The Beta Band来日記念~ 帰ってきたスコットランドの愛すべき捻くれ者たち
90s末期に登場してイギリスの音楽シーンで異彩を放ったスコットランド出身のロック・バンド、The Beta Band。2004年に解散した彼らが昨年3月に活動再開を正式発表。そして来月6月に待望の日本公演を予定しています(6月9日(火)東京 恵比寿 LIQUIDROOM 6月10日(水)大阪 梅田 CLUB QUATTRO)。
90sという時代の記憶が蘇る、個人的には非常に思い出深いバンド。解散から20年以上も経って、まさか復活するとは思ってなかった。この愛すべき捻くれ者たちのことを多くの人に知ってほしいと思い、ペンをとった次第です。
(1)90sの末期に現れた「ベックに対する英国からの回答」
ゴルフの聖地として知られるスコットランドの海辺の街、セント・アンドリュースにてスティーヴ・メイソン(Vo&G)を中心に結成された4人組のロック・バンド。
1997年から1998年にかけて発表した3枚のEP(『Champion Versions』『The Patty Patty Sound』『Los Amigos del Beta Bandidos』)が批評家から高い評価を受け、徐々に注目を集める存在になります。
そして1998年9月に上記の3枚のEPをコンパイルした編集盤『The Three E.P.'s』をリリース。ピッチフォークで年間ベスト10に選出されるなど数多くの音楽メディアで絶賛されました。また収録曲の"Dry The Rain"が2000年の映画『ハイ・フィデリティ』の劇中で使用されてバンドは幅広いポピュラリティを獲得します。
The Beta Bandの音楽性をざっくり説明すると「アシッド・フォーク+ヒップホップ」といった感じでしょうか。アバンギャルドからポップまで雑多な要素が混在する多層的な音像、それをヒップホップ世代ならではの編集感覚でまとめ上げたサイケデリック・ミュージック。ある意味すごく90sらしい表現だと思いますね。
オルタナティヴが音楽シーンのキーワードとなった90s、そんな時代の指標となったのがベックが1996年に発表した金字塔『Odelay』でした。
その『Odelay』から2年後に登場したThe Beta Bandは彼の地のメディアで「ベックに対する英国からの回答」と評されました。ヒップホップを通過したモダンな感性、フォーキーな音楽性など共通点は多いですが、アメリカ人のベックとはまた一味違う英国(もっといえばスコティッシュ)らしい捻くれたセンスが独自のユニークなキャラクターを形作っています。
上述の『The Three E.P.'s』はとにかく大好きで、めちゃくちゃ愛聴しました。今改めて聴き直しても当時の思い出が蘇るくらい。収録曲が映画に使用された甲斐もあってバンドの名前を一気に世に広め、おそらくオリジナル・アルバム以上にファンの人気が高い作品だと思います。
その後バンドは1999年にセルフ・タイトルの1stアルバムを発表。2001年に2作目、そして2004年に3作目をリリースして同年8月に解散します。解散の理由はレーベルに借金して首が回らなくなったという、なかなか世知辛い話だったそうな。
昨年3月に活動再開を発表したThe Beta Band。長らく記憶の隅っこにいた彼らの存在を思い出し、『The Three E.P.'s』を目下ヘビロテ中。実験的でサイケデリックだけど人懐っこさもあるアンビバレントな個性はハマる人はハマる、そうでない人は一生ピンとこないでしょうけど、90sにキッズだった自分にとってはまさしくツボ。来日公演も楽しみです。それにしても日本で6月といえば梅雨。そんな時期に「Take me in and dry the rain ♪」なんて歌を生で味わえるのも粋というか、捻くれてるというか。それもまたこのバンドらしいですけどね。
(2)代表作『The Three E.P.'s』(1998年)

1998年発表の『The Three E.P.'s』はThe Beta Bandの名前を世に知らしめた作品で、表題の通り3枚のEPをまとめた編集盤。バンドの代表作がオリジナル・アルバムではなくコンピレーションというのもなかなか珍しいと思います。
リード・トラックの"Dry The Rain"はフォーキーなギターと朴訥としたコーラスにブレイクビーツを組み合わせた90sオルタナティヴの鏡といえる名曲。そして『The Three E.P.'s』という作品全体の雰囲気も大体こんな感じ。90sのポップ・ミュージックを紐解く鍵はヒップホップの登場だと思うんですけど、本作もやはりヒップホップ以降だからこそ生まれたオルタナティヴな表現。
リリース当時はベックがよく引き合いに出されたんですけど、改めて聴き直したらシド・バレットもかなり入ってるなと思いました。この浮遊感たっぷりのドラッギーな音世界にはヤバい中毒性があります。
全12曲で収録時間1時間18分という尺は今の感覚でいえば長いんですが、聴いてる間は不思議と長さを感じない。いや、体感としては「聴く」というより「浸る」という表現の方が近いかもしれない。あと編集盤なのに不思議とオリジナル・アルバムのような統一感もあるんですよね。
おそらく来日公演でも本作の収録曲がセットリストの多くを占めることになるしょう。The Beta Bandのユニークさがみっちり詰まった『The Three E.P.'s』は彼らの代表作であり、僕にとっての90sドリーム。
The Beta Band "Dry The Rain"
The Beta Band "Push It Out"
The Beta Band "Dr. Baker"
(3)その他の作品(オリジナル・アルバム)

1999年にバンドはセルフ・タイトルの1stアルバム『The Beta Band』を発表しますが、メンバーは出来に納得いってないらしい。2001年に2作目『Hot Shots II』、2004年に3作目『Heroes to Zeros』をリリースしています。
1作目こそ混沌とした内容でしたが、その後は作を重ねるごとにわかりやすくなっていき、最終作『Heroes to Zeros』なんかはポップとすら言いたくなる。
どれも秀作(1stも個人的には良いアルバムだと思います)なんですが、1枚ピックアップするならバランスの良さで2nd『Hot Shots II』でしょうか。
The Beta Band "Squares"
(4)スティーヴ・メイソンのソロ作品

バンドのフロントマンにして中心人物のスティーヴ・メイソン。
The Beta Bandの活動中も並行して別名義のKing Biscuit Timeで作品を発表していました。
そしてThe Beta Band解散後は本格的にソロ活動に移行し、これまでに5枚のアルバムを発表しています。
幽玄でフォーキーな世界はThe Beta Bandから変わらない。ただしサウンドコラージュ等のギミックは封印し、より真っ当な歌を届けようという姿勢を強めています。
スティーヴのシンガー/ソングライターとしての才がより明快に発露されたソロ作品はどれも聴きごたえがあります。1枚ピックアップするなら2023年発表の現時点の最新作『Brothers & Sisters』。良作です。
Steve Mason feat. Javed Bashir "No More"
