【語源】日本釈名 (24) 人事(辱(かたじけなし)・羨(うらやまし)・石戦(いんぢ)など)

辱
かたちも気もなく、尊貴の身をへりくだり、屈しはづかしめて、いやしき者にねんごろなるなり。「し」と「ち」と通ず。近来は「かたじけなし」といはずして「有がたし」と云人多し。古来云ならはせるよき言をやめて、あやしき言を用るは口おし。「難有」は仏書に出たり。
※ 「云ならはせる」は、言い慣わせる。
※ 「言」は、ことば。
※ 参考:『ありがたいお話』(国立公文書館デジタルアーカイブ)
羨
うらやむ。「うら」は「裏」也。心の中也。「うらかなし」「うらさびし」など云「うら」のごとし。「やまし」は「病し」也。よその幸をうらやみねがへば、わが心の中うれへやましきもの也。
一説に、『日本紀』第二巻神代下に火闌降命は海の幸あり、其弟 彦火火出見尊は山の幸ありて、兄弟二人、幸がへし給ふ事あり。是、兄は山をうらやみ、弟は海をうらやみ給へるなれば、「うらやまし」とは是よりはじめて云となり。されども、前説をよしとすべし。
※ 「幸がへ」は、幸替へ。
■ (■は厷+谷)
「ひこ」は「ひゞく」也。中を略す。「く」と「こ」と通ず。「山ひゞく」也。或云、「ひこ」は「ひゞくこえ」也。下を略す。
避
「よこへゆく」也。「風のよぐ」「人目をよぐ」などいへるは、よけてよこへゆく也。

溲
米粉を水にて調ずるを「こぬる」と云。粉煉也。
細語
「さゝ」は「小」也。小語也。ひそかにさゝやくことば也。「め」は助語也。さゝめく也。
申
「参りすゝむる」也。
詣
「参り出る」也。
施
「まはる」と云意。古語也。
帥
「引つるゝ」也。「いる」は「いて行」の「いく」の如し。つれてゆくを云。一説、「いでゆく」の「いで」は、「ひきひて」の略語也。
諫
「禁ずる」を「いさふ」と云。人の悪き事を禁じて、さとらしむる也。
送越
「をくりこす」也。哥のことばにあり。菅丞相も「こちふかばにほひおこせよ」とよみ玉ふ。
※ 「哥」は、歌。
※ 「菅丞相」は、菅原道真のこと。
迷
道にまよふを云。「たどる」とは「立とゞまる」也。道にまよひて、立とまる也。「たど/\しき」といふも「たどる」より出たることば也。『萬葉』には「たづ/\し」といへり。

石戰
「石打」也。「う」と「む」と通ず。「し」を略す。むかしは京都白川に「ゐむぢ」あり。寛永年中まで、三条河原、今出河原にもありしといふ。諸国にもあり。みな五月五日なり。紫野には正月の頃ありしと云。
始は両方より小児出合て、たがひに小石を以うちあひ、やうやく大人も出て、大なる石をなげけるが後には、處によりて棒をたづさへ、ほこをもち、刀をぬきてたゝかひける。或、かうべをうちわられ、かたをくじかれ、手足をそこなふ。近代、いづくも制ありてやみぬ。朝鮮國にも五月五日に石戦ありしよし、『東國通鑑』にしるせり。
※ 「石戰」の読みの「いんぢ」は、印地。印地打のこと。
※ 「東國通鑑」は、李朝前期に編纂された歴史書。参考:『東国通鑑』(国立公文書館デジタルアーカイブ)

出典:国立国会図書館デジタルコレクション
『尾張名所図会 前編 巻3愛智郡』
■名 (■は言+虍+巳)
「しこ」は「■(■は言+㬱)」也。そしる事也。其人のあしきくせをそしりて名づくる也。もろこしにも『謔名録』とて「しこ名」をしるせる書あり。是はたはふれに名づくるをいへり。
※ 「■名」は、譃名。参考:『類聚名物考 第3冊(譃名)』『日本教育文庫 訓誡篇 中』『倭訓栞 : 増補語林 上(あざな)』『姓氏と家系』(国立国会図書館デジタルコレクション)
※ 「たはふれに」は、戯れに。
吃
「とまる」也。物云事とまりて、云事あたはざる也。
筆者注 ●は解読できなかった文字を意味しています。
新しく解読できた文字や誤字・誤読に気づいたときは適宜更新します。詳しくは「自己紹介/免責事項」をお読みください。📖
