ベルトラン・シャマユ/藤田真央::わりとよく聴くピアノ演奏 2つのアルバム
ピアノという一つの楽器だけで演奏されるアルバム。
彼らの演奏は表情豊かで、曲によっては一つの物語を感じさせ、小説を読んでいる気分にさせてくれる。
どちらも一人の作曲家(というには偉大すぎるけど)の楽曲が続くので、聴いていて雰囲気が変わらないところが心地よい。
RAVEL Complete Works for Solo Piano
(ラヴェル ピアノ独奏曲全集)
アルバムを知ったきっかけは ” Pavane Pour Une Infante Defunte, M 19 ” の演奏を何曲か聴いてみて、彼の演奏が自分のイメージに合ったから。
トゥールーズ出身のベルトラン・シャマユーはピアニストのプリンスと呼ばれているが、まだ30代前半の音楽家としては誇張表現だと考える人もいるかもしれない。しかし、彼の力強いリストの変ホ協奏曲は、古楽器を使用した初の録音であり(Ambroisie, 11/12)、彼の「巡礼の年」は録音史上屈指の名盤の一つであり(Naïve, 3/12)、その前には2006年に素晴らしい超絶技巧練習曲集(ヴォーグ)がリリースされている。メンデルスゾーンのソロ作品を収録した彼のアルバムは近年で最も魅力的な作品であり(Naïve, 10/08)、シューベルト(Erato, 5/14)とフランク(Naïve, 9/10)の録音は、チェリストのソル・ガベッタとのショパンの共演(Sony Clasical, 6/15)と同様に個性的である。しかしながら、これまでシャマユーは、フランスのピアニストにとって定番の作品であるラヴェルやドビュッシーの録音をほとんど行っていなかった。私自身、これからどんな作品が出てくるのか全く想像もつかなかった。
ここに収録されているのは、20世紀を代表する、最も親しみ深く愛されているピアノ曲の数々。息を呑むほどの美しさと比類なき力強さを兼ね備えた、まさに啓示的な演奏の数々だ。おそらく最も印象的なのは、その自然で飾らない表現力だろう。細部にこだわり、豊かなテクスチャーに溺れることなく、ラヴェルの和声は明確な目的意識をもって展開される。すべてがまるで言葉のように自然に流れ、正確に表現され、直接的で、紛れもなく誠実だ。ペダルは極めて巧みに用いられ、適切なパッセージをきらめくようなオーラで包み込み、楽曲の輪郭と色彩を際立たせる。それぞれの楽曲の根底には揺るぎないリズムがあり、そこから枝や花のように軽やかな脈動と、生き生きとしたルバートが生まれる。
大規模な舞台装置である Miroirs, Valses nobles et sentimentales, Gaspard de la nuit and Le tombeau de Couperin は、その多様性と独創的なコンセプトと演出で観客を魅了する。同時に、不安を掻き立てることもある。『Miroirs』では、まばゆい太陽の下で波に翻弄され、潮風でまだ濡れたまま、知り合いだと思っていた道化師のセレナーデに出会うが、実はそれは全くの別人だった。そして、霧のかかった谷にたどり着き、あらゆる方向から遠くの鐘の音が聞こえてくる。これは当惑させられる。同時に、本能的にスリリングでもある。『ワルツ』では、舞踏会の身体感覚的な陶酔感がはっきりと感じられるが、やがてそれがすべて夢だったのではないかと感じ始める。水に関する楽曲 The water pieces, Jeux d’eau, ‘Ondine’ and ‘Une barque sur l’océan’ は、カイユボットの描く池、モネの描く池、ターナーの描く海のように、それぞれが個性的な魅力を放っている。演奏は、音楽以外の何ものも忘れさせてしまうほどの卓越した技巧で、聴く者を音楽の世界へと引き込む。定番曲は、シロティによるTwo Hebrew Melodies (1914)からの「カディッシュ」の巧みな編曲と、アルフレード・カゼッラの「ラヴェル風に」で締めくくられる。
近年、ラヴェルの名演は数多く見られるようになった。バヴゼ、ティボーデ、ケフェレック、ロルティなどがその代表例だ。しかし、私の耳には、シャマユーの演奏は、深く個人的で、鮮やかで、他に類を見ない形で、ラヴェルの魅力を余すところなく伝えてくれる。フランス音楽や卓越したピアノ演奏を愛する人なら、この演奏を聴き逃す手はないだろう。
Mozart: The Complete Piano Sonatas
ピアニスト藤田真央氏を知ったのは、「別冊文藝春秋」の連載『指先から旅をする』を読んで。
こちらは聴き覚えのある曲があっても「アレ? こんな風に弾くんだ」と発見があって面白い。
かつては希少だったモーツァルトのピアノソナタ全集だが、今では明確でてらいのない古典派らしいアプローチのものから、ベートーヴェンのように感情を引き裂くような独創的モードで奏でるものまで、幅広いタイプの演奏で楽しめる。しかし、日本の新星ピアニスト、藤田真央にとって演奏スタイルはさして重要ではない。彼は音符の背後にある深い意味を探っているのだ。藤田はApple Musicにこう語る。「興味を持ったのでモーツァルトのピアノソナタの演奏をいろいろ聴いてみたのですが、私の録音は他のものとは全く違う視点を持っていると感じています。私は確信を持って自身の解釈を投影したかったのです。それぞれのソナタはまったく異なる性格であり、独自の物語や背景を持っています。私はその個性を伝えたいと思いました」
藤田のモーツァルトのきらめくようなテクスチャ、生き生きとしたアーティキュレーション、驚くほど安定した技術、透明感あふれる音色、そして思わず引き込まれるようなテンポによる演奏を聴けば、彼がこれらのソナタの全曲演奏を行なった2021年のヴェルビエ音楽祭で、センセーションを巻き起こしたのも当然だろう。このパフォーマンスに感銘を受けたSony Classicalはその場で藤田に専属契約のオファーをし、すぐさまベルリンでモーツァルトのピアノソナタの全曲を録音をするという異例の行動に出たのだ。一連のピアノソナタの中で最も有名な楽章の一つである『Piano Sonata No. 11 in A Major, K. 331』の「Alla Turca」でさえも、藤田の手にかかると、楽曲の魅力に初めて触れる演奏のような、新鮮な感覚が醸し出される。
一方、より刺激的でドラマチックな『Sonata No. 14 in C Minor, K. 457』では、モーツァルトが表現の限界に挑み、まだ未発達だった当時のピアノの可能性を押し広げようとしていた感覚を演奏に染み込ませる。藤田は「今でも多くの人たちが、モーツァルトは明るくて楽しい人だったと思っているようですが、実際は非常に複雑な性格の持ち主でした」と指摘する。「彼の作品には確かに陽気で爽やかなものがありますが、『Piano Sonata No. 8 in A Minor, K. 310』のように非常に暗くて、不吉な闘争心を感じるようなものもあるのです。18のソナタのすべてでモーツァルトの創造的世界のさまざまな側面を浮き彫りにすることが私の狙いでした」
ザワザワする日常から、気分を一拍置く時のお勧め。
出来ればイヤホンやヘッドホンではなくオーディオセットで😊
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