【西遊旅譚/司馬江漢】(15)生月島にて鯨漁を見る
『西遊旅譚』は、江戸時代後期、蘭学者で絵師の司馬江漢が記した長崎旅行記。行く先々の史跡名所、風土、なかでも長崎で見聞する支那船、オランダ船、出島、まぐろ漁、くじら漁などは挿絵も多くとても楽しい読み物です。天明八年(1788年)四月二十三日に芝門を出発。全五巻。
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十三日、此島も煤拂とて祝ふ事同じ。四時頃、鯨来るといふ。それより鯨舩にのり、櫓八艇にて矢のごとくはしる。尤、風やはらかにして、波のうねりは太山の如し。主刺(くじらつき)舟のおもてにたち、四方を乗廻るに、タカマツ(一名、シヤチホコ)潮をふき、山に映じ、煙の如し。
タカマツ来るときは、鯨逃去よし。タカマツは則、鯨を喰ふ魚なり。鯨いよ/\見えず。故に、舟を生月にかへす。舟中より西の方を望に、山々唐画の如し。
※ 「主刺」の読み「はざし」は、羽刺(羽指、羽差)。また、刺子、刃刺。

十六日早朝、鯨見ゆる。直に舟に乗出す。はしる事、矢の如し。彼方此方に鯨の背を出し、気を吹くを見る。夫より舟は、鯨の見る方へ追て走。尤、平戸島と生月島の間の海なり。鯨いづかたへ行しか見えず。
舟を生月島の方へ返らんとす時に、やうやく暮七時頃、大島の沖にて一艘の舩より鯨を見、魚■をうつ。旗しるしを見て、四方の舟、鯨の方におもむかんとはしる。十艘ばかりなり。つゐに鯨をつきとむる。●に巨魚(おほうを)の大洋海にて飛動(とびうごく)するを見るに、波涛(なみなみ)山の如し。
やうやく余が乗し舟を三崎といふ所に着る。日落て、初更過なり(三崎は鯨を切解所にして、居所よりは一里北の方也)。岩石に觸波の音を聞。此所に宿す。
※ 「魚■」の■は、矛+宗。昭和初期に出版された『西遊日記』では「魚矛」と表記されています。
※ 「初更」は、五更の第一のことで、現在の午後七時(または八時)から二時間ほどにあたります。

鯨漁の図
鯨、頭を出し、海上にあらはれ、気を吹。則、夫を見て、魚■を投。気を吹続れば、尾を出し波を扣て海底に入。
鯨舟は二十艘を出す。其外、勢子舟いづる。又、網舟を出す。「雙海」と名づく。
「一結」と云は、網舟二艘に通舟二艘なり。此島には「三結」を出す。三崎は皆 ● 六艘、網舟は大船なり。是、網を積出なり。
※ 「夫」は、それ。
※ 「扣」という漢字は、たたくという意。叩く。
※ 「勢子」は、狩の時に鳥獣を駆り立てたり逃げるのを防ぐ役目の人のこと。参考:『大日本国語辞典 巻3(勢子)』(国立国会図書館デジタルコレクション)

鯨を網にて得こと。網は縄にてつくる。浮木を付て幕の如し。海中に張置、その張たる網の方へ/\とくじらをおふ。網は七八間も海底に張、所々網を十間二十間に繋置。くじらその網にふれるときは、繋たる所より切れて、鯨の頭に冠。よつて、鯨、はしれども勞む。故に、舟近き、あし魚■は、鯨の背に舟を乗かけざれば、うつ事あたはず。■一鉾投とき、■に縄有。故に、舟は艘を引。又、一艘の舟来て、■をうてば、二艘を引。追々来て、投ときは、舟数をひく。
つゐに鯨はしる事遅し。自 夫、舩を囲で鯨の引方に行、又、頭を出し、潮をふく時に、劔(鯨を殺具なり)を投事、数々。爰におゐて、鯨、潮を吹事あたはず。只、気をのみ吹。
※ 「爰」は、ここ。

此とき、一人の若者海中に飛入、鯨の背にのぼる。その背を穿、大綱を曳透時に、鯨は又波を扣て海底に入。やゝ有て、あらはるゝに其人もとのごとく背に跨はたらく。
又、一人の者は、大綱を持 □ て、波の底に入、鯨の腹の下を旋出、それより舟二艘に柱をつらぬき、鯨を繋とめ、其舟を以引舟にして、涯の方に近く(是「持双」と云)。
鯨魚、いまだ死せずして、共倶に鰭をうごかして、港に至る。沖にて死すれば、沈没て、涯に ● る事 不能。故に、刺子心を配、かけひきして、剱を刺事を止しむ。
※ 「持双」は、持双船。二艘の船に太い柱を渡して、その間に捕えた鯨を結び付けて運ぶ船のこと。
※ 「不能」は、能わず。
※ 「刺子」の読み「はざし」は、刃刺。

余(江漢)、此漁舟に乗、鯨漁の趣を望む。刺子(勢子大将を云)水主者の働 ● に戦国の人の如し。
波は、鯨の血流出て、朱の色をなす。則、大島の沖(平戸の領島にて鯨の傳有)向海原は壱岐の國、對馬、遥に朝鮮の大海なり。
※ 「余(江漢)」は、著者の司馬江漢のこと。
※ 「平戸の領島にて鯨の傳有」は、誤読しているかもしれません。
※ 「全體」は、全体。
※ 「夜に●てはきらず翌朝●事を定む」は、夜に至てはきらず翌朝解事を定む、でしょうか。
※ 「對馬」は、対馬。
鯨は漸初更過、三崎に着(鯨を切解所なり)。潮は鯨の半を隱。故に、全體は不 見(夜に●てはきらず、翌朝●事を定む)。
夜半出て、是を見るに、潮干て、全體を満月の光にて見る。大さ十間餘の世美鯨也(世美は上品也)。鯨刺、又之助曰、この時刻にしてかくの如くなる事、此島に両三度に不 過。然ば、全體を見たるもの稀(すくなし)なり。
※ 「不 過」は、過ぎず。
※ 「然ば」は、しかれば。

魚■の圖 又、ヨロヅと云
此製、生鐵を以て作る。鯨に刺入、綱にて引。故に半より曲。
四尺五寸 柄ともに長さ九尺
同ハヤと云
此両のもの、鯨を見て、投刺具なり。
劍の圖
三尺餘 柄共に一丈三尺余
鯨を殺具也。
※ 「圖」は、図。

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『西遊旅譚 5巻 [4]』
※ 「圍圖」は、囲む図。

ケイシマ あみ舟
※ 「ケイシマ」は、生月島の北端にある鯨島のことと思われます。

鯨二ツ連(つれ) 吹潮勢 入勢

旗(はた)を以て鯨の方を招(まねく)
参考:『西遊日記』『鯨幾太郎』(国立国会図書館デジタルコレクション)
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