【語源】日本釈名 (15) 人品(后・皇・尊命・宰・聖・吾兄子・吾妹子・彦など)

后
「き」は「きみ」也。「さき」は「さいはい」也。「い」と「き」と通ず。后は、君の 幸 する所也。「きさいの宮」とも云ふ。「さい」は即「幸」也。『萬葉』第一に「しかのからさきさきくあれど」とよみしも、「さきく」は「幸」也。さき草と云も「さき」は「さち」也。幸也。「幸魂」を「さきみ玉」とよむも「さき」は「幸」也。
※ 「きさいの宮」は、后の宮。
※ 「しかのからさきさきくあれど」は、『万葉集』巻一に収録されている歌。
楽浪の志賀の辛崎幸くあれど 大宮人の舟待ちかねつ
皇
「すぶる君」と云意。「すべら」は「すぶる」也。「ら」と「ろ」と通ず。帝王は天下をすべて治め給ふ。「ぎ」は「君」也。
参考:『国文註釈全書 第3編 訂再版』(国立国会図書館デジタルコレクション)
帝
帝王はいたりてたふとし。直にさすはおそれなれば、御門をさして云。もろこしにて陛下と云の類なり。
※ 「いたりて」は、非常にという意。
※ 「たふとし」は、尊し。
※ 「もろこし」は、唐土。
尊 命
神代『直指抄』に「御子」也。「と」の字はうつほ字也。「子」はすべて人の事也。人は天地の子也。御の字はたふとむ義也。又、御事と云説あり。それにても義はとほり侍るべし。『釈日本紀』に云、上天の御事をうけて奉行し玉ふ意也。「尊」は、いたりてたふとき也。「命」は其次也。次は又貴神の御事をうけて奉行する也。
※ 「うつほ字」は、空字。
※ 「たふとむ」は、尊む。
※ 「釈日本紀」は、鎌倉時代に編纂された『日本書紀』の注釈書。
※ 参考:『国文学研究史』(国立国会図書館デジタルコレクション)
宰
事をとる大臣を云。『釈日本紀』云、天皇の御言をもたしめ給ふ人也。

聖
「ひ」は美称也。ひいでたる也。「しり」は「知」也。聖人は上知の人なれば、萬世にひいでゝ道をしれる也。一説に「ふみしり」と云意。「ふみ」の反は「ひ」也。是も義はきこゆ。されども、聖人の智はひろし。たゞ文をしるにかぎるべからず。文をしるは、其一端なり。或説、非をしると云。此説甚悪し。凡こゑにて和語をとける説、おほくは用ゆべからず。
※ 参考:『広文庫 第16冊(ひじり)』(国立国会図書館デジタルコレクション)
兒
乳のみ子゛なり。『順和名抄』に曰、乳を含の義也。又、ちいさき子なるべし。
※ 「順和名抄」は、平安時代中期に源順によって編纂された『和名類聚抄』のことと思われます。
※ 参考:『古事類苑 第38冊(兒)』(国立国会図書館デジタルコレクション)
吾兄子
吾はしたしむ意。「兄」は「あに」也。こゝにては「夫」を云ふ。夫は年まさる故、兄のごとし。
吾妹子
「わき」は「わが」也。「か」と「き」と通ず。「も」は「いも」なり。女を「いも」と云。わかいもをつゝめていへり、「かい」のかへしは「き」也。又「いも」は「いもうと」也。こゝにては「妻」を云。妻は年わかくして妹のごとし。仙覚が曰、「わきもこ」とは女をいへば、第二の字「母」をよびて女声をとりていへり。
※ 「仙覚」は、鎌倉時代の万葉学者。
※ 参考:『仙覚全集(万葉集叢書 第8輯)』(国立国会図書館デジタルコレクション)
彦
「ひ」は、ほめたることば也。日は陽精なり。わが国にてもはらたふとぶ事なり。「こ」は「男子」也。男子をほめて「彦」といへり。
※ 参考:『古事類苑 第38冊(彦)』(国立国会図書館デジタルコレクション)

姫
「ひいでたるめ」なり。女をほめていふことば也。字書に、姫は女子の美称といへるがごとし。
賤
仙覚が曰、「しづ」とは「しつか」の略也。いやしき者は、㕝すくなくしてしつか也。篤信云、いやしき者は事しげくれど心は静也と云はゞ可也。凡いやしき者は、人につかへ、田つくり、あきなひし、うつは物をつくり、きこり、すなどりし、よろづのわざに昼夜しづかなるいとまなし。なんぞしづかなりといふや。
愚おもへらく、「しづ」は「しつむ」也。沈淪の意なるべし。位ひきゝを「しづむ」と云。『後撰集』に凡河内躬恒がしづめるよしをなげきてとかけるも、いやしき事をいへり。位たかくして後に位ひきくなるをのみ「しづむ」と云にあらず。もとよりいやしきをも「しづむ」と云。
※ 「篤信」は、『日本釈名』の著者、貝原益軒の名。
※ 「すなどり」は、漁をすること。
※ 「沈淪」は、深く沈むこと。また、ひどく落ちぶれること。
※ 参考:『広文庫 第9冊(しづ)』(国立国会図書館デジタルコレクション)
乳母
『順和名』に曰、「めのおと」と訓ず。母にかはりて子をそだつるを「めのと」ゝ云事、玉依姫、其あね豊玉姫にかはりて、うかやふき合せずの尊をそだて給ひしより申そめ侍る。「めのおと/\」と云義也。玉依姫は豊玉姫のいもとなれば、め●也。其事は『日本紀』神代巻に見えたり。
※ 「うかやふき合せずの尊」は、鸕鶿草葺不合尊。豊玉姫の子。後に、玉依姫を妻とし、四人の子をもうけました。
※ 参考:『国文註釈全書 第3編 訂再版』(国立国会図書館デジタルコレクション)

婦人
『古事記』に「手弱姫」とかけり。いふ意は、婦人は手の力よはし。「た」は「手」也。「をや」は「よは」也。「よは」と「をや」と通ず。
長
民のつかさを「おさ」と云ふ。「おさ」は「おさむる」也。民をおさむる也。
兵
「うつはもの」也。「う」を略せり。「つはもの」は、弓矢剱㦸などの兵器をたづさゆる故に、それをとりて武人の名とす。「兵」の字も兵器の名也。兵器の名をかりて武人の名とす。一説「つはもの」は「つよ者」也。
童
いまだ冠きざるを云。「わらは」とは「あらは」の意。冠きずして頭のあらはるゝ意なり。「あ」と「わ」と通ず。「へ」は助字なり。又、小児はこのんでわらふものなれば、いへるにや。からの書に、小児駭笑をしるといへり。
※ 「駭笑」の「駭」という漢字は、おどろく、びっくりするという意。
我彼
自語なるべし。「わ」はのどよりでる声内也。我に属す。「か」は牙音外也。「彼」に属す。一説「われかれ」は「わかれ」と云意也と。非也。「わかれ」とは「われかれ」と云意也。「われかれ」は「わかれ」と云意にあらず。我彼は本也。母也。わかれは末也。子也。末をとりて本をとくべからず。
※ 「牙音」は、中国音韻学における五音のひとつ。
※ 「外」は、ほか。他の意。
※ 参考:『古事類苑 第38冊(我彼)』(国立国会図書館デジタルコレクション)
筆者注 ●は解読できなかった文字を意味しています。
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