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ミニストーリー🔰 『ひかりへ -Mother-』 5月1日配信KANφQUEさん楽曲に寄せて

くえすさん南かのんさんのユニットKANΦQUEさんによる母の日ソング『ひかりへ -Mother-』に寄せたミニストーリーです。
歌詞で参加しております為
宣伝シリーズ🤭
最後は娘目線からお届けです🌹


 🍀 🍀 🍀

『黄色ツツジの咲く庭で』


私だけが、順調でない。

産婦人科の定期検診の帰り、
明るい昼下がりの電車に揺られながら
ボンヤリ考えていた。

発育は順調。職場の人は親切だし、
夫の陽太は、誕生を心から楽しみにしてくれている。

隣の奥さんは、「今がいちばんいい時ね」と通りすがり微笑む。
会釈を返す、
だけど。

また、具合が悪くなってきた。

不安なのだと誰にも言えない。

陽太となら何があっても大丈夫、
そう思っていたけれど
自分の体調やメンタルの波まで、
肩代わりしてもらう訳にはいかない。

そんな自分が、
母に似てきたと思うとやり切れない。
私は自分のルーツがこの母にある事が受け入れがたかった。

お腹の子も、
私の事をそうやって嫌うんじゃないか?
私にまともな子育てなんて
出来るのだろうか?
その疑問は日に日に大きくなる。

どんな子がやって来るか分からないのに
周りが貼り付けていく
『幸せだね』『楽しみだね』
というレッテルが苦しかった。

陽太の家族は涙が出るほどいい人たちだ。
皆あかるくて、やさしい。
だから私の中で起きている事を
陽太に理解してもらう事はできない。

「帰ったら抱っこ紐を選びに行こう」
そう言っていた笑顔に
応える自信がなくなってきた。
スマホを取り出し、
「ごめん、急な女子会で遅くなる」
とだけ送信する。

さて。どこへ行こうかな…。

電車の外を見ると、景色の中に鮮やかなピンクのツツジが流れていった。

ふいに、実家の庭に咲く黄色のツツジを見たい、と思った。
他ではあまり見かけない色。今なら咲いているかも。
この時間なら母は仕事でいないはずだ。

乗り換え駅で立ち上がった。

一時間後。
海沿いの駅で降り、広場だけの公園を突っ切って進む。
見慣れた電柱の角を曲がればすぐ。

「…久しぶり。やっぱり咲いてたね。」

庭の植え込みにこぢんまりと咲く、黄色のツツジを見つけて安堵した。

少し青くさい、優しい野の香り。
我が家の歴史を見てきた庭木。
ぐりとぐらの卵焼きのような明るい黄色を見ると、訳もなく元気が出るのだ。

縁側に腰かけ、買ってきた温かいレモネードを開けた。

甘い匂いに誘われて小さな白い蝶がはたはたと飛んでくる。

17時に町のスピーカーから流れる、ノスタルジックな『ふるさと』のチャイムが鳴り始めた。
まだ外は明るく、日が長くなったことを感じる。

ぐらりと、景色が傾いたような気がした。

あれ、またかな?
目を閉じて備えたが、気分の悪さはやってこない。

顔を上げると、まわりの何かが少し違っていた。
上手く言えないが、景色が全体的に。

バタン。
すぐそばの玄関のドアが開いて、
ブレザーの制服の女の子が飛び出してきた。

『え、誰…』

その子は私に見向きもせず、自転車にドスンとボストンバッグを載せると、急いで乗っていった。

玄関を見ると、母が立っていた。

ギョッとして身動きしたが、こちらに気付く様子はない。

母は、自転車が去った方の道をずっと眺めていた。

『これは…昔の私とお母さん…?』

また少しすると、中学の体操服を着た私が出てきた。
次に、ランドセルの私…

過去の私は、いつも振り返りもせず歩いていく。
それに対して、
母がこんなに長く見送っていた事を知らなかった。

やがて、遠足のお弁当の味、三つ編みをする時の感じ、流れていた音楽、何かにワクワクしていた時の肌感覚などが
次々と五感に蘇ってきた。

『私意外と、幸せだったんだな…
なんで忘れていたんだろう?』

幼くなるほどに
まるで嫌な記憶を大きくして、良い思い出にフタをしているみたいだった。

その時、見覚えのある白のセダンがゆっくりと止まった。
写真で見た、父の車だ。

若くてスリムな父が運転席から降りて、後部座席のドアを開ける。

『これって…うまれて初めて家に帰ってきた時』

幼い姉がおそるおそる手を伸ばし、支えられながら新生児を抱っこする。
頬を赤くして「ちっさぃ」と笑う。

なんだか、鼻がつーんとしてきた。
誰も彼もが歓迎の視線を向けている。

祖母は意外とクールだった。
孫だから大切にしてくれるんだと思ってたけど、出会ってから愛してくれたんだと知って、逆に嬉しい。

若い母は…
どこか疲れていて、丁度今の私のような複雑な表情をしていた。

けれど、みんなの手から赤ちゃんの私が戻されると
3キロあまりの重みを確かめるように
ゆっくりと揺らし
幸せそうに、微笑んだ。

私はその表情に息をのんだ。
こんな穏やかな顔をしていたんだ…。

気付くといくつも涙が流れていた。
泣くのは好きじゃない。
けれど今のこれは、初夏の雨のように温かくて…少しも嫌ではなかった。
私は震えながらその感覚を味わった。

大切な記憶もあったのに、
どうして別のもので上書きしてしまっていたんだろう。

私は愛されていた。
忘れているだけだった…。

急に、夫の陽太に会いたい気持ちが湧きあがってくる。今何時だろうと考えた。

考えをめぐらせ始めると、さっきの光景はいつの間にか消えていた。
手の中のレモネードはすっかり冷めている。

でも胸の中には確かな温かさが広がっていた。

「陽太。やっぱり、今から帰るね。
何か珍しくモリモリ食べたい気分!」
少しもどかしくメッセージを送る。

スーパーのチラシを検索すると
カーネーションやお寿司の鮮やかな画像。

そっか、もうすぐ母の日なんだ。

今年は…そうだな、通販で済ませずに
手紙でも書いたりして。
改めてこの場所へ、ちゃんと。


会いにこよう。

🍀 -終-  🍀




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