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【童神】 夏の夕べ


夏。あらゆるところでイベントがある。
次女は友人たちと夏祭りに行くといい、別のイベントに行きたいと言う長女と、私は行動を共にした。今回はその備忘録として。


先日、長女やま江関連の用事があり、その後二人で滝を見に行った。すぐ頭上の木の枝葉から蝉の声が聴こえるも、とうとうその姿を見つけることはできなかった。殻から出てきたばかりの蝉が死んでいるのを、塾の階段で見たというやま江。その死を気の毒がり、家にいると綺麗な虫の声が聴こえるんだよと教えた。


イベントに向かう道すがら、綺麗な声で鳴く虫の声を私に教えた。車で走る中、そこかしこでヒリヒリヒリヒリ⋯と聴こえる。ちゃんとしたオノマトペがあるのかも知れない。私のオノマトペの限界値はヒリヒリ。リンリンではないし、リリリリ⋯ともちがう。

「お母さん?鈴を転がすような声の人に会ったことある?」
「鈴を転がす声⋯私のばあちゃんはそんな感じの声だったよ。高い声で笑ってね。やま江は?」
「人には会ったことないけど、この虫の声がそうだと思うの」
「うん、ほんとに鈴みたい。綺麗⋯」
やま江が言うには、この声は夏の明け方、夕方に聴こえてくるらしい。そしてこの声がとても好きだと言う。それは夏の音。やま江は夏の良いところを見つけた。
「涼しい声⋯理にかなってる」 
「そうだね」

イベント会場に着くと、二人で夏の静かな小径を歩いた。月明かりとイルミネーションで、会場には幻想的な光景が広がっていた。
「歌が聴こえるね」
「ああ⋯あっちでライブでもやってるんじゃないかな。観に行く?」
「ううん」
少し汗ばむくらいの気温。辺りは家族連れや恋人がそれぞれの夜を楽しんでいる。
私はやま江と、ぽつぽつ会話した。月が綺麗に撮れるアプリで何度写真を撮るも、そのかたちは謎の目のように写るだけだった。
「これ好き。消さないでね」
この静かに打ち寄せて満ちていく、波打ち際みたいな感覚が好きだと思った。


しばらくすると私たちは屋台に向かった。
「こういうところで、小さい子とおじいちゃんおばあちゃんがいるのを見ると切なくなるの」
「どうして?」
「忘れてしまうから」

やま江にりんご飴を買った。再びとことこ歩いて駐車場に着いた。りんご飴を少し舐めたあとパリパリガリガリ食べる音に、私も買えばよかったと少し後悔した。すぐに出発しずにしばらくおしゃべりした。
「やま江、家の外とかでバーベキューしてる人って好きなの」
「そうなの?どうして?」 
少し意外で、笑いが起こった。
「なんか、家庭の雰囲気ってあると思うけど、それを近所に公開してる感じが。家族の役割分担とかも見えるし。」
「ああ。私の子供の頃はそういうのよく見る光景だったけど、やま江にとっては珍しいよね」
「うん。その家の前を通り掛かったとき、ピーマン熱いから、もう少し冷めてから食べなさいってお母さんが言ってて。ああ、ここの子は小さいのにピーマン食べれるんだって思ったの」
「はあ〜すごいね」
「うん。だから、家の前で見ていたいと思うの笑」 
「はは。ユニークな発想だね。面白い。もっとそういうの、出していったら良いと思うよ」

そう、やま江は面白い。それはギャグセンスがあるとかの面白いではなく、「そんな風に思うんだ」という発見や煌めき。
私にツッコんでくれたり、笑いのツボが似ているのか、よく二人で爆笑することもある。
街・流行・お洒落・交流がやま子なら、
自然・古き良きもの・快適な衣類・個がやま江だったりする。
この例えはあくまで私の主観で。
ユキノシタを、「折り鶴が羽根を閉じたみたい」なんて、私にはない感性だ。


そして話題は、冒頭で書いたやま江関連の用事での出来事にも。そこでやま江は、思いがけず人様に親切を受けたのだけれど、そのことを大層ありがたがって、昼間も、ここでも話題にした。もっとお礼を言いたかったと。

帰りの道すがら、私がやま江の年頃だったときの、進路への思いや将来の夢なんかを聞かれたので、私はありのままを話した。
そしてタイムスリップできるなら、その頃の私にアドバイスしたいと話した。
だから、未来のやま江に変わって私が話してるんだと思って、自分を生きてほしいと話した。

起立性調節障害で、学校は短時間登校のやま江。人との関わりも、内気でうまくコミュニケーションを取れない様子。
それでもきっと。
きっとやま江は道を照らして行ける。
それは1メートル先のキャンドルまで歩くように。着いたらしばらく真っ暗でも、またそのうちその先にキャンドルが灯る。
一歩一歩。模索しながらやま江の道を歩いてほしい。


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