【観音霊験記 西国巡礼】第八番大和長谷寺/春日の社人中臣信近

『観音霊験記 西国巡礼第八番大和長谷寺 春日の社人中臣信近』

觀音靈驗記 西國順禮 第八番大和長谷寺
いくたびも まゐるこゝろは はつせでら
山もちかひも ふかきたに川

春日の社司 中臣信近
後一条院の御代、信近(信清嫡男)蛇眼瘡を病て、医療百計手を盡せども、本腹なく、元来業病なるがゆゑ、神佛を祈るの外なしと、この長谷寺の観音を一信に念じければ、御寺の方より烏飛来りて、瘡のうちより小き蛇を喰出すと夢見けるが、忽ち苦痛をわすれ、程なく愈たるものから、大悲の利益を報ぜんと、長途の回廊を建立せり。
※ 「春日の社司」は、奈良の春日社の社司。
※ 「蛇眼瘡」は、蛇目丁という、できれば七日で死んでしまうという瘡のこと。参考:大和國長谷寺Webサイト「登廊」
※ 「業病」は、前世の悪業の報いによりかかるとされた難病のこと。

その外、未来男の霊驗、中将姫の灵驗、唐馬頭夫人の灵驗、新羅國照明王の后の利生、吉備大臣大唐にて野馬臺の詩を讀たる灵驗、源氏玉葛の尋ね給ふ人に逢し灵驗、住吉物語にも長谷寺の観音は戀路を祈るに能叶へ玉ふともあり。
※ 「利生」は、仏語。利益衆生。菩薩が衆生に利益を与えること。

已に、謡にも
足曳の 大和路や
大唐までも 聞ゆなる 初瀬寺に詣つゝ
と綴りたるも、宜なるかな。
古今の灵驗挙るにいとまなし。たゞ頼め信ずべし。

「未来男の霊驗」
参考:大和國長谷寺Webサイト「未来が鐘」「中将姫の灵驗」
右大臣藤原豊成の娘。藤原豊成と妻の紫の前のあいだには長い間子どもが出来ず、長谷寺の十一面観音に祈願したところ中将姫を授かったとされます。「唐馬頭夫人の灵驗」
参考:大和國長谷寺Webサイト「馬頭夫人」「新羅國照明王の后の利生」は、『宇治拾遺物語』に収録されている物語です。
参考:『宇治拾遺物語 15巻 [3](新羅国后金榻事)』(国立国会図書館デジタルコレクション)「吉備大臣大唐にて野馬臺の詩を讀たる灵驗」
遣唐使の吉備真備が唐の玄宗と謁見した時のエピソードです。玄宗から『野馬台詩』の解読を命じられた真備が読めずに困っていたところ、日本の神仏に祈ると蜘蛛が現れて解読できたというお話です。
参考:『吉備大臣入唐絵巻(第一巻)(第二巻)(第三巻)(第四巻)』(MFABoston ボストン美術館)『吉備大臣入唐絵巻(模本)』(文化遺産オンライン)「野馬臺の詩」
参考:『字文弁解 : 新刻階書 附・野馬台詩』『野馬台詩千字文弁解大全』(国立国会図書館デジタルコレクション)「源氏玉葛の尋ね給ふ人に逢し灵驗」
『源氏物語』の「玉鬘」に登場するエピソード(玉鬘が母夕顔との再会を祈願する初瀬詣で)です。「住吉物語にも…」
参考:「中世絵話し集め(住吉物語)」(兵庫県立歴史博物館 ひょうご歴史ステーションデジタル展覧会)「住吉物語絵巻」』(サントリー美術館コレクションデータベース)
※ 参考:『西国・秩父・坂東百観音霊験廻拝記』『西国三拾三所観音霊験記図会』『西国三拾三所観音霊験記図会』『西国三拾三所観音霊験記図会』(国立国会図書館デジタルコレクション)
筆者注 ●は解読できなかった文字を意味しています。
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