呼吸することすら忘れていると、追いメッセージが届いた。

幼馴染「明後日健康診断で、今日、明日、検便とらないといけないやつで!シート敷いてその上に流れないように取るじゃん?で普通にその上にしたら笑
神うんこが出来上がった!!凄すぎて!誰かに送りたいけど⋯ってなって、まっ子ちゃんならって・・・・🤣🤣🤣(原文まま)」

笑ってるんじゃねえぞ。お前はようやく、渾身のブツを見せられた達成感で歓喜しているかもしれないが、私、今テンションめっちゃ低いからな。

写真のブツが芸術品ではなく、ただの汚物だと気が付き、我に返った瞬間、一気に気持ちが萎えた。それでも太陽は気力を振り絞って返信をした。

私「どうやったらこんな綺麗なまきぐそ生み出せるの?もっと凄いの出たらまた送ってね!」

もちろん本心ではない。
「信頼の証」を得るためのリップサービスである。

未読LINEはもう一件あった。
姉からだった。
頭をよぎったのは、最近避妊手術を受けた姉夫婦の愛犬。抜糸直後でまだ心配な時期、何かあったのかと急いでメッセージを開いた。

姉「さっき、テレビにアインシュタインの稲ちゃん(お笑い芸人)出てたんだけど、見てたらあんたを思い出した(←原文ママ)」

プロのブスか!私は!!

姉からの突然のブス認定。
返信する必要性を感じない内容だったため、これは既読スルーした。

お昼休みが終わり、まずいコーヒーを飲み干してからオフィスへと戻った。

デスクに座ると、後ろから同僚が話し掛けてきた。年下の彼はいい奴なのだが、下ネタが大好きである。
その若造のワンナイトラブ、奇妙きてれつな性行為の話を聞きながら、興味もないのに話を盛り上げる私は一体何がしたいのだろうか。しかもこの若造、私以外に下ネタを話さない。完全に選ばれている。
そんな若造の下ネタを聞き流しながら思った。

そうか、私は「ゴミ箱」なんだ。

誰にも言えないこと、見せられないもの、ぶつけられない感情、そういうゴミを受け止める存在なのだ。
それなのに私はそれを「信頼の証」だと思っていた。なんて馬鹿なんだろう。
でも、私はこれからも「まっ子にしか言えない」と言われる度に、心が踊ってしまうんだろう。そして私にだけ投げつけられる下ネタや暴言を「信頼の証」だと受け止めてしまう。だってそうやって今まで生きてきたのだもの。長年の思考のクセはなかなか変えられない。

悲しいけれど、私は今日も蓋を開けて待っている。
みんなが安心してゴミを投げ捨てられるように。
誰かの救いになれると信じて。


なんのはなしですか。
ゴミ箱の話です。





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