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「仕事やめたら家売っちゃうよ」

山根あきらさんの企画に参加させて頂きます。また画像も使わせて頂きありがとうございます。自分の発想にはない「お題」からいつも様々に学ばせて頂いています。

もやづなとは、船をつなぎとめるために用いる綱です。

音楽を聴きながらお読みください。


20代後半、荒れた中学校に勤務していた。その当時「女性教師が生徒に刺された」という事件なども全国ニュースで耳にしており、他人事には思えなかった。

化粧をして投稿する子、ピアスを開けている子、隠れてたばこを吸う子、廊下を自転車で走る子、三階から机を落とす子、学習に意欲のある生徒がいる一方で、現実はなかなか厳しかった。

その当時のベテランの先輩も、放課後の職員室で「仕事やめたい」とつぶやいていた。私も毎日のように仕事をやめたかった。

夫は教員ではないため、家で仕事の話はほとんどしなかったのだが、その当時は、あまりにひどい事があると家で仕事の愚痴をこぼしてしまうこともあった。


私が仕事を辞めたがっていると察知したのだろうか?
「仕事やめたら、家売っちゃうよ」と私に言った。結婚して間もなく、実家の近くに家を建てていたのだ。


この言葉は、どんなに過酷な状況であっても「私と仕事をつなぐもやづな」となった。


この当時、自分の無力感を感じる日々を送っていた。授業も目先の楽しいことを入れないと集中できない状況だった。英語の授業の開始部分で英単語ビンゴをやったことが記憶に残っている。

それから十年ほど経過して子育てをしている時期の話。小学生だった長女の隣の席の男の子が、長女と同じ下敷きを買った話を聞いた。その男の子は長女のことが気になっていたのらしい。そんな話を男の子の母から聞いた折りに、「実は夫は教え子なんです。『先生だけは俺たちのこと見捨てなかった』と言っていました」一気に当時の光景が脳裏に浮かんだ。中学生だった頃の男の子の父親の顔も浮かんできた。

その言葉も、もうひとつ私のもやづなとなっている。無力だと打ちひしがれ、何もできなかったと思っていた時期に、誰かのためになっていることもあるのだと、とても勇気をもらった出来事だった。