【女大学宝箱】(30)京都色紙和歌(藤原定家詠花鳥十二ヶ月)

正月
柳
打なびき 春くる風の 色なれや
日をへてそむる 青柳のいと
春きては いくかもすぎぬ 朝戸出に
うぐひすきゐる まどのむら竹
二月
雉子
狩人の 霞にたどる 春の日を
つまどふきじの こゑにたつらん
さくら
かざしおる 道ゆく人の 袂まで
さくらににほふ きさらぎの空
三月
藤
行春の かたみとや咲 藤の花
そをだに後の 色のゆかりに
ひばり
すみれ咲 ひばりの床に 宿かりて
野をなつかしみ くらす春かな
四月
ほとゝぎす
白妙の 衣ほすてふ 夏のきて
垣ねもたわに 咲る卯の花
卯花
ほとゝぎす 忍ぶのさとに さとなれよ
またうの花の 五月まつころ
※ 「つまどふ」は、妻問ふ。
※ 「かたみ」は、形見。
※ 「さとなれよ」は、里慣れよ。

五月
盧橘
槙の戸を たゝく水鶏の 明ぼのに
人やあやめの 軒のうつりか
水鶏
ほとゝぎす なくやさつきの 宿がほに
かならず匂ふ 軒のたち花
六月
大かたの 日影にいとふ みな月の
空さへおしき とこなつの花
みじか夜の う川にのぼる かゞり火を
はやく過行 みな月のそら
七月
女郎花
秋ならで 誰もあひ見ぬ おみなへし
契りや置し ほし合の空
かさゝぎ
長き夜に はねをならぶる 契とて
秋待わたる かさゝぎのはし
八月
鹿鳴草
秋たけぬ いかなる色と ふく風に
やがてうつろふ もとあらのはぎ
初鳫
眺つゝ あきの半も すぎの戸に
まつほどしるき はつかりのこゑ
※ 「盧橘」は、ナツミカンの別名。ろつき。
※ 「うつりか」は、移り香。
※ 「なくやさつきの」は、鳴くや五月の。
※ 「みな月」は、水無月。
※ 「とこなつの花」は、常夏の花。ナデシコの古名。
※ 「う川」は、鵜川。
※ 「過行」は、過ぎ行く。
※ 「置し」は、置きし。
※ 「ほし合の空」は、星合の空。七月七日、七夕の日の夜空のこと。参考:『大日本国語辞典 第5巻 修訂(星合空)』(国立国会図書館デジタルコレクション)
※ 「契とて」は、ちぎりとて。
※ 「かさゝぎのはし」は、鵲の橋。七月七日、七夕の夜の天の川にかかる橋のこと。参考:『大日本国語辞典 巻1(鵲橋)』(国立国会図書館デジタルコレクション)
※ 「鹿鳴草」は、萩の別名。しかなぐさ。
※ 「もとあら」は、本荒。参考:『大日本国語辞典 第5巻 修訂(本荒)』(国立国会図書館デジタルコレクション)
※ 「眺」は、眺め。

九月
すゝき
花薄 草の袂の つゆけさを
すてゝくれ遊く 秋のつれなさ
うづら
人めさえ いとゞふかくさ かれぬとや
冬まつ霜に うづら鳴くらん
十月
残菊
かみな月 霜よのきくの 匂はすは
秋のかたみに 何ををかまし
鶴
夕日かげ むれたる田鶴は さしながら
時雨のくもぞ 山めぐりする
十一月
枇杷
冬の日は 木草残さぬ 霜の色を
葉からぬ枝の 花ぞまがふる
ちどり
千とりなく かもの川瀬の 夜はの月
ひとつにみがく 山あひのそで
十二月
早梅
色うづむ 垣ねの雪の 比ながら
としのこなたに 匂ふ梅がえ
水鳥
ながめする 池の氷に ふる雪の
かさなるとしを をしの毛衣
※ 「花薄」は、はなすすき。
※ 「くれ遊く」の「遊」は、誤読しているかもしれません。暮れ行く。
※ 「田鶴」は、たづ。
※ 「葉からぬ」は、『拾遺愚草』では「はがへぬ」と記されています。
※ 「千とり」は、千鳥。
※ 「をしの毛衣」の「をし」は、鴛鴦と年を惜しむの掛詞になっています。
※ 参考:『拾遺愚草 一』『乾山 京都篇』(国立国会図書館デジタルコレクション)
筆者注 ● は解読できなかった文字を意味しています。新しく解読できた文字や誤字・誤読に気づいたときは適宜更新します。詳しくは「自己紹介/免責事項」をお読みください。📖
