【養蚕】画本宝能縷(かゐこやしなひ草)
『画本宝能縷』は、江戸時代中期に出版された養蚕図集です。絵を担当しているのは、美人画で知られる浮世絵師の勝川春章と北尾重政です。孵化から蚕を育て生糸をとって反物になるまで、美しい女性たちとともに描かれています。
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かゐこやなしひ草 第一
蚕種の紙に産付たるが、春三月中氣、穀雨前後に生れ出るを「かへる」といふなり。既に帰り出て一番二番などゝ別ち、折敷へ入、桑の葉をこまかにきざみ、あたふるなり。これを「黒子」とも「壱つずへ」ともいふなり。
※ 「蚕種」は、蚕の卵のこと。蚕種。
※ 「壱つずへ」は、誤読しているかもしれません。


かゐこやなしひ草 第二
蚕わづらひなやむ事ありて、桑をしか/\食ぬこと四度あり。是を「眠」とも「よどむ」とも「休」をも。第二度めのやすみを「高休」とも「二ど居」とも「なけのやすみ」ともいふ。第三度めのやすみを「ふなの休」ともいふ。すべてやすみの時は、桑をあたふること其加減ありといへり。こゝに図するはくわをつむ体なり。
※ 「高休」は、鷹休とも書くようです。参考:『養蚕手引草』10/17(国立公文書館デジタルアーカイブ)
※ 「ふなの休」は、船の休み。蚕の三眠のこと。参考:『農芸大辞林(ふなのやすみ)』(国立国会図書館デジタルコレクション)
※ 「体なり」は、ていなり。様子のこと。


かゐこやなしひ草 第三
蚕三度のやすみののち、桑をくるゝにしたがひ、次第におおきになり、ます/\多くなる故に、外の竹箔やうのものにうつし、桑の葉を割み製するにいとまなし。
※ 「くるゝ」は、呉るる。与えるという意味と思われます。


かゐこやなしひ草 第四
蚕第四度めの休をば「大ねぶり」ともいふなり。追付、起出べき時をうかゝひ、其用意をなす体なり。
※ 「大ねぶり」は、大眠り。


かゐこやなしひ草 第五
蚕すでに大眠起して後は、桑の葉をくるゝこと、前々よりは多きゆへ、桑の葉きざみかえすにいとまなくして、其まゝくわする体なり。
※ 「くわする」は、食わする。


かゐこやなしひ草 第六
蚕まゆを作る時を「はい子」といふ。廣き蓋の類に椎葉などの物を敷入て、ひきりたる蚕を置て葉をおゝひにして、まゆを張すなり。さて、四五日もしてのち、まゆを一ツつゝもぎはなして取なり。まゆ張物を「簇」といふなり。
※ 「はい子」は、這子(幼児が這い這いする姿を写した四つん這いの人形)の意味でしょうか。
※ 「ひきりたる」は、繭になることを意味していると思われます。ひきる。参考:『蚕仕立法秘伝:一名・かいこ大当り法』(国立国会図書館デジタルコレクション)
※ 「簇」は、蚕が繭を作るときの足場にするもののこと。まぶし。


かゐこやなしひ草 第七
蚕種をとることは、簇物より取時、形のよき蚕をゑらんで、糸にてくり、釣置ば、蛾の蝶になり出る。牝牡を一ツにして、紙に移し置ば、段々子を産付るなり。これを「うは子」といふ。
※ 「うは子」について 参考:『機織彙編:5巻 一』(国立国会図書館デジタルコレクション)


かゐこやなしひ草 第八
蚕糸をはきおはりて、蛾の蝶になりて飛。これを「蚕蛾」といふなり。


かゐこやなしひ草 第九
生繭を塩に浸すことあり。大きなる壷の内底に竹の簀を入、其上に桐の葉を敷、又、其上に繭を敷ならべ、又、其上に桐の葉を敷てふりかけ、よく蓋をして上を泥にて塗ふさぎ、七日すぎてとり出し、釜に入、湯の中より篗にかけて、糸にくり取なり。


かゐこやなしひ草 第十
簇より糸をおろし、色白くいさぎよきを細糸のまゆとし、いろ黒きを粗糸のまゆとす。真綿に引ても、上中下をゑらみ、わかち、形をつくりて、束綿幾ばく把とするなり。


かゐこやなしひ草 第十一
蚕の神を祭る事、日本の古しへを考れば、「軻遇突智、埴山姫に逢て、稚産灵を産。此神の頭に蚕と桑となれり」と神代巻に見へたれば、本朝にては稚産灵を祭べきものか。又、第廿二代雄畧天皇の御后みづから羪蚕し給ふ事、『日本紀』に見へたり。唐土にては、黄帝の后 西陵氏を始とすること『通鑑』に出たり。
※ 「稚産灵」は、軻遇突智と埴山姫のあいだに生まれた稚産霊。五穀や養蚕を司る女神。
※ 「羪蚕」の「羪」は「養」の異体字。
※ 「通鑑」は、宋の時代に編纂された歴史書『資治通鑑』。参考:『資治通鑑抄【全号まとめ】』(国立国会図書館デジタルコレクション)


かゐこやなしひ草 第十二
扨、縫針のはじめはいづれといふことをしらねども、衣裳の製しより道なるべし。唐の大昊と申帝、九針を作といふ。又、『礼記』のうちに針に紉て縫んとあり。我朝大己貴命、活玉依姫に通給ふ時、父母しらんとて、績麻を針を以て、神人の短裳に係て、旦、糸のすじを尋もとめしに、三諸山に留るといへり。
※ 「扨」は、さて。
※ 「旦」は、明け方のこと。
※ 「三諸山」は、奈良の三輪山のこと。
※ 参考:『群書類従 第五輯』(国立国会図書館デジタルコレクション)

※ 参考:『養蚕小学 上編』『蚕仕立法秘伝:一名・かいこ大当り法』(国立国会図書館デジタルコレクション)『養蚕手引草』(国立公文書館デジタルアーカイブ)
よかったら過去noteも参照してみてくださいね。👀
→ 【女大学宝箱】(3)裁縫・衣裳をたつ歌・縫い針・火熨斗(ひのし)
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