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90年代、UKロック好き男子はだいたいモッズコートを着ていた。

90年代から00年代にかけて、CDショップやライブハウス、あるいは深夜のテレビから流れるMTVの映像の中に、私たちはある共通の「かっこよさ」を見出していました。

​それは、今のキラキラした「推し活」とは少し違う、もっと静かで、少し排他的で、けれど強烈に惹きつけられるカルチャーの塊のようなもの。

​今回は、元HMV店員としての記憶と、当時の空気感を思い出しながら、あの頃の「UK好き男子」という絶滅危惧種(?)について書き残しておこうと思います。

​「無口で気だるい」が正義だった時代

​当時の洋楽好き、特にUKロック界隈には、ある種の「制服」がありました。

​・オーバーサイズのモッズコート
・細身のパンツにドクターマーチンかコンバース
・少し伸びた髪と、気だるそうな目線
・指先にはラッキーストライク

​彼らは多くを語りません。ライブハウスの隅で、あるいはレコード屋の棚の前で、ただそこに漂う「空気」をまとっている。

​映画『さらば青春の光』や、Oasis、Blurといったバンドたちが作り上げたそのスタイルは、単なるファッションを超えて、一種の「思想」に近いものでした。

当時の「UK好き男子」は、ただ洋楽を聴いているだけではなく、そのカルチャーを“着て”いました。

ホフディランの小宮山雄飛さんが、まだ日本でそこまで一般的ではなかったOasisやWeezerのTシャツを自然に着こなしていた姿も、その象徴だった気がします。

「多くを語らない=センスがある」という、あの独特の美学。

​NMEを「解読」していた、あの熱量

​当時は今のようにSNSで即座に情報が入る時代ではありませんでした。

私たちは、輸入雑誌の『NME』や『Melody Maker』を手に取り、慣れない英語のスラングに苦戦しながら、必死に「推されてる感」を読み取っていました。

​全部を理解できていなくてもいい。

あのザラついた紙の質感や、コントラストの強いバンド写真、そこから立ち上がる「この空気が好きだ」という直感だけで、私たちは十分に幸せだったのです。

​COOKIE SCENEの付録CDを擦り切れるほど聴いて、知らないバンドの名前を覚え、HMVの試聴機の前で何時間も過ごす。それは、好きなものに少しでも近づくための、泥臭くも愛おしい「カルチャー掘削」の日々でした。

​少女漫画のヒーローと、現実のモッズ男子

​思い返せば、当時惹かれていた「モッズコート男子」は、くらもちふさこさんやいくえみ綾さんの漫画に出てくる、静かで少し影のある男子像ともどこか重なっていた気がします。

​高身長、細身、塩顔。

知的だけどどこか影があって、自分の世界をしっかり持っている。

「Olive男子」にも通じる、文化系で、少し気取っていて、けれど生活感は薄い。そんな彼らと同じ空気を吸っているだけで、自分もそのカルチャーの一部になれたような気がしたものです。

​煙の中の記憶と、大人になった彼ら

​今のクリーンなライブハウスしか知らない人には信じられないかもしれませんが、あの頃の記憶にはいつも「タバコの煙」がセットになっています。

インタビュー記事でも、MVでも、楽屋でも。煙の匂いと音楽の熱が混ざり合った、あの雑多で生っぽい感覚。

​あれから長い年月が経ち、当時のモッズコート男子たちも、今ではすっかり「先生」のような落ち着いた文化人になっていたり、相変わらず黒づくめで少しナルシスティックな格好良さを保っていたりします。

​あの頃、私たちが追いかけていたのは、単なる「イケメン」ではなく、その人がまとっていた「音楽と背景」だったのでしょう。

あとがき

ふと思い出すと、当時の音楽だけでなく、街の匂いや雑誌の重みまでがセットで蘇ってきます。

今はすべてが効率的で分かりやすくなったけれど、あの「正体不明のワクワク感」を追いかけていた時間は、今も私の中で大切な宝物として息づいています。

​CDショップの棚の前で過ごした時間も、輸入雑誌をめくった夜も、今となっては遠い記憶です。

それでも、モッズコートを見るたびに思い出します。

あの頃のUKロック好き男子たちは、音楽を聴くだけではなく、音楽を着ていたのだと。

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