超長期債の利回り急騰は財政危機の兆候か
最近、超長期国債の利回りが急上昇しており、一部の国会議員や経済評論家の間で「これは日本の財政危機の始まりだ」といった論調が見られます。特に、これまで日本の財政が危機的だと主張してきた人々の間では、今回の金利上昇を大きく取り上げているようです。
この記事では、超長期国債の利回りが急上昇していることが、日本の財政危機を意味するのかどうかについて、私の見解を説明します。
財政危機との関連性
結論から申し上げると、長期金利が急上昇している要因は、日本の財政危機を示唆するものではないと認識しています。
多くの機関投資家も同じような認識だと思います。私は別にリフレ派というわけでもないし、「財政はどんどん拡大していけ」とか「国債は日銀がいくらでも買えばいい」などと主張している立場ではありません。そのような自分から見ても、今回の長期金利の上昇は財政問題ではないと考えています。
10年国債利回り
現在、10年物国債の利回りは1.5%程度まで上昇してきていると話題になっていますが、2025年3月のデータによれば、日本の物価上昇率は前年比でプラス3.2%です。生鮮食品や変動の激しい項目を除いた「コアコア」でもプラスです。つまり、10年国債の利回りは物価上昇率を大きく下回っているという状況です。
フィッシャー方程式に見る異常性
これはかなり異常なことで、経済学者フィッシャーが提唱した「フィッシャー方程式」によれば、長期金利は「期待インフレ率+実質金利」で構成されるものとされます。厳密には期待インフレ率と実績の物価上昇率は異なりますが、簡単にいえば、金利は物価上昇率より高くなるのが自然です。
よって、物価上昇率が3%あるのに金利が1.5%しかないというのは、むしろ異常に低いということです。
日常生活のなかで一般的に表示されている「名目金利」や実際に投資する際の判断材料となる「実質金利」との関係は下記の通りです。
名目金利-期待インフレ率=実質金利(フィッシャー方程式)
名目長期金利-長期の期待インフレ率=実質長期金利
(参考)名目短期金利-実際のインフレ率=実質短期金利
経済環境を考えれば、金利はむしろ上がって当然です。これまでが低すぎただけであり、5年〜10年といったスパンで見ても、今の金利水準は依然として低いと言えるでしょう。
長期金利上昇の要因
では、なぜ特に長期ゾーン、つまり20年~40年といった超長期国債の利回りだけが上昇しているのでしょうか。それは、需給のバランスが崩れているためです。
背景には、日銀による「イールドカーブ・コントロール(YCC)」政策の終了と、国債買入額の減額があります。日銀は過去10年にわたり大量に国債を買い入れてきましたが、現在はその規模を縮小中です。
YCC政策下では10年国債までがマイナス金利となり、投資家は利回りを求めて20年や30年といった長期債に殺到しました。その結果、自治体を含む多くの機関投資家が超長期債を大量に保有する構造になっていました。
宗像市の含み損問題は、決して特異なケースではなく、全国の自治体、企業、学校法人、地方金融機関など多くの機関が同じ問題を抱えています。
YCC終了による投資行動の変化
YCC終了と利上げの進行により、もはや投資家は無理に長期債を買う必要がなくなっています。そのため、超長期ゾーンでは需要が減少し、利回りが上昇しているというのが現状です。
このような需給の変化は予測が難しく、日銀の政策次第で市場のバランスが崩れることもあるため、超長期ゾーンでは不安定な状況が続いています。
ALM構造の変化も要因に
さらに、生命保険会社の資産・負債管理(ALM)にも構造的な変化が起きており、これも超長期債の需要減少に影響を与えています。
本来、生命保険会社の運用はALM(資産負債管理)の考え方に基づき、円建ての保険契約には円建ての長期債で運用するというのが基本でした。そのため、リスクを抑えるために株式をあまり持たずに、国内債券中心で運用してきた会社も多いのです。
発行年限の調整で対応可能
現在、超長期債の供給が需要を上回っている状況ですが、これは年限構成を見直すことで対処可能です。たとえば、5年債や10年債の発行額を数千億円程度増やす一方で、20年~40年債をやや減らせば、需給バランスは改善されると考えられます。
現状、毎月の発行額は以下の通りです。
2年債:2.6兆円
5年債:2.4兆円
10年債:2.6兆円
20年債:1兆円
30年債:8,000億円
40年債:2か月に1度7,000億円
もともと超長期債の発行量は相対的に少ないので、中期債へのシフトは十分可能です。ただし、財務省が柔軟に対応できるかは不透明で、現在は日銀・財務省・投資家の間で「様子見」の状態が続いています。
市場の不安定化は想定内
日銀としては、今後も国債買入を減らしていきたい意向が強く、多少市場が荒れても買入額を増やしたくないというのが本音でしょう。そのため、場合によっては一部の金融機関が経営危機に陥るほど市場が荒れる可能性も否定できません。
ただし、それをもって「日本の財政危機」だと結論づけるのは早計です。例えば、「日銀がこれから本格的に買入を減らしていく中で、投資家が国内債に戻ってくるとは限らない」といった指摘も一理ありますが、それはあくまで市場の変化に伴う調整の一環であり、財政破綻の兆候とは別問題です。
財政危機論への疑問と首相発言への見解
一部では、日銀の買入減少が進行することで「いずれ本格的な財政危機になる」と懸念する声もありますが、そのタイミングや規模は予測不能です。機関投資家は利回りと環境を見て判断するため、日銀の思惑通りに行動するとは限らず、今後も市場は一定の不安定性を伴うと見られます。
なお、最近、石破首相が「日本の財政状況はギリシャより悪い」と発言したと報じられましたが、私は、今回の超長期国債利回り上昇がそのような財政危機を意味しているとは考えていません。あくまでも、需給バランスの変化によって生じている市場の一時的な動揺であると捉えています。
結論と今後の見通し
現在の長期国債の利回り上昇は、財政危機の兆候ではなく、需給のミスマッチや政策変更に伴う一時的な市場調整の結果と考えるべきです。今後も一部の局面で市場が荒れる可能性はありますが、それをもって財政破綻だと結論づけるのは早計です。引き続き冷静な視点で市場動向を見守っていく必要があります。今後ともよろしくお願いいたします。
ご参考
マイナス金利の呪縛と、今後の長期的課題
日本の機関投資家はあと30年、あるいは40年にわたって、マイナス金利時代に購入した長期債を保有し続ける必要があります。
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