【語源】日本釈名 (16) 人品(守・孤・物部・宿祢・呉服部・掃部・鬼・佛など)

守
「かみ」は「上」なり。国中の上にあり。国司也。
助
は、「たすけ」なり。守をたすくる官也。守の次也。
丞
は、こえ也。訓にあらず。此字を「ぜう」とよむゆへ、四分配當の允掾など「ぜう」の音なけれども、皆「ぜう」とよめり。「丞」も「たすくる」也。助につぎて、守をたすくる官也。
※ 参考:『疑問仮名遣 前編』(国立国会図書館デジタルコレクション)
目
は、佐官なり。たすくる官なり。丞の次也。
※ 上述の「守」「助」「丞」「目」は、律令制における四等官の長官・次官・判官・主典を指しています。
士
主君の近所にさふらふ人なり。「さふらふ」とは、伺候しておる事也。下部は君のまへには近づきさふらはず。
孤
三十歳より内にて父をうしはひたる子を「孤」と云由、からの書に見えたり。又、父をうしなふを「失 ●」とからの書にいへり。「みなしご」とは「たのみなし子」也。上略也。父をうしなひてたのむべき人なきなり。
※ 「から」は、唐。
物部
神武天皇、日向より東征し給ひし時、物部の祖道臣命を以 軍の将とし給ふ。此故に、武士を「物の部」と云。
宿祢
『釈日本紀』云、古へ「皇子」を「大兄」と云。「近臣」を「少兄」と云。宿祢は、少兄の義也。「え」と「ね」と音通ず。一説「そこにねよ」といふ意『𦾔事記』に出たり。此説、不経なり。前説をよしとすべし。
※ 「釈日本紀」は、鎌倉時代に編纂された『日本書紀』の注釈書。
※ 「𦾔事記」は、旧事記。平安時代に編纂された歴史書『旧事本紀』のこと。
※ 「不経」は、道理に合わないこと。
※ 参考:『賀茂真淵全集 第2』(国立国会図書館デジタルコレクション)

舎人
「戸に入」と云意。「戸の内に入てしたしくつかふる人」を云。「小舎人」とは、中少将の召具する所のわらはを云由、花鳥餘情に見えたり。又、後代に馬かふ者をも「とねり」と云。是も「戸に入」意なるべし。
※ 「花鳥餘情」は、室町時代に一条兼良によって書かれた『源氏物語』の注釈書『花鳥余情』。『花鳥余情』(国立公文書館デジタルアーカイブ)
※ 「召具」は、供の者を連れること。めしぐ。
呉服部 穴織
「くれ」は「呉」也。「はとり」は「はたおり」也。「たお」の反は「と」也。「あやはとり」の「あや」は「漢」也。又、服部と云姓あり。是又「はたおり」の意。
秦人
『姓氏録』に曰、應神天皇十四年もろこしより秦の始皇の子孫融通王(一曰弓月)来り献ず。仁徳天皇の御世、秦氏を諸郡に分置て、蚕をかはしめ、絹をおりて、貢とせしむ。天皇の詔に曰「秦王の所 献ル の絲絹 朕服用するに、柔軟にして温 煖ニス 肌膚ヲ 賜フ 姓ヲ波多ヲ 」。是「秦」字也。訓なり。はだえをあたたむるゆへ「はだ」と云。
※ 「姓氏録」は、平安時代に編纂された古代氏族の系譜集『新撰姓氏録』のことと思われます。『新撰姓氏録』(国立公文書館デジタルアーカイブ)
※ 「弓月《ユツキ》」は、秦氏の祖、融通王のこと。弓月君。
※ 「肌」「膚」という漢字は、訓読みで「はだえ」と読みます。
靭屓
「ゆぎおい」也。「おい」の反は「い」也。「い」と「ゑ」と通ず。「ゆぎ」は「矢」をさす器也。
※ 「ゆぎおい」は、靫負。靫を負って宮廷諸門の警護にあたった者のこと。
※ 「ゆぎ」は、靫/靭。背に負う細長い箱の形をした矢を入れる道具のこと。

掃部
「かにもり」の轉語也。彦火尊の妃 豊玉姫の彦瀲尊をうみ玉ひし時、海浜に宮をたてしに、●の忍人の命●を以て蟹をはらひ、しきものをつかさどりて、以て職とす。名づけて「蟹守」と云。右『古語拾遺』に見えたり。後代、禁中の掃除をつかさどる官を「掃部」を云は、此事によりおこる。又、地にある物をはらひて取つくす事を「かりもり」と云も此意なり。
※ 「轉語」は、転語。
※ 「彦火尊」は、火折尊。
※ 「彦瀲尊」は、鸕鶿草葺不合尊。
※ 「古語拾遺」は、平安時代に編纂された神代の口伝拾遺集。『古語拾遺』(国立公文書館デジタルアーカイブ)
※ 参考:『広文庫 第5冊』(国立国会図書館デジタルコレクション)
刀自
『順和抄』ニ曰 列女傳ニ云 古語 老母ヲ 為 負ト 今按ユ 俗人 謂テ 老女ヲ 為 負ト 字 従フ 自ニ 也。今 訛 以 貝ヲ 為 自ト 欤。和名「度之」。
仙覚が曰、「刀自」は女を賞する詞也。「と」は「とめる」義。「し」は「あるし」の義也。「とめる主」と云詞也。
※ 「仙覚」は、鎌倉時代の万葉学者。
※ 参考:『雅言集覧 巻之10 増補(刀自)』『類聚名物考 第3冊(刀自)』『本居雑考 下巻』『近松語彙(刀自)』(国立国会図書館デジタルコレクション)
醫師
人の病をくすく故に云。「くすく」は「薬」より出たることば也。「し」の字、「師」の音にはあらず。「くすく」の「す」と「し」通ず。
尼
あまは梵語也。『釈日本紀』に出たり。
盗
梵語也。
仇
「あた」は「當ル」也。「我とあひ當ル」也。歒當の意なり。かたきを云。
※ 「當」は、当。
※ 「歒」は、敵のことと思われます。

囚
「こめし人」也。「獄中にこめし人」也。「こ」を略せり。「囚」の字のかたちにてしるべし。君よりめしとらるゝ人と云説あしゝ。君よりめさるゝは、よのつねの事也。罪ある人にかぎるべからず。
※ 「あしゝ」は、悪しし。
鬼
人死して、其霊あるを「おに」と云。「おに」は、俗にいはゆる「■霊(■は凵+米)」の事也。陰は音を以て訓とせし也。いける人は、陽也。死せる人は、陰なり。又、陰陽のたましゐをも「おにかみ」と云。古今の序に「目に見えぬおにかみ」といへるがごとし。又、陰邪の気をも鬼と云。「おにやらひ」と云も、陰邪の気をおひやる事也。天竺にて、角あり、牙出て、其かたちおそろしき物を「夜叉」と云ふ。日本の俗は、「夜叉」を「鬼」と云。一説「おに」は「陰」也。「おにかみ」は眼に見えぬものなれば也。
※ 参考:『広文庫 第4冊』(国立国会図書館デジタルコレクション)
佛
「ほと」は「人」也。「ほ」と「ひ」と通ず。「け」は「きゆる」也。「きゑ」の反「け」也。「佛」は人のきえたる也。今の俗、死せる人を「ほとけ」と云が如し。𦾔説に曰、佛は「ほとける」と云意解也。からの書に、佛は覚也と云義と同じ。又、一説「ほとほけ」と云。又、「ぶつ」と「ふと」と通ず。浮屠教也と。皆、附會せるなるべし。只「人きえ」の説よろし。
※ 「附會」は、こじつけること。付会。
※ 参考:『古事類苑 第27冊』(国立国会図書館デジタルコレクション)
筆者注 ●は解読できなかった文字を意味しています。
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