【生月島捕鯨】勇魚取絵詞(6)生月御崎浦 納屋場脊美鯨切觧圖
生月御崎 納屋場脊美鯨切觧圖


納屋場の前濱際に鯨を引寄れば、大別當をはじめとして、數多居合分掌の者ども、これかれ勤しみ、日雇頭の者、其日の鯨の大小に應て、人功を慮り、日傭を近村より召仕也。

鯨を剖割に、四断の法有。
第一に、頭鼻の下より目の下へかけ耳を限て、切離てるを「頭」といふ。
第二に、頭の下より胴の中ばかりに至て、断切たるを「あて」といふ。
第三に、あての下の大骨の処を切たるを「大骨」といふ。
第四に、大骨の下より尾際に至迄を「丸切」といふ。

此四断にしたるを切解に次第有。
第一に、潮吹より八寸さげ、両耳の下に廻して、皮を切はじめ、さて棚を切也。
第二に、左右の脊皮を丸切の際より剥也。
第三に、山の皮を剥也(頭の皮をいふ也)。
第四に、脊の赤身を取。此内に脊筋有。
第五に、左右の脇皮を剥、鰭を切離す也。
第六に、頭を切離し、髭、髷、舌を取也。
第七に、大骨を切離す也。此中に、うだきの赤身、及、筋有。
第八に、丸切を切離す。此中に筋有。
第九に、阿腹を切離し、其内の臓を巻出す。
第十に、尾羽毛、三合を切離也。
以上の十箇中は、本魚切六人の所作也。
※ 「尾羽毛」は、鯨の尾の部分。おばけ、おばいき、おばいけ。

第十一に、敷皮を取。
第十二に、開の元を取。
此二箇事は、中切の所作にして、大段を切離たるを、中切の者しかるべく切捌て、大納屋、小納屋、骨納屋、筋納屋など、それ/\に荷ひ納る也。

此間、近里の者、濱辺に寄来て、ひそかに鯨肉を盗取を「間太郎」といふ。
いかに禁るとも、とかくして懐にいれ、腰にまとひ、隠処にさへ挟持たるは、彼『宇治拾遺』に、大童子が塩引腰より捜出されけんこと、おもひあはされて、いとをかし。
※ 「『宇治拾遺』に大童子が塩引腰より捜出されけん」は、『宇治拾遺物語』の巻一に収録されている越後国から馬に乗せて運んでいた積荷から大童子が塩引鮭を盗んだ話のこと。参考:『宇治拾遺物語 15巻 [1]』(国立国会図書館デジタルコレクション)

かく、剖割荷擔の者集りて、山のごとき大魚を見るが内に、跡もなくとり運べるは、その作法よく整ひ、其所作よく手馴たればなるべし。
※ 「剖割荷擔」は、身を捌いて荷を運ぶの意。

※ 参考:『日本科学古典全書 第11巻 第3部(生月御崎浦 納屋場脊美鯨切觧圖)』(国立国会図書館デジタルコレクション)
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