【救荒植物】飢饉年乃食物(鳩居堂主人)
この本は、天保の大飢饉がピークになった翌年の天保八年(1837年)に出版されています。著者は、現代も書画用品や香の老舗として続く「鳩居堂」の御主人です。飢饉を乗り切るための知恵(救荒植物の種類、粥・雑炊のレシピなど)や流行病の予防などについて書かれています。
※ 天保の大飢饉は、天保四年(1833年)から天保八年(1837年)にかけて発生した飢饉で、江戸時代の四大飢饉のひとつです。
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きゝん年の食物
くず
根をつきくだき、しるをとり、すいひし、だんごにす。わか葉は、あぶりてくらふ。ふる葉は、馬にくはす。
※ 「すいひし」は、水簸し。水中に沈殿させて葛の粉をとることを指していると思われます。
わらび
ぜんまい
根のこしらへ様、右に同じ。わらびばかりくへば、やまひをうく。
※ 「やまひをうく」は、病気になるという意。参考:『ことばのはやし:日本大辞典(かぜひく)(つつみ)』(国立国会図書館デジタルコレクション)
からすうり
かたかこ
いづれも、かはをけづり、こまかに切、四五日水にひたし、つきくだき、袋にいれ、見ずにふり出し、すいひし、焼もちなどにす。
※ 「かたかこ」は、堅香子。カタクリのこと。
とちのみ
いちいのみ
でんぐり
ほうすのみ
いづれも、かはをけづり、あくにてゆで、水にひたし、ほしてこにし、何にてもまぜて、だんごにす。又、なかれにつけて、一夜おき、煮てもくふ。
※ 「ほしてこにし」は、干して粉にし。
※ 「なかれにつけて」は「流れに浸けて」で、流水にさらしてという意味でしょうか。
すゝだま
めしかゆにす。又、こなにしてだんごにす。此なりのすゝ球よし。
※ 「すゝだま」は、イネ科の植物のジュズダマ(数珠玉)のことと思われます。参考:『ことばのはやし:日本大辞典(すすだま)』(国立国会図書館デジタルコレクション)薏苡。
※ 「めしかゆ」は、飯粥。
※ 「此なり」は、このような形という意。

はす
わかばはゆでる。実はつき、くだき、かゆにも、だんごにもす。
おにばす
くきも葉もあくにてゆでる。くきは、かはをとる。ねはにる。実はかはを取、めしにも、もちにもす。
ひし
かはをむき、むし、にる。又、ほして、こなにし、もち、かゆにす。くきもほして、米などをまぜてにる。
ひるがほ
ねは、塩をまぜ、むし、にる。又、さらし、ほし、つき、くだき、飯にまぜる。又、うすにてひき、やきもち ● す。
ところ
横にきざみ、煮て、一日ながれにさらし、又、あくにて煮、水をかへ、二日ほどおき、何にてもまぜてくふ。
おにゆりのね
ひめゆりの根
葉はゆでる。
ほどのね
くろくはい
山のいも
はこべ
たんぽゝ
ちゝのはれたるに、煮てしるをのむ。
いたどり
さんごによし。はらみ人にどく。
※ 「はらみ人」は、「孕み人」で妊婦のことと思われます。
なづな
かしう
※ 「かしう」は、タデ科の植物のカシュウ (何首烏)のことと思われます。

ほうきゞ
へうな
龜とくひあはせ。
※ 「へうな」は、ヒユ科の植物のヒュウナ(莧菜)のことと思われます。
すべりひゆ
わらびとくひ合。はらみ人、子供にどく。
おになづな
うど
くきも、葉も。
よめがはざ
今いふ、のぎく。
やまにんにく
けいとう
痔によし。
しそ
鯉とくひ合。
みゝな
しろよもぎ
くこ
あけびのわかめ
さいかちのわか葉
※ 「さいかち」は、マメ科の落葉高木のサイカチ(皁莢、皂莢)。
またゝびの葉
すいかづら 花とも
かまのつの
皮をとる。
※ 「かまのつの」は、がまのつの(蒲角)。蒲荀。参考:『日本類語大辞典(がまのつの)』(国立国会図書館デジタルコレクション)
すぎな
はゝこ草
五行蒿とも云。
べにのなへ
はらみ女とじんきよにどく。
※ 「じんきよ」は、腎虚。
よもきの葉
※ 「よもさ」のように見えますが、印字の欠けと考え「よもき(よもぎ)」と読みました。
つるむらさき
こうほね
右いづれも、塩をまぜ、ゆでゝくふ。
しろくはい
根はあくにて煮、皮をとれば、ゑごみなし。わかきくきは、あぶりてくふ。
※ 「ゑごみ」は、えぐみのことと思われます。あくが強くいがらっぽい感じがすること。
山ごぼう
根も葉も。
しようぶ
おけらの根
くろかはをとる。
いづれも、きざみて、あくにて煮、両三日水にひたしてのちくふ。
なるこゆりのわかめ
根も。
ねぶのきのわか葉
※ 「ねぶのき」は、ネムノキ(合歓木)。
くはの葉
もゝの葉
まる葉
やなきの葉
ほそながき葉はわるし。
りやうぶ
ゑんじゆ
花も葉も、落葉も。
※ 「ゑんじゆ」は、マメ科の落葉高木のエンジュ(槐)。
はりぎり
はりのある木なり。
※ 「はりぎり」は、ウコギ科の落葉高木のハリギリ(針桐)。
くぬぎ
うすかは、ほうすの木と云。実もわか葉も。
※ 「ほうすの木」 参考:『大垣市史 上巻』(国立国会図書館デジタルコレクション)
藤のわか葉
さん婦にはどく。
右いづれも、ゆでゝ水にひたし、めくをとり、塩をいれてくふ。
米のさやぬか
二三日水にひたし、かきまはし、水をかへ、あくをとり、日にほし、いりて、こにす。米のこなどにまぜ、だんごにし、又、湯茶にかきたてゝくふ。
※ 「米のさやぬか」は、イネ科のサヤヌカグサ(鞘糠草)のことでしょうか。
※ 「こにす」は、粉にす。
※ 「米のこ」は、米の粉。
わら
根本四五寸、末五六寸切すて、二三卜つゝにきざみ、水にひたし、日にほし、ほうろくにていり、うすにてひき、ふるひにかけ、其粉に何にてもまぜ、だんごにす。
※ 「卜」の漢字は、誤読しているかもしれません。意味としては、長さの単位「分」と思われます。一分は約3ミリ。
松のかは
老木ほどよし。内うらのあまかはゝにがし。外のあらかはをうすにてつき、ふるひにかけ、かまへいれ、粉一升に水二升ほど入、にえたてゝ、一夜ふたとらずおきて、上水をながし、布にてしぼり、何にてもまぜて、だんごにす。又、日にほして、こうせんにもす。
※ 「こうせん」は、香煎。はったい粉、麦こがしなどのこと。
ぼうし花
ほうづき
ほうせんか
がゞいも
はげいとう
うこぎ
ゆきのした
のにんじん
かんぞう
しの葉
右いづれも、水にひたして、あふら、塩をいれてくふ。
うつほ草
あくにて煮、二日ほど水にひたす。秋のくれ、葉もくふ。
まこものめ
ゆでゝ塩をいれる。又、実をつきて、米などにまぜて、かゆにす。
よしのめ
いまだ土中にあるものよし。こしらへやう、右におなじ。根はなまにてもくふ。
※ 「こしらへやう」は、拵え様。
おほばこ
めなもみ
こくさき
じんきよの人はどく。
※ 「こくさき」は、ミカン科の落葉低木のコクサギ(小臭木)のことと思われます。
のひる
根とも。
けたで
すみれ
すもとりぐさなり。
右いづれも、わか葉をゆでゝ、一夜水にひたし、あく、ぬめりをとりてくふ。
※ 「すもとりぐさ」は、相撲取草。スミレの別名。
わたふき
山ふきとも、のふきとも。
つわ
葉も、くきも、花も、ゆでゝくへ。つわのくきは、ほしても用ゆ。
どくたみ
根をむして、めしにまぜる。塩をいれる。
おにあざみ
こあざみ
さはあざみ
いづれもあくにてゆで、水にひたす。二三寸のときは、ねもくふ。

かやひきくさ
野むぎとも、からすむぎともいふ。つきて、皮をとり、だんごにす。又、葉もつきて、米にまぜ、だんごにす。
せり
ひる子をひりつくるは、どく。赤せりは、どく。
右いづれも、塩をまぜるがよし。水にひたすものは、いく度も水をかへるや、草の根、木の葉の類に、油を入れば、やはらかになるや。
※ 「ひりつくる」 参考:『倭訓栞:増補語林 下』『伴信友全集 第2(ヒリツクル)』(国立国会図書館デジタルコレクション)
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天保八年酉三月
本居氏印施翻刻
※ 「印施」は、世のためになることを印刷して人々に知らせること。いんせ。
※ 「翻刻」は、印刷出版された本を新たに活字に組んで出版すること。ほんこく。
米を一倍に用ふる法
黒米を煎てよくあらひ、まへ日より水につけおき、米壹升に水二升五合ほどいれてたけば、大にふえて、是をくへば腹持よく、多くくはずとも飢をしのぐ。かへつて、多くくへば胸つかゆるなり。
※ 「一倍」は、ここでは二倍の意味と思われます。
※ 「まへ日」は、前日。
※ 「壹」は、一。
米壹合にて、五人一度の食になる法
あかみそ廿五匁ほどよくすりて、米のあらひ汁弐升にてたてゝ、此中へ、米壹合、大こん三四本、里いも小半升、こまかにきりていれ、よく煮て、なべをおろす時に小麦粉を半合いれてかきまぜ、ちとの間うませてくふ。
※ 「ちと」は、些と。ちょっと。
※ 「うませて」は、蒸らしてという意味と思われます。
赤みそを多分に増す法
赤みそ一貫目の中へ、豆腐のから六升、塩六合いれ、よくかきまぜ、よく押つけ、日数三四十日たくはへおけば、味ひよきみそとなる。
じゑきのくすり
昔公義より御 ● あり
黒大豆をいりて壹合、かんぞう壹匁、せんじ、時々のむ。
又、めうがの根と葉をつきくだき、汁を取、多くのむ。
又、ごぼうをつきくだき、汁しるをしぼり、茶わんに半分つゝ二度のみて、其 ● 桑の葉を一にぎり火にてよくあぶり、黄色になりたる時、茶わんに水四はい入、二はいにせんじ、一度にのみて、あせをしてよし。もし、桑の葉なくば、枝にてもよし。ねつつよく、きちがひの如くくるしむには、芭蕉の根をつきくだき、汁をしぼりてのむ。
※ 「じゑき」は、時疫。流行病のこと。
じゑきをふせぐ法
醫学舘卯■翻刻(■は方+色)
呉茱萸と云物、一両井戸の中へいれ、其水をのめばうつらず。
雄黄と云粉を鼻の穴にぬればうつらず。
あづきを袋に入、井戸の中へ二日ほどいれておきて、壹人二十一粒つゝのめばうつらず。
蒼朮と皂莢といふ物を庭にてたけば、悪氣をさる。
十五日に東にむかひたる桃の枝をきざみて、せんじてゆをつかふ。悪氣をうけず。
※ 「呉茱萸」は、ミカン科の落葉小高木のゴシュユ。
※ 「雄黄」は、ヒ素の硫化鉱物 雄黄のことと思われます。黄色顔料として利用されていたそうです。
※ 「壹人」は、一人。
※ 「蒼朮」は、キク科のホソバオケラ、シナオケラの根茎。
※ 「皂莢」は、マメ科の落葉高木のサイカチのこと。

一さいどくけし
一切の食物のどくにあたりたるには、塩をなめ、又は、ぬるき湯にかきたてゝのみてよし。草木の葉にあたりたるには、弥よし。
又、かゆを湯のごとくに煮て、塩か、やき味噌をかきまぜて、度々すゝるべし。
草木の葉をくひ、はれたるには、うこぎの根をせんじてのむ。
竹のこにあたりたるには、せうがの汁をのむ。
喰物のどくにあたりて、腹はりいたむには、苦参をせんじのべば、喰を吐き出してよし。又、大豆の粉をいりて、さゆにてたび/\のむ。又、口鼻より血いでゝくるしむには、ねぎをきざみ、水にて能せんじ、ひやしおきて、幾たびものめば、血とまる。
茸るゐのどくにあたりたるには、忍冬の茎葉とも、生にてかみて汁をのめ。
芭蕉の根をつきくだき、其汁をのむ。一切のどくあたりによし。
※ 「せうが」は、生姜。
※ 「さゆ」は、白湯。
※ 「忍冬」は、スイカズラのこと。

天下之善一也 千里翻刻作者之喜如何
飢饉せざる心得書
但し、麦米一粒用ひずして、餓死せず、今銭ついやさずして、長寿する良法也。
一 去年来、麦米の價、高直にて、難義する人おほし。されば、わづかの物で飢を凌ぎ、かつえ死せぬ妙伝あるを廣く世上に告知す也。但、一日に四度食して一人前拾六文より廿四文ぐらいにて済事なれば、一日も早く此法を用ひて、父母妻子を安心させ、家内睦敷世渡し給ふべし。
※ 「高直」は、値段が高いこと。
※ 「かつえ死」は、餓え死に。餓死すること。
米泔の中へ蕪菜、又は、大根の根も葉も入、よく煮て、塩少し入て、食すれば、一年の間にても顔いろかはらず、力落ざる事、妙也。又、ねぶかもよし。芋類、芋の葉、大根、干葉もよし。又、葛粉、わらび粉、小麦粉抔少し入時は、ねばりて腹よくたもつ也。
※ 「米泔」は、米のとぎ汁のこと。
※ 「ねぶか」は、葱のこと。
御屋敷方、御寺方、大店方、造酒屋、餅屋、あめ屋など、世間、飢饉の時は米泔を溜置、日々施し給ふべし。常々も溜置給へ、日々利益あり。又、志ある人は、豆腐を食し給へ。きらずは、貧家の食に妙也。
※ 「きらず」は、おからのこと。

冥加を思はゞ、茶漬を慎で、白粥、又は、雑炊を用ひ、昼は麦飯を食し給へば、七の徳あり。
〔第一〕天● を休め、〔第二〕人を助、〔第三〕麦米を助、〔第四〕財を助、〔第五〕徳を助、〔第六〕身を助、〔第七〕子孫を助る理あるゆゑ、無上の大陰徳なれば、貴賤とも、ふ作をおそれ、ひたすら米穀を食のばし給へ。
※ 「陰徳」は、人に知られないように隠れてする良い行いのこと。
※ 「ふ作」は、不作。
雑炊の仕方
但し、此法にて三人前の喰分あるべし
一 白米二合、小麦粉一合、米泔四升、味噌五拾匁、塩見合、此中へ蕪菜、大根、ねぎ、菜、豆あづき、芋類、干葉、其外何なりとも沢山入よくたきて、一時うまし置て、食すれば、米寿を保べし。
かへす/\も、米麦を喰のばして三度とも粥、雑炊を用ひ、無病、長生を得給ふべし。ふ足なき身もこの通りをよく心得つゝしみ、うち捨おかず、他にもすゝめ弘め給はゞ、開運出世うたがひなく、功徳この上なかるべし。
※ 「米寿」 参考:『私用文語略解(米寿)』(国立国会図書館デジタルコレクション)
※ 「ふ足」は、不足。
天保八年丁酉三月
平安鳩居堂印施摹抄彫之妙在言外主人
● は解読できなかった文字を意味しています。新しく解読できた文字や誤字・誤読に気づいたときは適宜更新します。詳しくは「自己紹介/免責事項」をお読みください。📖
