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ジェミマおばさんのパンケーキ

今回はちょっと繊細な話題。
「ジェミマおばさん」をご存知ですか?
「ジェマイマ」「ジャミマ」などと
発音する場合もあるようです。

ジェミマおばさんは、
長年の間、アメリカやカナダで
有名なパンケーキミックスの箱や
シロップの瓶を飾った、
黒人女性のキャラクター。
実在の人物ではありません。

かねてから問題視されてはいたものの、
あまりにも普及した商品のために
表現を色々と変えながら
存在し続けていましたが、
2020年、とうとう姿を消してしまいました。

何が問題だったの?
でも、どうしてこんなに
懐かしく思ってしまうのだろう!
今回はそんなお話です。


このパンケーキミックスのシリーズは
Quaker Orts Company
(現在のPearl Milling Company)が
1880年代後半からと長い間発売している、
とてもクラシックな製品。
水や牛乳と混ぜて焼くだけの簡単調理で
おいしいパンケーキができる、
元祖パンケーキミックス。

その箱にはいつも、
笑顔の黒人女性が描かれていました。
その人が
Aunt Jamima(ジェミマおばさん)です。

その由来は、黒人奴隷制時代の
アメリカ南部の家政婦でした。
年上の黒人女性で、
自分の生活より白人家庭を優先する、
優しく従順な料理人。
白人に都合良く設けられたイメージでしか
ありませんが、
それは当時の黒人女性のステレオタイプでした。

また、"ジェミマ"という名前も
ミンストレルショー(黒人を茶化すように
白人が演じていた演劇文化)の
「Old Aunt Jemima」という歌から
付けたものだそうです。

だけど当時はそれが特に問題にならなかった。
むしろ、
「そんな愛情深い黒人おばさんが焼いてくれる
パンケーキだからおいしいし、心が温まる」と、
イメージ戦略は大成功し、よく売れた。

そんな状況に
徐々に疑問視の声が挙がってきたのは、
1960年代、公民権運動が活発になってからです。

問題のポイントはだいたいこの3つとして
まとめられるかな?

① 「黒人女性=料理、家事、従順」という
ステレオタイプの固定化
② このイメージは奴隷制やジムクロウ法時代の
延長線上にあるという、歴史的背景の重さ
③差別の歴史の話を、"おばさんへの
親しみやすさ"として消費されることへの懸念

今で思えば、少し考えれば
すぐにわかることですが、そんな認識こそ
先人たちが必死で訴え、勝ち取り、
広めてくれたものなのでしょうね。
感慨深いです。

そんなジェミマおばさんは
我らがディズニーランドにも
"Aunt Jamima Pancake House"を
構えていました!
1955年、アナハイムのパークオープン当時は
まだレストランまで自社で運営する余力がなく、外部の食品会社に委託していたのです。
1962年にはメニュー数を増やして
"Aunt Jamima's Kitchen"に改名していますね。

パークではない一般の世界にも
同名のお店は存在していたようですが、
パークの店舗が特別だったのは
ジェミマおばさん本人に会えること!
フェイスキャラクターとしてのおばさんと
お話したり、写真を撮ったりと
ふれあいを楽しめるわけです。

これも一見、
微笑ましく見えてしまうのですが…
先程の、そもそもの問題点に加え
それをパーク内で体験として現実化することは
更に意識の固定化を招くことになるし、
"楽しい南部"として歴史を軽視していると、
やはり問題視されるようになります。

また、当時のパークの地図的に、
このレストランは
フロンティアランド(東京のパークで言う
ウエスタンランド)の、ど真ん中。
当然、ディズニーは娯楽施設ですから、
エリアのテーマとなるものの
素敵な要素にスポットライトを当てます。
フロンティアランドにおいては
西部開拓時代のロマンと、
美しいRiver of Americaの景色、
南部のおいしい食文化などが
該当していたわけですが
そうした結果、
アメリカの歴史の綺麗で理想的な部分だけが
Aunt Jamima Pancake Houseを中心に、
一枚の風景としてまとまってしまったのです。
それがまるで、ディズニーが
アメリカの歴史の
悲しかったり難しかったりする側面を無視し、
都合よくまとめて見せているように
映ってしまい、
そちらも疑問視されるようになっていきました。

そんなこんなで
1970年、Quaker Ortsのスポンサー撤退と共に、ジェミマおばさんはパークから姿を消します。
レストランは「Magnolia Tree Terrace」と
名称を変え、1年ほど運営した後
1971年以降は意味合いをほどき
ただ"美しい川沿いのレストラン"
「River Belle Terrace」として
現在まで運営され続けています。

さて、ディズニーランドではそんな対応が
とられていった傍ら。
一般の世界では、もう少し段階がありました。
今後のマーケティングのためにも
せっかく広く普及した、
長年の歴史あるキャラクターは
大切にしたかったのでしょうか。

1960年代後半〜1980年代頃には、
ジェミマおばさんの顔つきと服装を
徐々に変更。
ステレオタイプ感を弱め、
マイルドに中和させていったんですね。

1989年〜2020年の間には、
もう少し大きな変化がありました。
おばさんはバンダナを外し、
小さなアイコンとしてのデザインになります。
主役はパンケーキの写真。

そして2020年、
ジェミマおばさんはとうとういなくなりました。
2021年には商品名も
「Pearl Milling Company Original」へ統一。


酷く勝手に、都合よく作られたイメージ。
なのにそれを当たり前に背負わされて
当の本人の声なんて誰も聞いてくれない。
生きていくためには、
それに従っていくしかない。

そんな当時の黒人女性のケースを
物語るかのような"ジェミマおばさん"。

黒人差別問題というものは当然、とてもとても
こんな記事一本で語りきれるようなものでは
ありませんが、
このこともまた、
そのほんの一角であることは確か。
こういう身近なところから学んで、
想いを馳せ続けていきたいですよね。

そして、そう思うのに、やっぱりなぜか。
アメリカに住んだこともない、
あのパンケーキミックスを買ったこともない、
遠く離れた日本人の私が
それでもノスタルジーを感じてしまうのは

人種なんて関係なく、ただ
私のあの、少女時代に
"おいしいパンケーキを焼いて
温かく愛してくれるおばさん"に
会いたかったからかな…
なんて、思います。



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