【小説】なんのはなしですか【ショート】



「私、死に戻りしてるの」

会社の同期である南がとんでもない事を口にした。

「一体、なんの話だ?またアニメの影響か?」

「そうじゃないよ。信じられないかもしれないけど本当の話なの」

「本当の…?」

南ってこんな奴だっけ…
いや、こんな冗談を言う奴じゃない。南はいつだって真面目だ。いつだって本気の奴だ。何に対しても異常なまでの執着。いつだって全力だ。どこでもドアを本気で探してる奴だからな。今でも各国のドアを開けている。

「本当だとして、なんの為に死に戻りしてるんだ?」

「信じてくれるんだ。私の話」

「半信半疑だけど、お前の事だから本当かもしれないって思ってな」

「ありがとう。信じてくれて…」

そう言って静かに涙を流した。

南の泣き顔は初めてだ。南は人前で泣くような奴じゃない。いつだってクールだ。感情を表に出した事なんてない。いつだって冷淡な奴だ。さよならドラえもんを読んでも泣かなかった奴だからな。今も7巻を返してもらっていない。借りパクするつもりか。

「それで、死に戻りは何回目なんだ?なんの為にやってるんだ?」

「今回で70回目。なんの為?これの為よ」

そう言うと、テーブルに置かれたメニューを俺に見せた。

「これ…?」

「そう、これ」

なんだよこれ。正気か?
こんな…こんなモノの為に…

「お前、本気で言ってるのか?」

「失礼ね。私はいつだって本気よ。今までだってそうだったじゃない。どこでもドアだって…」

そうだ。こいつは本気なんだ。いつだって本気なんだ。

「にしても、なんなんだよ…」

「なんなんだよってなによ」

「命をかけてする程の事じゃないだろ!!」

思わず声を荒げてしまった。

「大きな声を出さないで。インドだと思ってたけどイランだったのよ」

「…イラン?なんの話をしてるんだ?」

「なんのって、これの話じゃない」

そう言って、さっき店員が持ってきたナンをカレーに付け、頬張った。

「なんで…なんでそんなモノの為に死に戻りなんてしてるんだよ…」

「今日のこの時間、この店で貴方と食べるナンが最高に美味しかったからよ」

「俺と…?」

「そう、悪い?」

「だからって、死に戻りする程の事じゃないだろ。俺はいつだってお前とこの店でナンを食べてやるよ」

「それじゃダメなの。今日のこの時間じゃないと…この店じゃないと…貴方とじゃないと…」

俺とじゃないと…?
もしかして南って俺の事…
これって遠回しの告白だよな?
入社した時から南の事は気になっていた。一緒にいると楽しいし、楽だ。彼女だったらなあって思った事は何度かあった。フラれたら今までの関係が崩れるんじゃないかって告白を躊躇していた。これはいいきっかけかもしれない。告白するなら男の俺からだろ。

「南、俺たち付き合わないか?」


「は?無理」

 
…え?
なに今の。
無理?
は?
何が?
なんなんだこれ。
貴方じゃないとダメだって言ってたよな?
え?
なんのはなし?

「ナンって、ペルシャ料理なんだって」
そう言って、残りのナンを平らげた。

 #ナンのはなしですか