#56 誰もよまない手紙
私にはふたり、父がいる。
ひとりは美容師の父
もうひとりはオキナワの父
オキナワの父は、いわゆる戸籍上の父である。
オキナワの父(ウルトラの父みたいだな)は
私が二十歳の時に母と離婚した。
父と母は中学の同級生
大学の時にばったり街中で再会し
父からアプローチして交際、そのまま結婚
それなりにお互い好きだったのだと思う。
でも、いろいろ
私の知らないこともいろいろあって
いつしか、母にとって父は透明人間になった。
意識して無視しているわけでもない。
本当に見えなくなってしまったのだ。
私は2人とも好きだった。
傷ついて疲れ果て、父の存在を消すしかなかった母を守りたかったし
私にお風呂でお湯をかけられて、ワハハと無邪気に笑う父の笑顔を信じたかった。
でも、父はひとりで生きたい人だと思った。
だから、私は母と生きることにした。
離婚後しばらくして、建築関係の会社に勤めていた父は早期退職し
ガウディのサクラダファミリアや、インドのガンジス川を観光した後、オキナワに移住した🌺
オキナワでは、畑を耕しヤギを飼い
ほぼ自給自足の質素な生活をしていたようで
好きだったお酒もタバコもギャンブルもやめていた。
オキナワの父からは、毎年夏になると立派なマンゴーが届いた。

私はお礼のメールに子供たちの写真をそえていた。
バレンタインデーにオキナワの警察署から電話があった。
住んでいたアパートの部屋でうつ伏せに倒れていたところを、宅配の人が見つけてくださったそうだ。
脳出血だった。
生前エンディングノートを預かっていたので
本人の希望通りにバタバタと手配した。
色んな手続きに振り回されて
まだなんの感情も湧いてこない。
私は薄情なんだろうか。
明日の早朝の飛行機で沖縄に向かう。
その次の日にお別れする。
父の過ごした部屋を見たら
何か感じることもあるだろうか。
父が眺めた海を見たら
涙を流すこともできるだろうか。
まだ、それは分からないけれど
1つ決めたことがある。
父に手紙を書こう。
それを父と一緒に燃してもらおう。
私の中の小さい女の子を、父に連れて行ってもらおう。
「行かないで」
本当は叫びたかった小さな私を
一緒に連れて行ってもらおう。
自分勝手に生きた父へ
私のこのくらいの自分勝手は許してチョーダイね!
ゆいこより
