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日経平均5万円超えと機関投資家オプション取引


 2025年10月29日、日経平均株価がついに5万1,000円を超えて上昇しました。実は同日、トピックス(TOPIX)は下落していたにもかかわらず、日経平均は1,000円を超える大幅上昇を見せたのです。特に、半導体検査装置メーカーのアドバンテストという銘柄が一つで日経平均を約1,000円押し上げる形となりました。

出所)www.youtube.com/@AdvantestInc

 10月に入ってから日経平均が大きく上昇する一方で、トピックスとの上昇率の差がどんどん拡大しています。

 この背景には、機関投資家の投資行動が大きく影響していると私は見ています。この記事では、日経平均が5万円を超える中で、機関投資家たちがどのような取引を行っているのかについて解説します。

日経平均とトピックスの乖離

 10月28日までの時点で、日経平均は11.8%上昇し、一方でトピックスは4.7%の上昇にとどまっていました。そして29日、この差はさらに拡大することになります。月間ベースでこれほど乖離するのは珍しく、それだけ特異な相場展開と言えるでしょう。

 実は、8月以降の株価上昇局面でも、こうした「日経平均とトピックスの乖離」は何度か見られました。その裏側には、オプション取引に関連する機関投資家のヘッジ戦略が関係しています。

機関投資家が行うヘッジ取引

 多くの機関投資家、特に保険会社や年金基金などは、大量の株式を保有しています。しかし株価が大きく下がると、財務上の安定性が損なわれたり、評価損によって自己資本が減るなど、望ましくない状況に陥ることがあります。そこで株価の変動リスクを抑えるために「ヘッジ取引」を行うわけです。代表的な方法として、
 ① 先物を売ることでリスクを抑える「先物売りヘッジ」
 ② プットオプション(売る権利)を買うことで下落時に備える「オプションヘッジ」
の2つがあります。

 緊急性が高い場合は先物を売ることが多いですが、比較的落ち着いた局面ではプットオプションを買うケースが多く見られます。オプション取引は、権利行使価格を設定することでヘッジの範囲を限定し、コストを抑えることができるという利点があるためです。

プットオプションの基本的な仕組み

 例えば、日経平均が4万円のときに「3万円で売る権利」を買うとします。この場合、株価が3万円まで下がらなければ権利を行使する必要はありません。つまり、「万が一の暴落時に備える保険」のような位置づけになります。
 このようなプットオプションは、通常はあまり高価ではありません。しかし、機関投資家が取引する規模は何百億、何千億円にも及ぶため、オプションコストも何億円単位になることがあります。このコストをできるだけ抑えたい、そんなときに使われるのがゼロコストオプションと呼ばれる手法です。

ゼロコストオプションとは

 ゼロコストオプションとは、プットオプションの購入と同時に、コールオプション(買う権利)を売ることで、コストを相殺する取引です。具体的には、日経平均が4万円のときに「5万円で買う権利」を売ることで、そのプレミアム収入をプットオプションの購入費用に充て、コストゼロでヘッジを成立させます。この取引は、日経平均が3万円にも5万円にもならなければ、権利が行使されず、損益ゼロで終わります。

 しかし、もし日経平均が5万円を超えてしまうと、コールオプションを売った側に損失が発生します。たとえば日経平均が5万5,000円になった場合、差額の5,000円分、つまり10%にあたる金額を支払う必要が出てきます。

株価上昇時に起こる「踏み上げ」

 日経平均が5万円を超えて上昇すると、このコールオプションの損失が発生し、さらに上がるほど損失も膨らみます。ヘッジ目的の取引であるため、機関投資家は現物株も持っており、理屈の上では損はしていません。しかし、現物株の上昇益がオプションの損失で相殺されてしまい、思ったほど利益が出ないという状況に陥ります。

 このとき、機関投資家がとる行動が「先物の買い」です。

 日経平均が5万円を超えてさらに上昇しそうな局面では、損失を補うために先物を買い増ししてポジションを調整するのです。この動きが集中すると、日経平均先物だけが買われる展開となり、結果として日経平均だけが急騰し、トピックスは上がらないという現象が起こります。

銀行と生保も同じ構図に

 こうした取引はヘッジファンドだけでなく、銀行や生命保険会社などの国内機関投資家でも行われています。特に、政策保有株などを売却できない事情がある場合、オプションだけでリスク管理をしているケースが多いのです。現物株を売れないため、コールオプションで発生した損失だけが決済上の損失として計上されることもあります。

 つまり、株価が上がって本来なら含み益が出るはずの状況でも、会計上は損失が増えるという逆転現象が起きるのです。こうした投資家たちも、損失を避けるために先物を買いに回る。これが今回のように、日経平均が異常な強さを見せた背景のひとつと考えられます。

トピックスが置き去りにされた理由

 このように、ゼロコストオプションのコール売りの権利行使価格まで株価が上がると、機関投資家の先物買いが集中します。結果として、日経平均の構成銘柄だけが買われる形となり、トピックスとの乖離が一段と広がるのです。今回の5万1,000円超えも、まさにその典型的なパターンだったと言えるでしょう。短期間で株価が2割以上動くような相場では、こうした「踏み上げ」が起こることが多くなります。
 機関投資家がどの水準でオプションを設定していたかは明らかではありませんが、一般的には権利行使価格を2割以上離して取引するケースが多いとされています。

今後の相場への影響

 こうしたゼロコストオプションの権利行使によって踏み上げが発生した後は、時間とともに相場の歪みが修正される傾向があります。つまり、日経平均が上がりすぎた分、トピックスが追い上げるか、あるいは日経平均が調整するという形でバランスが戻っていくのです。
 このような仕組みを理解しておくと、今後のマーケット動向をより冷静に見ることができます。日経平均が5万円を超えるような局面では、単なる投資家の強気だけでなく、こうしたオプション取引の力学が大きく作用していることを知っておくと良いでしょう。今後ともよろしくお願いいたします。


ご参考(機関投資家記事のまとめ)

■ 機関投資家の株売却の裏側(2024/5/25)
■ 機関投資家の「騙し」について(2024/9/18)
■ ソニー生命の損失の発生原因とALMの解説(2024/9/26)
■ 下落局面での機関投資家の戦略と日本特有の動き(2025/3/11)
■ 野村證券の銀行業務への注力と証券会社の悲願(2025/8/14)

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