【観音霊験記 西国巡礼】第十九番山城京革堂/東山大工某

『観音霊験記 西国巡礼十九番山城京革堂 東山大工某』

觀音靈驗記 西國順禮 十九番山城京革堂
花を見て 今はのぞみの かう堂の
にはの千くさも さかりなるらん
※ 「にはの千くさ」は、庭の千草。

東山大工某
京東山の辺、岡嵜といふ所に住大工、常にこの觀音を信じ崇み、朝暮よく参詣いたしけるが、丹波の亀山に住む姨の十死一生を告来れば、俄に旅だちの用意をしけるに、その女房、密夫とかたらひて、焼飯のなかへ毒をいれ、夫を殺さんと工みしに、これを夢にもしらず、大工は先、革堂へ参詣して姨の病ひ道中平安を念じて、それより丹波路におもむき、堅木原より日は暮て、老の坂を越んとするとき、山陰より山賊二人立出て、残らず剥取れば、裸にて亀山に来り。
※ 「十死一生」は、ほとんど助かる見込みがないこと。
※ 「密夫」は、ひそかに人妻と情を通じる男性のこと。

その始末をかたる姨が子に、亀山音右衛門といふ角力ありて、これを聞、すぐさまその着類を取かへしに連立ゆきて見るに、その両人の山賊、かの毒飯を喰ひて、その辺に血をはいて死て居たるが故、うばゝれし衣類等は残らずとりかへせしとなり。
普門品に
呪詛諸毒薬 のろひ もの/\のどくやくにて
所欲害身者 みをがいせられんとするもの
念彼觀音力 かのくわんおんりきをねんずれば
還著於本人 かへつて ほんにんにつく
とあるは、是等のこと也。
※ 「呪詛諸毒薬」は、法華経普門品の偈のひとつ。

その女房も密夫も、ともに悪瘡生じてほどなく業死せしといふも、恐るべきこと也。
※ 参考:『西国・秩父・坂東百観音霊験廻拝記』『西国三拾三所観音霊験記図会』『西国三拾三所観音霊験記図会』『西国三拾三所観音霊験記図会』(国立国会図書館デジタルコレクション)
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