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索麪(そうめん)の工

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『広益農工全書 四

索麪さうめんを諸国より製出すると雖も、普通知る如く和州三輪の産を最上とす。精製品は雪白にして、晒苧より細く、其味淡美にして上饌に供ずるに堪たり。因て該地の製造法を詳らかに左に掲録す。

索麪の料と為す小麦は、専ぱら讃岐及び肥後の産を用ひ、(殊に蜂頭 はちかしら と名たる小麦を佳とす)ねばりに関東と呼ぶ小麦を合せ用ふ。(但関東産計りに非ざれども、其粘りに用るを此の如く呼ぶ也)

毎歳初夏の候に買入れ置き、秋分より翌年の春分迄を製造の期とす。殊に極寒の候に製するを寒切かんきりと称して最も上品なり。

小麦を粉にひくは、四人掛りの石碾いしうす 粉磨車こひきぐるま  と云ふ)にてき、精好せいがうの  箱篩はこふるひ  を以て二人にて篩ふ。(極上御膳索麪の粉は売品より一等細緻の精好にてふるふ)其一回篩ひたるを再び三等に篩ひ分ち、一番を「ツボオロシ」と云ひ、二番を「コバナシ」と云ふ。三番、四番、五番共に異名なし。是れ迄を上粉とす。六番を中粉ちうこと云ひ、其次をすへを云ふ。即ち糟屑くず也。(中粉以下は索麪に製さず、団子及び駄菓子の専業家へ卸し売にすれども、廉価の品に至ては、往々之を雜へ製す)

大約小麦一石五斗、即ち重量メカタ五十六貫二百五十目を精磨し、前の如くふるひ分ちて、最上品を製するには、僅に上粉八貫目より八貫三四百目を取り、(約そ元麦七分の一)中等品は二十七八貫目許を取る也。(約そ元麦の半量)


出典:国立国会図書館デジタルコレクション『広益農工全書 四

精製麦粉十一貫目を六名にて二つに分ち、三名五貫五百目宛を捏泥でつちるを一日の仕舞しごととす。其法、先づ捏桶こねおけへ昨日仕上たる索麪の棹に粘着つきたる者及び、切残したる「フシ」(下に詳らかなり)を取て桶の三分一迄入れ、水を半分迄澆で要時漬け置き、能く溶化したる後ち上水をしたみ去り、又水を澆ぎ入れ、而して新粉さらのこを加へ入る。其分剤ワリカタは麦粉五貫五百目、食塩しほ一升、清水六升(即ち一篭の元料也)を合和し、数回しばしば  こねて硬軟適度に至り、取出して板台ふみどこ(又捏板こねいたと云、長七尺、横三尺五寸許り)の上へ載せ、筵を覆ひ、草履ざうり穿はい踏展ふみのばすこと五六回にして手元へ巻取り、麦粉ねこまぶし(踏み随ひ粘気を生ずる故、筵の裡へつくを防ぐなり)

麦粉の捏(こね)たるを踏展(ふみの)す図
板台(ふみいた)

顛覆ひつくりかへして裡面ウラを表面と為し、再び前の如く踏広げ、厚さ三寸ぐらいに成れば両人にて踏み、一寸より七八分許の厚さに至りし時、先づ手のひらにてむらなく押均おしならし、次に麺棒めんぼうを縦横に輥轉ころがして平円にす。之を「小判こばん」と云。(但御膳索麪は手にてし、普通売品は皆な足にて踏也)


出典:国立国会図書館デジタルコレクション『広益農工全書 四


包丁を以て小判の中心マンナカより、幅一寸許に渦文うずまきごとく載り、手掌へ油を塗抹●リして外端の切口より軽手ソツトに引伸し、齊桶さいとう(径一尺七寸深五寸)の中へたぐ繰り込み、桶の周囲へ■の如くわだかまらせ入る。(此技を「板返いたかへし」と云)

小判を渦巻(うずまき)の如くに載る図
板返し(いたがへし)の図 齊桶

而して捏板の上へ油紙を敷て、桶中の麪を傾出あけいだし、再び前の如く齊桶さいとうへ手繰り込み、(此技を「油ラ返し」と云)桶の上へ油紙をおほひ、次に筵を覆ひ、亦こもかぶせ、二三時間放置してウマスせしむ。是れ「荒索麪」也。

是れ迄の展作しごとは毎朝六時より取掛り、九時に仕舞て朝飯を食し、其うますを待つ間だ、前夜々業よなべに仕上たる索麪を干し乾す等の操作を為して、時間空くせざる手順を要す。之を「仲仕事」と云。

午後桶中にうましたる「荒索麪」を、前の如く捏板の上に敷きたる油紙上に傾出あけいだし、手掌にてよりながら齊桶さいとうへ手繰り込み、亦板上へ傾出して齊桶へ手繰り込む。(此技を「ほすめる」と云ふ)斯の如く為して反復三回す。(此最終の技を「小寄こよせ」と云)

小寄(こよせ)を捻(ひね)り延し
櫃(むろ)へ入る図 室箱(むろ)

〔麪を手繰るは、毎回手掌に油を塗抹して粘着を防ぐ。最上品は胡麻油を用ひ、次品は白油(即ち綿子油)を用ふ。其油量は大約二合許を費すべし〕


出典:国立国会図書館デジタルコレクション『広益農工全書 四


荒索麪を手繰り細めて既に三四回に及べば、漸次しだいに伸て細長ほそくなり、甚だしく体積カサを増しふえるにり、前の齊桶より容量一倍大なる齊桶の内へ手繰り込み、亦油紙を筵に覆ひ、二三時間 うます こと前の如し。其熟度じゆくどを量つて取出し、掛台に掛けること図の如し。(此時夜に至る)

掛台 管竹

先づ管竹くだたけ二本を掛台の二孔へ挿し「小寄こよせ」(即ち桶中の索麪)を取てひねのばながら、藻刈懸もがりかけ(染工にて布を干す如く掛るを云)にし、竹を抜て熟櫃むろのうち架桟かけさんわたし入れ、畫く納れほわつて後ち、はこより一掛宛取出し、一方の竹端を両足の拇指おほゆびに挟み、一方の竹端を両手に持ち、しづ々に引伸して亦櫃へ納る。之を「小引」と云。

小引の図

皆斯の如くして むしろ 或はこも二三重を櫃に蓋せ、うまして翌朝に至る。之を「フクラ」と云。(但並品は櫃に入れすぐ直ちに室内に掛る)翌日仲仕事の時之を出してはた(俗に索麪干と云)に附け込こみ次法の如し。


出典:国立国会図書館デジタルコレクション『広益農工全書 四


先つ一端の管竹くだたけを機の上貫うはぬきあな挿込さしこみ一端の管竹を両手に持ち、そつと引て稍や伸たる時、中貫の孔へこみ、二尺許の竹箸を以て麪縷めんろうの  錯雜コムラカル  せざる様に、漸次しだいに上より下へ分け伸すを「荒分あらわけ」と云。稍や燥ひて益々伸るを候がひ、下より上へ分け伸すを「下箸したはし」と云。斯の如く十分引伸して愈々細長に成たる時、中貫へ挿たる管竹を抜て下貫の孔へさし込み、直ちに竹箸を以て最上より分け下るを「小分こわけ」と云。既に「附込つけこみ」終れば、管竹を抜て順次に他の 移機うつしばたおくさしさらし乾す。但移し機は上貫の下へ左右に六寸もと宛小板を挿し加ふ。之を揚板あげいたと名く。(板は三片に分つ)

附込の図

是索麪の乾くに従ひ漸々短縮するに由●、此の揚板を抜て上貫をおくり下げ、ゆるめること二三に及ぶ也。盡く「附込」たる後ち風日に乾すこと午後二時間ばかり。但し晴天なれば一回干て乾くべし。雨天なれば翌日亦干て乾す也。(若し干上るの際だ霖雨に遇ば、麪中含む所の塩分、潮解して乾き難し、故に雨天の時は室内に納れて火力を以て乾す也)


出典:国立国会図書館デジタルコレクション『広益農工全書 四


全く乾き上れば、はたの下貫の管竹を抜て切離す。之を「フシキリ」と云ふ。(下に切屑を受る器あり。「ジヤレ」と名く)

フシ切の図 移し機 剪込台 フシ

上貫に挿たる管竹六本許を抜て右手に持ち、索麪の裾を左手に取て、剪込板きりこみいたの上に揃へ置き載板たちいたを当て切てたばとす。

索麪をきるに八つ切り、九つ切の二ようあり。九つ切は其載たる上下の両端を「ばち」と云。(形ち■此の如し)下品なり。

両端より二切目、三切目は、上みを最上品とし下を中等品とす。両端より四切目を俱ふ「片口かたくち」と云。五つ切目即ち中央を「福良ふくら」と云。共 |バチ|二|三|片口|フクラ|片口|三|二|バチ| に次品なり。

索麪を切る図 剪込板 切込包丁 載板

小杷こたばめかた 八匁、合せ杷は十二匁、中杷は二十目也。其他大杷は注文に応ず。他県へ出すは皆籠に納む。篭は底と縦二方へ載稿きりわらを敷き、横の二方は筵を引廻し、一篭皆掛かいかけ六貫目入(正味五貫五百目余、即ち前の元と卸し精麪の原量なり)とす。篭の四周へ青紙をはりて麪上を蓋ひ(之を四方紙と云)其上一尺二寸許稿わらを敷きおほふ。(之を置藁と云)

切索麪 長索麪 五百目入

而して篭のふたを為し、縄を周囲に二たすじ縛(から)げ、横縄へ封印をし六篭を一駄とす皆掛かいがけ三十六貫目、(正味三十三貫目許り)現今価格、最上品金三十五六円許、中等品金十六七円より二十四五円に至る。


出典:国立国会図書館デジタルコレクション『広益農工全書 四


御膳索麪を白髪しらが、又銀糸ぎんし、或は極細ごくぼそ、上白等のめいを以て分ちひさぐ。(皆製麪各家の私号なり)

上等切索麪は尺余に切り、三所宛青紙に巻き束ね、染色紙いろがみに包んで箱入にす。

中入無と云は、長索麪にして真中の結目へ切屑を隠し入れずに束ねたる也。(次品は結目へ麪の長短を揃へん為めに、載落したる短き屑を中入にして束ねたるなり)亦常品にも切索麪及び中入無と呼んで販く者あり。

五色索麪(草顔料にて各色に染たる也)平索麪(製法総て前に異なること無し、惟だ管に掛る時、指頭にて平目ずつら引伸して、干し上げたる者也)

近来夏索麪と称して、初夏の候に製する者あれども極めて下品なり。

大坂索麪は大概東京売品えどづみ也。色うす黒く太し。杷は小束にて一箱四百五十杷より五百杷宛入る。

凡て索麪は古製ひねを賞翫す。油気能く脱し燖減ゆでべりせざれば也。

茄子の南蛮漬けとたたみ素麺
Photo by mominaina


筆者注 ●は解読できなかった文字を意味しています。
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